笑顔の花は孤高の断崖にこそ咲き誇る

はんぺん千代丸

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28 ラングリフの帰還

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 ラングリフ様がお戻りになられました。

「ああ、ラングリフ様……! あなたがお帰りになられるこのときを一日千秋の思いでお待ちしておりました。もう、離しません。何があってもリリエッタはあなたのおそばを離れません。例え今日、この世界が終わるとしてもです!」
「ああ、リリエッタ……! 君を抱きしめられるこの日を、俺はどれだけ待ち焦がれたことだろうか。君の笑顔が恋しくて、毎夜毎夜、星空に君の姿を思い描いていたよ。もう、決して離さないぞ。例え、今このとき世界が終わってもだ!」

 ヒシッ、と抱きしめ合う私とラングリフ様。
 そんな私達をそばで眺めて、マリセアさんが呆れ調子で言ったのです。

「去年も同じことを言ってましたね。来年も同じことを言うのでしょうね」

 かは。

 な、なかなかに痛烈な一言ですね、マリセアさん。
 いえ、まぁ、多分来年も同じことを言うのだろうとは思いますけど……。

「はぁ~、リリエッタがいる。マリセアがいる。……帰ってきたのだな、俺は、今年も無事に演習を終えて、帰ってこれたのだな。本当によかった」

 ラングリフ様が、長く息をついて安堵されているようです。
 この人のこのようなところを見るのは珍しく、新鮮な気持ちで受け止めます。

「演習は、お辛かったのですか?」
「それ自体は例年と変わらないのだが、リリエッタと会えないのが辛かった」

 もぉ、この人は……。
 聞いた私がバカでしたよ、ええ。だって私も同じでしたから。

「ところで、俺が留守の間に何か変わったことはあったか?」

 ラングリフ様が、何気なくそれを私に尋ねました。
 私は、ピクリと反応して、視線をマリセアさんの方へと送ります。

「余計な隠し立てはのちのちの禍根に繋がりかねませんよ?」
「ええ、そうですよね……」

 予想通りの答えでした。
 でも、そのおかげで背中を押された気分です。ありがとう、マリセアさん。

「む、何だ? 何かあったのか?」
「はい。ございました」

 私はきっぱりと断言しました。
 ここで隠すのは簡単ですが、マリセアさんにも言っていただけましたからね。

 内心、かなり恐々として、手にはじっとりと汗をかいていますけれど……。
 それでも、私は呼吸を整えて、ラングリフ様にそれを見せました。

「ラングリフ様、こちらをご覧いただけますか」
「これは、鍵、か……?」

 私が取り出したのは、あの花の紋章の鍵でした。
 ラングリフ様は、さすがにこのお屋敷の主だけあり、すぐに紋章に気づきます。

「この紋は、もしや、二階にある『開かずの間』の扉にあるものと同じ?」
「その通りです、ラングリフ様。これは、あのお部屋の扉の鍵です」

「ほぉ、ついに鍵が見つかったのか」
「見つかった、というか、託されたというか……」

 興味深々といった様子で瞳を輝かせるラングリフ様に、私は歯切れの悪い返答。
 それが気になられたようで、ラングリフ様が不思議そうに私を見つめます。

「託された? 俺の屋敷の部屋の鍵を、誰が持っていたというのだ?」
「それは、部屋に行くときにお話します。あの部屋に興味がおありでしょう?」
「ああ、あそこだけは今まで一度も入ったことがないからな」

 ラングリフ様の声は弾んでいました。
 それだけ、あの『開かずの間』への関心が高いということでしょう。

「リリエッタ、今から『開かずの間』に向かうことは許されるだろうか」
「そう言われると思っていました。でもダメです」
「ダメか……」

 相も変わらずの無表情ながら、ラングリフ様はしゅんとされてしまいました。
 そういう意味でいったのではありませんが。

「まずはお風呂とお着替えを済ましてくださいませ。ラングリフ様は遠征から戻られたばかりでしょう? どうせならさっぱりしてからの方がいいのでは?」
「む、それもそうだな。わかった、お楽しみはのちにとっておこう」

 ラングリフ様は納得した顔で荷物を使用人に預けて、浴場に向かいます。

「お着替えの準備はしておきますので、どうぞごゆっくり」
「ゆっくり入れるといいのだがな……」

 どうやら『開かずの間』を随分と楽しみにしるらしいです、この人ったら。
 ラングリフ様が浴場に向かわれたのち、マリセアさんが私に言います。

「少し、心が痛みますね」
「そうですね」

 私もうなずきます。

「きっと、彼も後悔するだろうと思います。でも……」

 花の紋章の鍵を軽く握り、私はラングリフ様を思って、目を閉じました。

「――私は、どうしてもそれが欲しいのです」
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