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ある巡り会い

第4話 あふれる幸運

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 そして、昨日の途中から遍路を再開するが、そろそろ資金が尽きたし、バイトでも探さないとまずい。
 彼女の大学は、どうでも良いかもしれないが。

「金がないな」
「少しなら、我慢して売りでも……」
 人の顔を見ながら言ってくる。

 期待している台詞を言ってあげる。
「二度とそんな事を言うな。離れられない関係のようだし、俺以外とは金輪際するな」
 言った台詞は、期待通りで嬉しそうだが。

 現実は変わらない。
「でも、どうする?」
「飛び込みでバイトできないかな?」
「宿代で消えて、身動きが取れなくなりそう」
「あーそうだな」
「あっでも、二人でバイトすれば、一人分は浮くわね」
 などと言いながら、恩山寺へ向かう。

「あっ、スクラッチ」
「宝くじを見つけた彼女。好きなアニメだったらしい」

「金がないのに」
「良いじゃ無い。困っときは、夢を買うのよ」
「じゃあ俺も。当たったら結婚しようか?」
「じゃあ当たるわよ」
 そんな、命が危険になりそうな、やばそうな大フラグを立て、ジャンボ系を買う。
 むろん十枚だけ。

 そして、スリスリ削っていた彼女は、固まり、人の服を引っ張る。
「ごめん。ちょっと信じられないから、確認をして」
「何だよ」
 見事に一位の絵柄がそろっている。
 
「幾らだ?」
 一等、一千五百万円と書いてあった。

「っか書いて。一千五百」
「うっうん。受け取ってくる」
「ちょっと待て、手を離すな」
「あっ、そうだね」
 バカップルよろしく、手を繋ぎ足早に行く。

 当然だが、販売所で、高額当選は銀行へ行ってくださいと言われる。
 とりあえず、他の物も削り、少額は換金。
 みずほ銀行へ向かう。

 丁度今回、迂回した道沿いにあるらしく落ち込む。
 だが、身分証明と印鑑はある。
「行くぜ」
 フラグは立てたが、何事も無くたどり着く。

 口座を作り、その中へ放り込んで貰う。

 そこからは、ひも状態で彼女にたかり、徳島県最後。
 第二十三番 医王山、薬王寺まで到着をする。

 そこで、彼女が大学へ出頭をするというので、一旦帰る。
 俺もそれに付いていき、住所不定の状況を打破すべく、彼女のマンションへと住所を移す。

 そして、ふと思い出す。
 前後賞。合わせて五億円。

 準備万端。バカみたいに、みずほ銀行で番号を確認する。
「えーと、お客様一等と前後賞は該当ありません」
 その人は意地が悪かった。

 その言葉を聞いて、そんな上手くは行かないと悲観をしたとき、にパッと笑い。
「二等当選です。おめでとうございます」
 そんな声が、フロアに響く。

「「「あっ」」」
 一千万円だったが、速攻で口座へ入れ、銀行を出る。
 支店長さんが、平謝りで送りだしてくれた。

 横で真魚も嬉しそう。
 そう買ったときにした約束。
 結婚しようか。

 きっちり覚えていた。
 自身の事情を知った上で、受け入れてくれる。
 そう彼女は諦めていた。
 そして、遍路参りの旅で、人となりは判っている。
 無職で住所不定の現状はあれだが、それ以外は問題ない。

 終始にこやかで、その晩も、俺が言い出すのを待っていたようだ。
 そして、夜半。
 彼女は切れた。

「どうして言ってくれないの。もしかして忘れた?」
「結婚の話だろ。するって言ったのは本当だけど、今無職だしな。降ってきた金はあるが、なくなるのはすぐだろ。それに、今はお遍路をきちっとすませたいし。なんかすませられないとやばい気がするんだよ」
「むうっ。いちいち正論ね腹が立つ。じゃあちゃっちゃと済ませよう。プロポーズは香川県の大窪寺ね」
「うどんで乾杯するか」
「――良いけどね」

 そうして今度は、少し余裕のあるお遍路を行った。
 装束も買ったし、金剛杖も買った。
 そして彼女が飛ばしていた、一番から第十ニ番焼山寺までを先に周り、高知へ。

 高知のお遍路は、修行の道場と言うだけあってキツかった。
 何がって、道が狭くキツい。

 そして、道中の観光地を巡りながら、年末までには終わった。

 うどん屋で乾杯をしたよ。

 大窪寺も山の中。

 そこから、車を返して、夜行高速バスで帰る。

 そして年明け、じじいの泰範さんに会って意気投合して、真魚の家族から就職を頑張れと見送られた。

 俺が現れたことで、家族の顔が変わったと真魚が言っていた。

 そして、不幸の反転がやはり効いたのか、スパッと就職が決まる。

「俺達ってさあ、一人だと不幸じゃないか」
「そうね。マイナスばかり」
「マイナスとマイナスは、交わるとプラスになるんだな」
「そうね」

 適当な気持ちで、ネットで買った初夢ジャンボ。今度こそ一等と前後が当たった。

「あまり運を使うと、やばそうだけどね」
「運の総量は決まっているとか言うけれど、すでに常人は越えたよな」
「きっと、反転した運は大丈夫よ。きっと表向きは不運の量が増えているだけ」

 そうして俺達は、結婚をした。

 いまだ、運は尽きていないようだ。


 その頃。
「うん? おかしいな。修行の度合いが。設定がおかしい」
 どこかにある次元の狭間で、偉い方が首をひねっていたとか、いないとか……
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