趣味で冒険者のトレーナーをしている俺はワケアリ女冒険者からは「私を揉んで!」とよく言われる

はんぺん千代丸

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第6話 一刀十爪流開祖ガルンドルvs剣士プロミナ

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 プロミナには、強さを求める理由がある。
 それ自体はすでに知っていた。だが、何故強さを求めるのかまでは聞いてなかった。
 今、これ以上なくわかりやすい形でそれが明らかになったワケだが。

「殺す、殺してやる。蒼い鱗の竜人剣士……!」

 きつく噛み合わせた歯を剥き出しにして、プロミナが吼え猛る。
 大きく見開かれたその瞳には、昏く粘つくような殺意の光。こんな目もできたのか。
 一方で、仇と呼ばれた竜人剣士は、プロミナを見つつキョトンとして、

「…………おぉ! おんし、あンときの小娘かい!」

 直後、笑って告げたその一言に、プロミナがまた怒り狂う。

「やっぱり……、やっぱりおまえがッ!」

 そして彼女の全身から、真っ赤な炎が噴き上がる。あ、ヤバイ。

「殺してやる。殺して――」
「今だ! 撃てェ!」

 だが、プロミナが斬りかかる寸前、その場に男の声が響き渡った。
 すると、物陰から幾つかの陰が飛び出てくる。それは、ラズロ達三人組だった。

「行きますわ!」
「死ね死ね死ね死ねぇ~!」

 女魔術師のリシルと、女盗賊のミーシャがガルンドルに向かって攻撃を開始する。
 リシルは火属性の攻撃魔法を使い、ミーシャは弓を連射し始めた。

 ミーシャが射る矢は、先端に赤い光が灯っていた。
 これは、火属性の魔法が込められた炸裂矢か。着弾時に起爆する効果があるはずだ。

 ガルンドルの巨体が、立て続けの爆裂によって覆い隠される。
 辺りには、巻き上がった土煙が何重にも立ちこめていた。

「ハハッ、ハハハハ! やった、やったぞ! 高額賞金首をぶっ殺したぞ!」

 土煙を前に、はしゃぐラズロ。
 俺から見ればバカ丸出しではあるが、ちょうどいい。

「来い、プロミナ!」

 プロミナの手をひっ掴み、俺はひとまずその場を離れようとする。

「待ってよ、先生ッ! あいつは、あつは私が殺さなきゃ……! 私が!」
「バカか! あの竜人剣士が、今の攻撃程度でくたばるワケねぇだろ!」

 叫び返すとほぼ同時、土煙の向こうからガルンドルがノッシノッシと歩み出てくる。

「……え、無傷?」

 ラズロの間の抜けた声がちょっと面白かった。

「クソジャリ共がぁ……」

 ガルンドルの顔からは、笑みが消えていた。
 そして、長い尾がヌルリと動いて、その先端が背中の曲刀を掴んで引き抜く。

「ワシのお楽しみの邪魔ァ、しくさりおってからにィ!」
「ひ――ッ!?」

 その場に斬撃の嵐が吹き荒れた。
 曲刀を掴む長い尾と両手に伸びる鋭い鉤爪。やつはそれを縦横無尽に振り回す。
 周りの地面に、壁に、次々と傷が刻まれていく。

 なるほど、これが一刀十爪。
 強靭な尾と鉄より硬いという爪を持つ竜人種でなければ実現しえない特異剣術だ。

「ぐ、ぎゃああああああ!?」
「ひぃぃぃぃぃ!」
「ぐべぁぁぁぁぁぁ!」

 怒涛の連続攻撃に巻き込まれ、三人は情けない悲鳴をあげて吹き飛ばされる。
 それを見て、プロミナの顔がますます怒りに歪んでいく。

「ガルンドル……、ガルンドル!」

 ラズロ達を案じてるワケじゃない。暴れる仇の姿に、過去を重ねているだけだ。
 だが、それによってプロミナの体から噴き出る炎がさらに激しくなる。こりゃいかん。

「落ち着くんだ、プロミナ! 怒りに呑まれるな!」
「うるさい、うるさい! やっと見つけた仇なのよ? 絶対に殺してやる!」

 だが、俺が言ってもこの有様で、今の彼女にはただの説得は届きそうにない。
 ならば、仕方があるまい。これだけはやりたくなかったが――、

「……落ち着かないと、遺跡でのこと誰かに話しちゃうぞ」
「ッッッッ!!?」

 そっと耳打ちしただけで、プロミナの顔は真っ赤になって、炎も消えた。

「な、な、な、な……!?」
「よ~しよしよし、落ち着いたな。いい子だ。それじゃあ作戦会議だ」

 ギゴゴゴとこっちを向いたプロミナに、俺はそう言って笑いかける。

「作戦、会議……?」
「そうだ。君があいつに勝つための作戦会議だ」

