失敗賢者は楽園を手に入れる~生まれる前から失敗していた彼が大冒険者に至るまで~

はんぺん千代丸

文字の大きさ
4 / 10

第3話 失敗賢者は迷い込む

しおりを挟む
 気がつくと、夜になっていた。

「…………は?」

 俺はまばたきを繰り返し、右を見る。木が見えた。

「…………え?」

 さらにまばたきしながら、左を見る。木が見えた。

「……森じゃん」

 森だった。
 どうしようもなく、ここは森の中だった。

「何でェェェェェェェェェェェェェェ――――ッッ!!?」

 でぇぇぇぇー……
 でぇぇー……
 でぇー……
 ぇー……

 俺の絶叫が、夜の森にこだましていった。
 そしてこだまも薄れ、訪れたのは静寂。暗闇と無音の世界があるばかり。

 ――どうして俺は、こんな場所に?

 静寂の中で、ようやっと俺の意識はそこに至る。
 直後に思い出した。そうだ、開かずのアイテムボックスが、何故か開いて、

「そうだ、アイテムボックス!」

 俺は、ボックスを掴んでいる右手を見る。しかし、そこには何もなかった。

「……あれ?」

 一瞬きょとんとなって、すぐに我に返って俺は絶叫する。

「アイテムボックスどこだァァァァァァァ――――!!?」

 のどの奥が擦れた感じがして痛い。
 夜の森だ。辺りは暗くて、ロクに見えない。俺は這ってアイテムボックスを探した。

「おぉ~い、アイテムボックスよぉ~い!」

 よぉ~い……
 ぉ~い……
 ~い……
 ~……

 こだまはやっぱり虚空に消えて、物静かな森の中、俺はひたすら探し回る。
 しかし、アイテムボックスは見つからなかった。

「何でだよ……」

 やべぇわ、これ詰んだわ。途方に暮れて、俺は大の字に寝転がった。
 疲れて熱を持った体に、冷たい土の感触が心地いい。
 その冷たさがいい方向に働いたのか、一つ、思いつくものがあった。

 左腕の腕輪だ。俺は身を起こしてそれを見る。
 これは、冒険者ギルドから支給される、冒険者であることを証明する魔具だ。
 この腕輪には幾つかの便利機能があって――、

「ステータス、オープン」

 告げると、左手の甲側にはめ込まれた宝珠が輝き、スクリーンが投影される。


――――――――――――――――――――――――――

 レント・ワーヴェル(27)

 レベル:8
 ランク:G
 クラス:キャリアー(荷物持ち)

 HP 30
 MP 10

 筋力 7
 耐久 7
 敏捷 4
 知性 5
 器用 4


[ 1/2/3/ >>次ページへ ]

――――――――――――――――――――――――――


 相変わらずひでぇステだ。
 普通は三年も経てばランクはE、レベルは10、平均ステも15は超えるのに。
 冒険者生活十年を超える俺のステがこれだ。やっぱ大賢者ってクソだわ。

「……ッ、はぁぁぁぁ~」

 俺は盛大にため息をついて、ステータス画面を次に移す。
 自分の無能を嘆いても仕方がない。今は、居場所を確認するのが先。

 ステータス画面は全3ページで構成されている。
 1ページめは自分のステータス。2ページめは保有スキルが記載されている。

 そして、最後の3ページめ。
 そのページは、受注した依頼が記載されるページである。
 また同時に、時刻と居場所が表示されている。はずなのだが――、

「何だ、こりゃ……」

 そこに見える表示に、俺は軽くうめいてしまった。


――――――――――――――――――――――――――

◆現在進行中の依頼
 ――現在進行中の依頼はありません。











・現在時刻:■■:■■

・現在地点:■■■■■■■■■■■■■■

[ 1/2/3/ <<前ページへ ]
――――――――――――――――――――――――――


 表示機能が働いていない。そんなバカな。
 二つの表示機能は、冒険者ギルドが魔法技術の粋を駆使したと豪語するものだ。

 大陸のどこにいても、必ず現在地点と時刻を表示する。
 ギルドがそう太鼓判を押すこの機能が狂うなんて話、俺はついぞ聞いたことがない。

 そこで、あり得ない可能性が頭に浮かぶ。
 まさかここは――、そもそも大陸のどこかではない?

「もしかして……」

 俺は立ち上がって、空を見上げた。
 そこには月も星もない。なのに、辺りが分かる程度に空が明るい。

「この不自然さ。……ここはアイテムボックスの中、なのか」

 アイテムボックスに吸い込まれた記憶を思い出して、俺はそう結論づけた。

「あー……」

 だが、それがわかったからって何だってんだ?
 入れたからって、出られるとは限らない。出口などどこを向いても見当たらない。

 つまるところ、俺は依然として途方に暮れるしかないのだった。
 と、そこで腹が鳴る。そういえば、今日は何も腹に入れていないことを思い出す。

「……えーと」

 俺は、とある方へ歩いて行く。そこには、背の低い木が生えていた。
 その木の枝には、リンゴっぽい果実がなっている。
 さっき星を探そうとしたとき、たまたま目に入ったのだ。

「よいしょっと」

 俺は、果実を一つもぎとって、意識を込めてそれを睨む。

「『可食鑑定』」

 手にしたものが食べられるかどうか、それを判別できる俺の唯一のスキルである。
 ま、普通の『鑑定』スキルに比べたら、完全な劣化版だけどな。

 ふむ、毒性はなし。
 食べても問題なさそうだ。

 俺は、果実にかじりつきながら、今後のことを考えた。
 とにかく、前に進むしかないだろう。どこかに、出口があるかもしれない。

 こんなところで野垂れ死になんて、絶対に認めてやるもんか。
 思いながら、俺は果実をかじりつつ、歩き始めた。

 ――それにしても甘くて美味いな、これ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」 王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。 大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。 おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。 ワシの怒りに火がついた。 ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。 乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!! ※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...