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第二章 人? との交流

第20話 予測のズレた日本側と、盗賊達の扱い。

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 もしあの日、道照が突っ込まれず、本筋通り右の車線にトラックが行った場合。
 邪神の母となる子供。この時はまだ三歳だったが、亡くなっていたはずだった。

 それも今回とは違い、複数台の車を巻き添えにして追突と発火、そして延焼。かなりの被害が出る予定だった。EV車の走行バッテリーに延焼が広がり、発生した高温の炎は、通常の消火では刃が立たず、拡大しながら燃え広がっていった。

 つまり、この場合でも実は道照。焼け死んでいた。

 ただ今回死亡者は、道照のみで、依り代の母体は生き延びた。

 このため、マガツヒがみた予測では、母体の女の子は中学生の時、性被害に遭い、誰かの子を妊娠。その子へ、邪神が入る予定だった。

 それを、マガツヒは危惧していたが、この世界にふらっとやって来た道照。
 数年後に結界が壊れ、逃げ出すはずだった邪神。その結界が、ふらふらしていた道照が桜に巡り会い。桜を通して魔力を与えられた事で結界の基盤となっている世界樹が強化さた。さらに与えられた魔力が何故かコアとなり、周辺の魔力を吸いさらに強化をされていく。つまり、道照がふらふらしているだけで、すべてが好転した。
 まさにちゃぶ台返し。

 そして、そのおかげで予測は変化をする。
 予測では確かに、母体の女の子は中学生の時に性被害に遭い、誰かの子を妊娠する予定だったのに、今では、被害そのものが消え失せていた。
 クラスメートと、幸せそうに、学校へと向かう女の子。
 小学生頃から始まる予定だった不幸。父親が務めていた会社の倒産や、そこから始まる借金地獄と、お母さんとの別離。すべてが消えた。

 道照が桜へと渡したもの。それは、普通の人にあらざる魔力量。
 百歩譲ってそれは良いとしよう。だが、人として。絶対あり得ない事に、魔力の中に神威が含まれていた。

 蓋を開けてみれば、管理通路で行われた、ふざけた一連の事柄まで、すべてが予定調和と思われてくる。マガツヒは、一人管理世界に目を向けながら、やっとあることに気がつく。
 道照に課せられた役割は不明だが、偽装された魂の情報。つまり彼の隠されていたスペックを、モザイクなしでみてしまう。これができたのは、お試しで彼の超振動を体験し、あの体とほんのわずかだが、繋がりができた為。
 『修行中に付き、力を一那由他分の一に制限中。精進せよ』
 不動明王の結界が、魂に刻まれていた。弥勒様のサイン入りで。

「あやつ」
 そう言ったまま、マガツヒは固まる。


 さてそんな頃、馬車は凄くゆっくりと、近くの村へと近付いていた。
 馬車の中では、相変わらず憮然としたハウンド侯爵。
「盗賊が、いなくなってよかったですね」
 話を振ってみるが、何かを思案中の侯爵はぎろりと道照を睨む。
「まあ、それは良いが、労働力が無くなってしまった」
 そんな、ぼけたことを言い始める。

「なんで? 彼ら百人程度は、すでに盗賊をしていたという事は、畑は放置されていたという事。今年失うはずだった労働力が帰ってきた。そして、彼らの罪が無くなる前に、楽しい農業を形にすれば良い。彼らが逃げる原因は、困窮だと分かっている」
 そう言うと、ハウンド侯爵は悩み始める。

 もう少し追加で、アドバイスしよう。
「一時的ならば、穀物の買い取りを高くすれば良い。それだけで少しは変わる。そして領自体は、別のもので金を稼ぐ。向こうへ着いたら、資料を見せてください。多少はアドバイスができるかもしれない」
 そう、言っていたのに。


 ああ。お嬢さんの具合と、欠損は無事に復活したよ。
 涙でぐしゃぐしゃになったハウンド侯爵を残し、お嬢さんの部屋から出た所で、兵に囲まれ連れてこられた。

 今この状態。
 広い練兵場で、周囲を兵に囲まれているのは、道中でハウンド侯爵を危険にさらしたという事で、責められている状態。
「横に俺がいるから大丈夫だったし、飛んできた矢も掴んで、怪我一つ無かったじゃ無いか」
 そう言ったら、余計に火に油状態で兵達は燃え上がる。

「力をみてやろう。どこからでもかかって来いやぁ」
 そう言って前へ出てきたのは、二メートル近い熊さん。
 鎧までフル装備で、のっしのっしという感じで、体を揺すりながら前に出てくる。

 騎士のようだが、馬から下りて、戦鎚を担いでいる。
「俺もやろう。あの時。相手は、百人近くいたのだろう」
 トラさんやら、ライオンさんやら、次々に出てくる。
 ああ。確かに人数はそれ位居た。だけど、元農奴だから、あんたらみたいな化け物はいなかったさ。

 そう思ったが、その辺りはどうでも良いようだ。そして、奴らは武器持ち。こちらは無手。
 だが、調子に乗っていた俺は、手を伸ばし。指先だけで相手を招く。

「うー。らあぁぁ」
 その場に響き渡る、気合いの入ったかけ声と共に、重そうな戦鎚や、ハルバードが振り回される。
 戦鎚は、俺の頭の上を行きすぎたところで、ちょっと柄の部分に触れ、振動を伝える。
 それだけで、凶悪熊さんの手を離れて、近くにいた兵に向かって飛んでいく。
 金属同士のぶつかる、甲高くも鈍い。すさまじい音が響く。

「ぐはっ」
 などと、言葉を残して、戦鎚を食らった兵は飛んでいく。

「痛そうだな」
「貴様、卑怯だろ。何をやった。雷の魔法かぁ」
 そう聞かれるが、答える気は無い。

「無手の相手に、戦鎚を振るってくる奴に言われたくないなぁ」
 そう言っている間に、後ろから振るわれたハルバードを躱し、一歩前へ踏み込む。
 拳を、戦鎚を取りに行こうと、動き始めた熊の腹に当てる。
 むろん相手は、金属の鎧付き。
 殴ったら何故かベコンと、拳の形に金属の鎧がへこむ。熊さんはいきなりその場で膝をつく。

 振り返りざま、ハルバードを振り下ろそうとしたが、俺の後ろに熊さんがいるので躊躇したようだ。
 ハルバードの柄を掴む指を殴り、そのままボディへアッパー気味に一発。
 前のめりに、トラさんが倒れる。

 そして周囲では、他の奴らもハルバードをぶんぶんと振り回し、他者への攻撃の間隙で突いてこられる。
「あー面倒」
 今度は本当に、全周囲に雷をばらまく。

 周りを見回し、後は倒れなかった奴を、拳で沈めていく。
 本当に、超振動を加えた拳は、少しでも体に当たれば敵が倒れていく。

 技名考えようかな? そんなことを考えながら相手をしていたら、いつの間にか全員倒していた。
 途中で攻撃が止まったから、休憩しようとしゃがんだら、復活した奴が幾人か襲ってきやがった。問答無用で殴り倒す。

 無敵だよな、『無○波』いや『絶頂振動拳?』『昇天振動?』『剛○波?』
「あーもう。超振動掌(ちょうしんどうしょう)とか超振動拳(ちょうしんどうけん)で良いか。ちょっと間違えると、良くあるジョークグッズの名前と被りそうだ」

 静まりかえった、練兵場を一陣の風が吹き抜ける。
 あわてて、手に魔力を乗せて風の刃を叩き潰す。
 やったのは、のんきに拍手をしている。家宰モルガン・セバスティヌさん。
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