泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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晩秋の海は別れを誘う

第4話 メッキは剥がれる物

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 久保田くぼた蒼翔あおとは、瑠璃るりに別れを告げた後、本格的に伊藤いとう順子じゅんこと付き合い始めた。
 だが、料理が得意という言葉と裏腹に、いつも会えば外食。そして、あれが欲しいこれが欲しいの攻勢。

 中堅どころの会社でも、平社員の給料はバカみたいに多くはない。新人獲得のために上昇をした、新人の時の給料は一見すると多いのだが、それはずっと続く。

「なんか、異様に金が減る。なんでだ?」
 舞い上がっていた心が、婚約と共に落ち着いてくる。

 そして、月末。
 いきなり瑠璃るりが仕事を辞めた。
 心神喪失とかで、医者からやめるように言われたとか言う理由で。
 規定では退職の申請は、一ヶ月前と決まっているのだが、会社の方はそれを認めたようだ。彼女の側には、弁護士さんが同行していたらしい。

 それに、退職の前に調査をすると、思った以上に瑠璃るりの評判は悪く、どうせまともに仕事をしていなかったし良いかとなったようだ。

 ただ、一部の人間は真実を知っている。
 その事を言えば順子じゅんこから標的にされる。
 あの子がやめれば次は私だと、皆が考えた。
 そう彼等は弱く、会社へと真実を告げることなく耳と目を閉じ口を噤んだのだ。自分を守る為に……


 そう真実は一つ。
 仕事の大半を回されて、超高速でこなしていた瑠璃るり
 いなくなれば、それは当然の様に破綻をする。

 日々上司に、調子の良いことを言って、さも自分が仕上げたようなことを言っていた女が一人。会社ではそれ以後、仕事が出来ない人間が一人抜けただけとは思えない弊害が出始める。

「Q3の決算発表。資料はどこだ?」
「まだ出来ていません」
「明後日だぞ」
 瑠璃るりのまとめたデータは、社内クラウドに上がっていた。
 ただそれを整理して、まとめるだけの簡単なお仕事。
 そのはずだった……

 だあが、その資料をきちんと把握して、利用ができればである。データは未だ個人フォルダーにあり、共用フォルダーには、まだアップされていなかった。

 まあデータを見つけたとしても、人に任せっきりで、結局理解ができない彼女。
 先ずは何の資料かを、お勉強する事が必要。そこからなのだ。

 グループからの決算と取引。
 決算概要と業績見通し。IRに中長期戦略。
 その情報は多岐に広がり、会社全体を把握していないとまとめられない。
 そう、本当なら管理職のお仕事。

 彼等は、会議ばかりで時間が無くて、下の者に任せていた。
 ただそれが、虐めのために一人に回されていたなど知らなかった。ただ、暇そうね。などと言って、個々の人間が彼女へと仕事を回した。ただそれだけ……

 出来る人間が居たから、何とかなっていた……
 彼女でなければ、もっと前に破綻をしていただろう。

 彼等は、その最高の人材を切ってしまった。
 悪意のある噂を信じて……

 始まりはつまらない事だった。
 入社をして、仕事の出来ない人間が困るのは、仕事の出来る人間がいること。
 上司に取り入り、媚びを売って、彼女の仕事がやり辛いように仕向けた。サーバの上流側へのアクセス権が減り、ローカルな個人ホルダ-で、まとめていたのが、会社にとって被害を拡大させた。
 順子じゅんこは、仕事の出来る人間を駆逐して、仕事をせずに給料がもらえる楽な環境を作ろうとした。
 周りは、それに乗ってしまったのだ……

 そして、そのおかげで決算発表が延期。 
 株価はそれを受けて暴落をした……

 そして、やって来た内容証明。

 瑠璃るり和樹かずきにそそのかされて、やってしまった。過去との決別のために。
 最初、順子じゅんこだけを標的としていたのだが、周りの奴らもそれに乗ったんだろ?
 そう言われて、なるほどとなっとく。
 攻撃の対象を、周りに広げた。

 ついでに、和樹かずきの弁護士さんと、知り合いの医者が結託。攻勢が始まった。

 現在社会では、知識のある者が強者。
 色々と案が出て、その範囲は拡大していく。
 無論労働基準監督署へも、嫌がらせのために勤務データを提出。 
 瑠璃るりのやっていた、膨大な業務とサビ残の実体が報告された。

 決算前に、一人がやめたのは別に良い。

 だが、決算の一週間前になっても草案が上がってこない。普段ならクラウドに上がり、確認後の承認がされている時期なのにだ。無論会社側は、切羽詰まった状況となる。

 そんな中で、自分は優秀だと公言をしていた順子じゅんこ。彼女にデータの取りまとめと、草案を作れと名指しで依頼をした。
「優秀な君に任せるしか無い。三日で頼む」
「お任せください」
 そうは言ったのだが、そんな物をまとめる能力は無い。
 仕事をしていたのは、瑠璃るりなのだ。

 誰かに回そうとしたが、瑠璃るりファイルの存在は知られておらず、基礎データの確認とまとめで皆ゾンビ状態なのだ。

 集まっているデータ。
 Q2の書類を見ながらてきとうにやっつけるのだが、理解を出来ずに作ったものなど使い物にはならない。

 本当に仕事をさせたら、あっという間にゴテゴテに装飾をされた彼女のメッキは剥がれてしまった。

 そんな所に届いた、慰謝料の請求。

 だがその中で、瑠璃るりファイルの存在が知られて、会社は救われる事になる。
 ここは、彼女のフォルダー。
 業務用で、上司はアクセス出来るのだが、噂に踊らされた彼等は見ていなかった。一歩間違えれば、彼女が退職をしたために、削除する所だったのだ。

「この、データをまとめたのは誰だね?」
「それがその…… この請求を起こした当事者です」
「なに?」
 とうとう部長以上の管理職も、課内のゴタゴタを把握する事になる。
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