泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

文字の大きさ
282 / 302
奇妙な縁は落ちている

第5話 本当のこと

しおりを挟む
 木乃実は、本当のことを言うとあまり社交的でも無いし、こんなにテンションが高めでも無い。

 でも彼と出会い、気がついたときから、テンションが爆上げで暴走中なのであった。

 彼との壁は感じる。でも、駄目よ駄目。
 折角出来た切っ掛け。これは運命だと…… そう彼女は考えた。
「いざとなれば…… 押し倒そう」
 などとまあ考えて、期待を胸に、勝負下着を着込んでやって来た。

 八時からの迷走状態、あれなら、これなら、脳内シミレーションを繰り返した結果十時にまで、時間がずれ込んでしまった。

 だが、今回は最強の情報がある。
 それがある限り、勝てるはず。
 本人的には、微妙なのだが、まあ試す。


 世一は悩む。
 見知らぬ女の子が作ってきた料理。
 実は、杏実の一件以来避けてきた。

 だけど、この子は、色々と画策するようには見えない。
 だがふいに記憶が蘇り、食事を受け付けなる事がある。
 睦み事と食事には、何か精神的な繋がりがあるのかもしれない。

 この子は悪意を持っている感じでもないし、食ってみて、駄目そうなら謝ろう。
 そして、炊き込みは鯛めしだった……
 この前の一回だけだと思い、彼女に魚は嫌いだと言っていなかった。

 まあ良いけれど。
 怖々食べてみる。
 おっ臭みがない。
 いけるかも。

 鯛のほぐし身と、油揚げ。シメジ、ニンジン、ゴボウ。
 鶏肉を鯛に置き換えた感じか。鶏の方が良かった。

 気がつけばじっと見ている彼女。

「どうですか?」
「ああ、臭みもないし美味しいよ」
「よかったあ。こっちもどうぞ」
 ずいっと押し出される鶏のグリル。そして煮物というのはしっぽくのようだ。

 怖々箸を出すが、少しピリ辛の鶏。
「美味いな」
 少しピリ辛でビールに合う。

 彼女も、グラスに注いで酎ハイを飲み始めた。

「それで、良い話しというのは?」
「あっそうそう。そうなんですよ。奥様。あそこの中華屋さん。もうお年なので、息子さんが居るところへ引っ越したらしいんです」
「そうなんだ」
「むうっ、奥様部分は、突っ込んでくださいよ」
「ああ、すまない」
 そう言った後、彼女はにまっと笑う。

「それでですね。その引っ越した先。その近くに、中華そば屋さんが出来るらしいと情報がありました」
 そう言ってにまにま。

「それは賭けだな」
「そうなんですよね。単なる偶然か、思った通りならば最高なんですけどね」
「結構な年だったからなぁ」
「だけど他では、物足りないんですよねぇ」
 彼女も悲しそうな顔。

「まあ出来たら、行って見ようか」
「そうですね。それで別件ですが、、この店に行って見ません?」
 彼女はナチュラルにそう言った。


 先生と呼ばれるのは、何年ぶりだろうか?
「今なんて?」
「へっ。あっすみません。この店、焼き鳥屋なんですが、締めのラーメンが美味しいらしいんです。こっちだから醤油なんですが」
 そう言ってニコニコ顔。

「そこじゃ無くて…… なんで、俺の事を先生と?」
 そう彼女は、名刺を持っている。
 だから、俺は普通の会社員だと分かっている。
 それなのに…… 
 
 覚えがあるなら、昔の生徒だが……
 俺も覚えてはいないし、向こうだって覚えてなどいないだろう。

「あーすみません。つい昔の感じで。私は名前を聞いていなくて、先生はずっと先生だったんです」
「えっ? ゴメン。オレの生徒だったのか? えっあれ? 年が??」
 少しだけパニック。

「えーと。生徒では無いけれど、生徒でした。お姉ちゃんが習っていて、同じ部屋だったので算数と言いながら、嘘をつかれて、中学校レベルの問題を習いました」
 そう言ってにっこり。
 その後赤くなると……

「ずっと好きだったんですよねぇ」
 なんていう言葉を、小さな声でつぶやく。
「はっ? えっ? 俺の事を?」
 つい聞き返す。

「聞こえたんですか? どんだけ地獄耳。さすが先生です」
 そう言って、小さく拍手を貰う。
 まあもう、夜中だしな……

「しかし、大学の時だったから、もう十年も前だ。君は幾つだったんだ?」
「小学校の五年生ですかね」
「そうだよな。小学生か」
 そう言いながら、ついグビッとビールを飲んでしまう。
 心臓はバクバクだ。

「でも、今は二十五歳です。小学生じゃありません。付き合いませんか? うり、食べ頃ですよ」
 やめれば良いのに、真っ赤になって自分の胸を持ち上げる。

「あーありがとう。眼福だよ。でもオレ、言ったようにもう三十五だし」
「大丈夫です。そんなのは気にしません。子供の頃からの思いを遂げる。この前、出会ったのは運命です」
 そう言って腕を組み、うんうんと頷いている彼女。

「そう言われると、そうかもなぁ。お姉ちゃんはなんていう名前?」
波野なみの 華奈はなですよ。三月生まれで、桃にするのは当たり前だから、華奈にしたみたいですよ。私は九月生まれだから、木乃実なんです」
「そうなんだ……」
 そう言うと、じっと見つめてくる。

「うん? なんだ? なんでこっちへくる?」
「覚えてます?」
 そして、またじっと見てくる。

「すまない。覚えていない」
 なぜか俺は、手を上に上げる。
 そうホールドアップ。

「やっぱり…… じゃあ許しません」
「なんだ、どうする気だ?」
 彼女はこちら側に回り込み、四つん這いで熊のようにやって来る。

 ただ真っ赤な顔で。

「えいっ」
「ぐえっ」
 俺は押し倒されてしまった。
 まあ無論、抵抗とかしようと思ったのだが、彼女は……
 いや彼女の決意というのか、男に告白をするって、それも十年の月日を超えて……
 オレみたいな男に……

「ちょっと待て、なにをしている?」
 抱きつかれただけだと思ったら、脱がされ始めた。
「こら、まて。ナニをする?」
 そう聞くと彼女は、顔を上げてこっちを見る。

「マーキングです。今フリーだと言っていたので、私、この年で初めてなんです。安心して襲われてください」
 そう言って作業に取りかかる。

「いや、訳が分からない」
「大丈夫。子供が出来たら立派に育てます」
「いや、その時は言えよ」
「じゃあ良いんですね」
 そう、なし崩しというか、襲われた。

 今も横で寝ていて、今度ご両親に挨拶する。


 そうそう、あの中華屋は単なる偶然で、あの味じゃ無かった。
 残念だが、これも時代の流れだ……

 あの時の小学生が、妻になるなんて……



----------------------------------------------------------
 お読みくださり、ありがとうございます。
 年月は、どうやってもかってに積み上がり、決して戻れません。
 タイムマシンも、自分が若返れば嬉しいのですが、最近体中にガタが来ています。

 まあ、それでは次回。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

👨一人用声劇台本「寝落ち通話」

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
彼女のツイートを心配になった彼氏は彼女に電話をする。 続編「遊園地デート」もあり。 ジャンル:恋愛 所要時間:5分以内 男性一人用の声劇台本になります。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...