泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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秋と冬の狭間。

第1話 冬が来る

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「また、いきなり寒くなって。やだやだ」
 山間部の農村で、夏から秋は農業。
 雪が降り出す前に、一時避難的に町中へ行く。

 雪よけのガードを家の外に取り付けて、重さでガラスが割れないようにする。
 ただこの数年は、雪が少ないので悩むところだ。

 軽トラのタイヤもスタッドレスに履き替えて、ラバータイプのピン付きチェーンも積む。

 俺の軽トラはスペシャルタイプ。
 この山の中ですることがないので、暇つぶしにいじり倒してある。
 発進時のトルク不足はモーターでまかない、上はターボ。

 非常にトルクフルなマシンで、未舗装路もガンガンにいける。
 無論ハマったコンバインも、泥から引っ張り上げられる。
 普通に走れば、リッター二〇キロ以上、モードを変えると、リッター一〇くらいになる。
 昔のロータリーエンジンは、踏み込むとリッター三くらいだったから、それに比べれば燃費はいい。


 そう俺はもう、還暦が近い。
 縁がなくって、独身。
 最後に女と付き合ったのは……
 あー三十年以上も前か。
 飲み屋のお姉ちゃんは、愛想がいいんだけどな……

 親が亡くなり戻ってきたが、ここは冬は雪が深く、夜間に下りのコーナーでハンドルを切ったのにまっすぐ行って、谷へ車ごと落ちかかった。
 その時に大衆車ではいかんと、軽トラに乗り換えた。
 そして、それから、冬場はここに住まないことに決めた。

 よい子の皆は、ブラックアイスバーンには突っ込んじゃ駄目だよ。
 ウエット路面と違いが、全然判断出来ないけれど……

 あっと思うと、滑っていく……
 まあいい、体験をすれば理解できる。

 最近は、マンスリーマンションなどが有り非常に便利だ。
 ちょっとしたお楽しみで、毎回違う所に住んでみる事にしている。

 今回は、大学が近くにあるところ。
 少し治安とか不安だったが、居酒屋や飯屋など学生相手の店が多く、非常に便利だった。

 当然、家具付物件。
 身の回りの物だけでやって来た。

 この所毎年だが、十一月になったくらいではまだ暖かい。
 ベランダに、小さなテーブルと椅子をセットして、灰皿を置く。
 このために、最上階と言っても五階だがそこの角部屋。

 そして、南側の端。
 そこの部屋を選択をした。
 冬は偏西風のおかげで北風と決まっている。
 部屋の中では、規定でたばこが吸えないからなぁ。

 山はその点が、自由なんだよな。
 だが、五階の部屋は、家族持ち用で広い。
 お家賃も高かったが、仕方が無い。

 一応、年末年始は、家に戻り祭事をする。
 しめ縄を飾ったり、御神酒をあげたり、正月の支度はしておく。

 昔は、親族も集まったが、皆年寄りで来られなくなった。
 墓掃除は面倒になって、高圧洗浄機で洗ったら、文字の塗りが剥げちまった……
 アクリル塗料のようだから、適当に塗り込む。

 草刈りは、ナイロンコードでしばき倒した。
 墓石の台座をバシバシに叩いたが、じいちゃんは優しかったから、文句も言うまい。

 久しぶりの山で落ち着く。
 町のざわざわした雰囲気と、毎夜横の家から聞こえる声……
 あれは参った……

 家族用だから、学生じゃないとは思うのだが、毎晩お盛んに励んでいるようだ。
 まあ、あんあんと……

 枯れかかっていても、独り者だと、思うものがあるのだよ。


 そんな、ある晩、出逢いは突然にやって来る。
 十二時も回っているのに突然のチャムの嵐と、ドアを叩く音。
 ドアに近寄ると、女の声。

 誰かに追われているのか?

 インターフンの映像では、近寄りすぎて丁度良さそうな胸しか映っていない。
 まあ六十近いじじい、何も起こらないと思いながらも昨今多い緊縛強盗。
 チェーンを掛けながら、ドアを少し開く。
「何よいるんじゃない。何このチェーン。お姉様よ、開けなさいよ」
 背後に男の影…… 無し。

 チェーンを外して入れる。
 この時、中に入ってからだが、相手の驚く顔と強烈な酒の匂い、そして意外と若いことが判った。

「えっ、あっ、あれ? ……」
「どなたでしょうか? こんな時間に外で叫ばれると迷惑なので入れましたが、面識がありませんよね……」
「えーはい。面識がございませんで、ございます。すみません」
 そう言って出て行く。

 赤い顔をさらに赤くして……

 でまあ、ドアから見ていると、目的地は隣のあんあん部屋だったらしい。
 声は知っていたが、あんな娘だったのかと思うと、少しリアル感がでて、年甲斐もなく少し前屈みになってしまう。

 そう、性格はきつそうだが、美人の類い。
 ソバージュというのだろうか、肩までの少し色を抜いた髪。
 眉も少し整えてあるのだろう、少しこの字にシュッとして、二重のどんぐり眼をトレースしている。
 少し薄めの唇と、ちょっと低い鼻。

 化粧を落とすと、かわいい系か?
 覗いて居るのに気がつき、目があうと不自然なにこっ……
 だがチャイムを押しても、お隣は出てこないようだ。
 蹴ろうとして、足が持ち上がりバックする。
 そこで、俺のことに気がつき止まる。

 諦めたのだろう、そのまま、通路の壁側へ下がり、しゃがみ込む。
 うすいチェスターコートは着ているが、昨日と今日は急に冷えこんでいる。

「居ないなら、家で待つかい?」
 声をかける。
 えーという顔をして悩んでいたようだが、こちらにやって来る。

「すみません」
「まあ暖かい、お茶くらいしか出すものはないが。それで良いかね」
「はい、中へ入れていただけるだけで」
 まあこっちが年寄りだし、少しは安心をしたのだろう。

 小走りで駆け込んできた。
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