泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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夏の夜に誘われて

第2話 知らなかった世界

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 それでだ、こいつら歌い込んでやがる。
 きっと今まで三人でしょっちゅう来ていて、そこに私を引っ張り込んだ感じかしら?

「点数って何点から何点?」
 克美ちゃんが、軽く歌って私にマイクが来た。

「さあ知らないけど、上は百点だよ。下は、子どもの頃に七十点くらいが出た?」
「途中で切れば、六十点とかになるぞ。最近九十点以下を見ないけどな」
 そうですか……
 心の中でぼやく。

 心を込めて、熱唱をする。
 『どこかで春が』……

 学校で習って覚えているもの。
 あれは小学校三年の時、合唱のために覚えた。
 横には陸斗君がいて、楽しかった。

「なんで美桜ちゃん泣いてるの? 悪くないよ。うん」
「うん。六十五点だけど、音程とリズムを合わせば、きっと点が出るから。頑張れ」
 克美ちゃんと、雄介君のフォローが地味にダメージになる。

 そして、松岡君はそんなことを気にせずに、普通に歌い出す。
 上手だし……

「アイスでも食べる? 歌は練習すれば上手になるよ」
「ううん。いらない」
 そんな感じで、松岡君の奇妙な擦り寄りを躱す。
 そして、この子達やっぱり上手。

「声変わりかな? やっぱり上が伸びない」
 そんな事を言いながら、齋藤君は九十七点をあっさりと出す。

 もう、恥ずかしいとか言っていられないが、何を歌ってもなぜか七十五点に壁がある。
 そうして疲れ切った三時間後、私はへろへろになって店を後にした。
 もう喉は痛いし最悪。

 で、どういう運命のいたずらか、ふと見た川の方でお母さんを見つける。
 それはもうべったりと、男の人にくっ付いて歩いている。
 見たことのない表情。
 そのまま、駅の方へ向かって行ってしまったのだが、なんだろう。
 お母さんに対して、嫌悪感が浮かんでくる。

 学校で習って、多少のことは知っているし、恋人と言う存在も知っている。
「でもお父さんがいるじゃない。どうする気なの?」
 お父さんに伝えようかと思ったけれど、文字を入れた後、どうしても送信ができなかった……

 そうして、夏が近付く頃、近くの自然公園へ蛍を見に行ったり、お祭りに行ったり。色々な行事が発案され、四人で出かける。
 この頃になると、お父さんとお母さんは、あまり口もきいていなかった。
 家にいると、息が詰まるから、克美達と出かける。

 逆に克美達はラブラブで、私たちの前でもいちゃつく。
 付き合うって何だろう? 結婚てなに? そんな事をこの頃は考えていたと思う。

 そして、勉強会をしようとか言って、克美の家へと集まることになった時のこと。
「今日両親は仕事だから、勝手に上がって」と言っていた。
 克美の両親は、土曜日がお仕事らしい。
 お父さんは、出張がなければ土曜と日曜。二日間休みなのでビックリ。
 でも考えれば、お店屋さんなど土曜も日曜日も仕事をしている。

「おじゃましまあーす」
 一応声をかけて、家に入る。
 玄関の鍵は開いていた。
 中へ入り、克美の部屋がある二階へと向かう。
 階段を上がっていくと、ドアの前で松岡君が固まっていた。

「なにをし……」
 声をかけようとすると、松岡君がシッット言う感じで口の前に人差し指を立てる。

 ドアは少し開いていて、克美のすすすり泣くような声が聞こえている。
 虐められて泣いているの? 珍しい。喧嘩中なの? そう思ったのだが、静かにして、覗いてみなという感じの松岡君のゼスチャー。
 おとなしく従う。
 窓際にあるベッド。
 そこに二人がいて、ああそうかと納得。
 生で見たのは初めてだけど、その行為は知っている。

 赤い顔をした克美は嬉しそうに齋藤君を迎え入れて、なんと言うのかゾクッとするような表情。
 あーあの時見た、お母さんと同じような顔。
 
 その時、気が抜けていたのだが、、肩を叩かれ振り返ったとき、松岡君にキスをされてしまった。
 気持ちが悪い。彼を突き飛ばして、階段を降りる。

 いやだ。気持ちが悪い。

 そう記憶に残っていたお母さんの顔。
 そして、克美の表情。
 いやだ。

 近くの公園まで走り、水飲み場へと到着。
 蛇口をひねり、私は口をゆすぐ。
 ここへ来るまで、何度も拭ったのだけど、感触は消えてくれなかった。

 克美の家へと戻る気は起こらず、しばらく公園のブランコに座り込むと、ぼーっと空を眺める。


「なんだろう。男女の付き合いって……」
 思い出される生々しい光景と、嬉しそうだった克美。

 最近のギスギスとした家の中……

 その頃、私の普通だった生活は、崩壊を初めて行った。
 週明けに学校へ行ったとき、克美達を無視してしまった。
 彼女達の側には松岡君がいる。
 なんとなく、会いたくなかったのだけど、同じクラスだからどうしても彼がいる。
 見たくないのに、なぜか目が追ってしまう。

 向こうも、こちらをチラチラと見るので、結局よく目が合う。

 見ないようにしようと、自身に言い聞かせることに。
 今回のテストは、最悪な点数を、たたき出したと思う自信がある。
 そうメンタルが。繊細な私の心はボロボロだった。

 いつもの様に、テストの打ち上げに誘われたのだが断った。

 でも、行くところ……
 そう居場所がない。
 お父さんとお母さんの戦闘は激しさを増し、家にもいたくなかった。

 だけど暑いので、私は図書館へ行き、小説を読みあさるようになる。
 読んでいるときには別の自分になれる。
 考え方が変わる。
 こんな考え方もできるんだ。

 状況に対しての別の見方。
 事実に対して、なぜという事を考えるようになれた…… 気がする。
 そう、そうして夏休みを前に、ぼっちな図書館ライフが始まった。
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