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第五章 混沌の大陸

第66話 ディベス家登場

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 思った以上に、混乱する相手達。
 俺達をそっちのけで相談を始めた。これは困った。

 困った俺は、残っている穂を見つけ、ブチブチと採取を始める。
 実の入っていない、しいなは除けて、ぷっくりとしている物を選んでいく。
 それを見ていて、シルヴィとテレザもおもしろがって、穂摘を始めた。

「ねえ。道照。この草の実ってどうするの?」
 甘えモードのシルヴィが聞いてくる。
 テレザは暴走モードで、稲の中を走り回っている。

「これは、こっちでは何という名前かは知らないが、米と言うんだ。この殻をむいて精米し、炊いて食べる」
 その時、きっと俺は、恍惚とした表情でもしていたのだろう。

「道照がそんな顔をするなんて、凄く美味しいのね」
 シルヴィがよだれを拭う。

「まあこの量じゃ、たいした物にはならない。増やさないとな」
 すると、庭じゃない、田んぼを駆け回っていたテレザが帰ってくる。

「どうこれ?」
 両手に、稲穂を持っている。
「採取していたのか? ありがとう」
 そう言って、頭をなでる。

 一応全部収納する。

 そして、ふと見ると。奴らが消えていた。
 うんまあ、気配は探っていたから知っていたが、一言もなく。
 ちりぢりに、どこかへ行ってしまった。
 五人ほどの固まりが、町の方へ走って行ったのがたぶん本体で、見張りは三人置いていったようだ。

 酔っ払いの、ラウラに習った気配察知。便利だな。
 探査でも、同様な事は出来るが、魔力を撃ち出す関係上、物陰に隠れられると探知しづらいが、気配察知は相手が出すものだから分かりやすい。
 ただ意外と、頭が疲れる。解析用の外部計算機が欲しい。

 まあ、文字通り収穫はあったし、街へ行こう。

 見張りに手を振り、俺達は街へと向けて歩き始める。

 やがて街道沿いの両側に町が広がり、山の上に城がある。
 なんとなく、微妙な違和感。
 言っていることやっていることは、和風なのに、着る物もお城も洋風。
 剣は剣だし、背中に背負っている。

 あっでも、服の基本形は作務衣なのか? 今までのTシャツぽいものに装飾が付いたものとは違う。
 キョロキョロしていると、両替商を見つける。

「すみません。両替をお願いします」
「はいよ」
 奥から出てきたのは、人間だが、その両脇には獣人が付いてきている。
 用心棒なのか、顔は笑顔だが目は鋭い。

「三人、宿に泊まって、相場はどのくらいでしょうか?」
「泊まりのみの素泊まり。それも木賃宿(きちんやど)と呼ばれる、宿と言うより宿泊所だ。そこだと鉄貨数枚だが、おすすめできない。せめて、銀貨数枚を払って旅籠にした方が良い。あまり安いところは、旅籠でも雑魚寝だからね。本陣は金貨が必要。後お寺の宿坊だね。こちらも雑魚寝だが、客の質が良い。早朝からおつとめで寺の雑事は必要だが」

「じゃあ、銅貨と銀貨を各百枚と金貨を五枚、両替してくれ」
 出した瞬間、糸のようだった店主の目が一瞬見開く。

「これは、近隣の国が使う貨幣ではないな、まあ質もそこまで悪くないし良いだろう。手数料三割だ」
 銅貨と、銀貨は七十枚だろう。
 しかし、金貨分が三枚と銀貨五十枚が返ってきた。

「まあ良いか」
 受け取り、収納する。

「旦那さんが、おすすめする旅籠は、ございますか?」
 なんとなく人を、値踏みする感じなので、上品に聞いてみた。

「ふむ。お若そうですし、そうですね。少し遠くにはなり、町の外れですが、鬼の湯という温泉宿がございます。若夫婦が後を継ぎ、少し質は落ちましたが、そこならゆっくりとできるでしょう」
「ありがとうございます」
 紙に銀貨を包み、そっと台の端に置く。

 途中見かけた、チップ制度。おひねりっぽい。
 金額の相場は分からないが、良いだろう。

「旦那様、よろしいので?」
 さっきのおひねりを開きながら、右の眉がわずかに上がる。

「あの若造。他国の大店、そこのボンボンが物見遊山で来たのかと思ったが、少し違う。ただまあ、さっきの情報。その礼に銀貨一枚。判断に悩みますね。鬼の湯の事は、父が気に掛けていましてね。幼馴染みが開いた宿だとか。間者を幾人もくっ付けた若者。宿も少しは臨時収入になるでしょう」
 そう言って、あわてて彼らを追いかける数人を目で追う。

「ほんと、何ものでしょうか? 今追いかけたのは、忍びでは? 足運びが、極道者のそれとは違いますね」


「やったね、温泉だ」
「温泉とは?」
「地面から、熱いお湯が湧いているんだよ」
 そんな説明をシルヴィにしながら、ウキウキと宿へ向かう。

 そのおかげで、閑古鳥が鳴いていた鬼の湯は、その晩、意図しない大量の客を迎える事になる。

 
 厨房に出せる料理がなく、大騒ぎになっている頃。
 俺達は、露天風呂でゆっくりしていると、少し小柄なおっさんが、美人を二人連れ、入って来た。

「水入らずの所すまないね。お邪魔するよ」
 おっさんは、かけ湯をし、軽く体を洗った後入って来た。

「いいえ。私は良いが、この子達は恥ずかしいようなので、場を移動しましょう」
 そう言って、おっさんを奥側へさそう。

「さて、前置きはよいだろう。私はディベス家当主。フィーデ=ヨーシュだ。君は四天王炎呪様の手の者と報告が来たのだが、本当かい?」
「名乗りがおくれました。私は、神乃 道照と申します。関係は、炎呪に聞き合わせていただいてもかまいません」
 そう言うと、ピクッと反応する。

「私は、魔王様にお目にかかったことがないが、魔王様と言うわけではありませんよね」
「違います」
 そう答えると、悩み始めた様で、顎に拳を当てたまま考え始めてしまった。

 炎呪様を呼び捨て? 魔王様でもない。
 確かご兄弟は、妹様一人だし、肌の色も普通じゃし角もない。
 羽も無い様子。ふうむ。一般人ではないことは、近くに居るだけで十分分かる。抑え切れておらぬ波動が我が肌を刺す。
 悩んだ末、フィーデ=ヨーシュは、答えにならない答えをを出す。

「よし、まあ飲もう」
「はい?」
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