泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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極寒のイルミネーションは、奇妙な縁を繋ぐ

第1話 別れと出会い

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「何をするのよ」
 人混みの中で叫んだ彼女は清水しみず 美愛みあ
「混んでいるし、手を繋ごうよ」
「いや!!」

 相手は、大学で声をかけてきた男。
 名前は…… あれ?


 彼女は高校卒業まで、特に異性やファッションにも興味が無く、クラスの中で埋もれていた。

 自分のしたい事を優先する為には、異性など鬱陶しいだけだったのだ。
 それによく知らない人を相手にするのは、疲れる……

 そう、彼女は人との関わりを嫌う。
 すべては面倒だから。

 友人も特に作らずに、ただ自分のしたい事を優先した。

 小説や漫画を読みあさり、コマを割って絵を描く。
 オラは世界一の漫画家になる……
 などとまあ、幼い頃から憧れていたのだが、絶望的に才能が無かった。

 某投稿サイトには漫画の投稿も出来る。
 ドキワクしながら投稿した中学時代。
 泣きながら投稿をした高校時代。
 絶望して筆を折った大学時代……

 そう彼女の感想欄は、まるで世紀末。
 誰かが書いた酷評が酷評を呼び、荒れまくった後、誰も居なくなった……

「ペンネームを変えれば、きっと大丈夫よね」
 彼女は期待をした。
 だけど、絵を見ればわかる。

「つまんない」
「ぼつ」
「アシからやり直せ」
「…………」
 そう、これが高校時代。

「またこいつだよ」
「君には才能が無い。他の事を目指せ」
「ぼつ」

 とまあ、苦節五年何ともならず、彼女が夢見た世界はその尻尾すら掴ませてくれなかった。


 そこでまあ、ふと我に返り周りを見回した。
 そこには、彼女が妄想をし続けた恋愛とは違い、現実があった。

 彼女には恋愛どころか、友人すら居ない。
 それが結局、無理のある出逢いやストーリーを作っていた。

 人との関わりは難しく、いつも機嫌が良く「付き合って」「うん良いよ」などという始まりは、その前に何らかの関わりがあるはずなのだ。

「そうよ。経験がないのが悪い」
 彼女はそう思い立った。

 だが、教室にただ居るだけでは何も起こらない。
 周りを見て、ボサボサだった髪型が悪いのだと、分かれば東に美容院を求め、服装がダサいと思えば西に服屋さんを探す。
 南におしゃれな食を求め、北に喧噪があれば、カラオケに出会いを求めた。

 出逢いの秋に幾人かと知り合い、その種を細々と植えながら、暮らす姿をみて、目を付けられた彼女。

「今度、イルミネーションを見に行くんだけど行かない?」
 拾い食いが趣味の男。
 赤井あかい 逸人はやと
 彼は仲間から、常人の三倍速いと言われている男。

 女の子からも、早いだけの男と言われていた。
 無論あれの話しだ。

 彼は、仲間から山羊並みだと言われていた。

 山羊は天敵が多い。
 だから、出会って一秒という時間で交尾が終わるのは、有名な話しだ。

 まあ流石にそこまでは早くないのだが、彼はそう言う感じなのだ。

 そして、女の子に好まれるような百八十センチの身長と、細マッチョな体。そして、優しい笑顔。
 それを武器に、ナンパの成功率は高い。

 だが、したいだけなので、付き合いは淡泊でアッというまに振られて終わる。

 そんな彼は、彼女に目を付けた。

 残クレで買った大きめの車に、彼女を乗せて目的地へと走っていく。
 彼女に友達が居れば、きっと止めてくれただろうが、彼女には友達が居なかった。

 一見良さそうなお安いお店、ジュリアナパスタで、踊りながら店員が持って来たパスタなどを食べて、車は走る。

 だが、まだ時期の走りだが、すでに人が多い。
「混んでるな」
 そう言って、彼は手を繋ごうとする。

 だが、散々車の中で体を触られた彼女には、限界が来ていた。
 その気があれば、その行為は雰囲気を盛り上げる一助となっていたかもしれない。
 だが、日頃人との関わりが無い彼女にとって、それは逆効果だったようだ。

「何をするのよ」
 から始まって、
「いやです」
 手を払い、
「触らないで」
 まで一気に進んだ。

 そして、彼から慌てて離れて行く……

 そう、その後彼女は、少し冷静になって焦り始める。

 ここは人里離れた公園。
 イルミネーションとかイベントがない限り、めったに人が来ない。

 公園の周りには、車が大量にいるのだが、それを離れると山と川。そしてまばらに家がある。

 当然、その寒さは、町中とは比較にならない。
「さっ寒い…… まずかったかしら……」
 彼女は悩むのだが、自身の体を捧げてまで守るものでは無いと気合いを入れる。
 スマホで、送迎バスの時間を確認する。


 そんな彼女の横で、ぼーっと立っている男がいた……

 そいつは、大学の同級生が去って行った方向を見ていた。
 やっとの思いで声をかけて、一緒にイルミネーションを見に来た。

 だが寒いし、トイレに行った後、彼女は男にナンパされて、ひょいひょいとついて行ってしまった。

 トイレから出てきた彼は、男に肩を組まれて、嬉しそうに歩き始める彼女を見つめていた。
 メッセージの着信音がした。
「ゴメンお父さんが来ていたみたいで、ばったり会っちゃったの。まずいから一緒に帰るね」
 そんな言い訳……

「君のお父さんは若くて、お尻をなでるんだね」
 継父という事も考えられるが、通常のスキンシップではない。

 彼のメガネの奥で、まだデビューしていないが、小説家としての鋭い目が光る。

「げっ、閉園までないのぉ?」
 そんな彼の横で声が上がる。

「どうしたの?」
 声をかけると怪訝そうな目で見られる。
「何でもな……」
 言いそうになって、彼女の中で身に染みる寒さと心がせめぎ合う……
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