 俺は腕を組んで、ガルンドルの方をチラ見する。
 やっこさん、ラズロ達をぶっ飛ばしてスッキリしたようで、顔に笑みが戻っていた。

「おぉ? ワシをぶった切るための算段をつけちょるんか? ええぞぉ、ええぞぉ、待ってやるけぇ、しっかり作戦考えんさいよ。ヌハッハハハハハハハハハ!」

 余裕ぶっこきやがって、すぐにその鼻っ柱へし折ってやる。プロミナが。

「――が、その前にお仕置きだ」

 視線を戻し、俺は指先でプロミナの首筋を軽くなでた。

「きゃんっ!」

 彼女は一声鳴いて、身を激しく竦ませる。

「いいか、プロミナ。次、怒りに我を忘れたら俺が君をイキ地獄に揉み堕とす。OK?」
「ひゃ、ひゃい、先生……!」

 全身をゾクゾクさせつつ、姿勢を真っすぐに正すプロミナ。
 うんうん、いいぞ、聞き分けがいいのは美点だぞ。

「さて、今、君は死にかけました。ぶっちゃけ、非常にバカです」
「え、し、死にかけ……!」

 まさかと言わんばかりにプロミナは目を丸くする。

「君さ、今、全身からデタラメに血気を放出してたの、気づいてた?」
「血気を、放出……?」

 ほら~、やっぱり気づいてなかったぁ~! も~、怖いわ~、マジで!

「いいか、君は凄まじく強い心臓を持ってる。これは、生命力を血気に変える効率が極めて高いことを意味する。そして、さっきの君は無意識のうちに発生させた血気を外に垂れ流していた。これがどういうことかわかるか?」
「えっと……、血気は生命力から生まれる力だから、それってつまり……、あ」

 気づいたようで、プロミナの顔が軽く青ざめた。

「そうだ。君がやったことはほとんど自傷行為だ。自ら、自分の命を外に投げ捨ててたんだ。あのまま放っておけば、君は一分もたずに死んでたぞ。俺が保証する」
「一分……」

 プロミナの体力の上限は俺のマッサージによって昨日よりはるかに上がってる。
 だが、血気への変換効率が高すぎて、それほどの体力でも一分ももたない。

「じゃあ、血気を使わずにあいつと戦え、と……?」

 恐る恐る、プロミナが俺に尋ねてくる。
 確かに、あのガルンドルという竜人と戦うなら、血気は必要となるだろう。
 だから俺はかぶりを振った。

「そんなことは言わない。ただ、君にはまだ具体的な血気の使い方を教えていない。その辺りを考慮して、戦法を工夫する必要がある。つまり――」

 声をひそめ、俺は彼女にガルンドルとの戦い方を教えてやる。

「そ、そんなことで……?」

 プロミナの顔には、強い不安が浮き出ていた。理解しかねる、といった様子だ。

「大丈夫だ。俺はできると信じてる。だから君も俺を信じろ」
「……わかった」

 言って、ポンと肩を叩くと、プロミナは表情を引き締めてうなずいた。
 そして彼女は、鋭くガルンドルを見据える。

「おぉ、終わったんか? ヌハハ、ならば勝負ぞ! やっとじゃ、やっと剣士と勝負ができるわ! 嬉しいのう、嬉しいのう! ヌガッハハハハハハハハハハハハハ!」
「ガルンドル、家族の仇、討たせてもらうわ!」

 竜人剣士の前に立ち、再び剣を構えるプロミナ。
 対して、ガルンドルはしっかりを足を広げ、腰を落として臨戦態勢に入る。

「クッフフ、仇を討つ、か。実に勇ましい。そして、鋭い殺気よ。先刻よりも全然研ぎ澄まされておる。さぁ、どう来る? ワシの一刀十爪に、どう抗う?」

 ガルンドルは実の楽しげだ、が、その構えに隙はない。
 自称する通り、こいつは生粋の剣士だ。
 使う技こそ奇異だが、それもこいつなりの創意工夫の結晶だと窺い知れる。

 冒険者ギルド前、往来のど真ん中で静かに対峙する二人の剣士。
 一人は笑い、一人は無表情。片や一刀十爪、片や長剣一本。――そして、動き出す。

「いざ――、いざいざいざ、いざ尋常に勝負ゥゥゥゥゥ――――ッッ!!!」

 仕掛けたのは、ガルンドル。
 尾に持った曲刀と両手の鉤爪を超高速に振り回し突撃する、一刀十爪。斬撃の嵐。
 それは、己の周りにあるもの全てを斬り裂く、攻防一体の妙技だ。

 しかもガルンドルが見せる剣速は、ラズロのときよりもはるかに速い。
 これが、こいつの本気。自分に立ち向かう剣士だけに見せる、真の一刀十爪か。

「やれ、プロミナ!」
「……はい!」

 俺の声援に応じ、プロミナも動き出す。
 前にするだけでも恐怖に駆られるだろう至上の暴力を前に、彼女は力強く踏み込んだ。

 両手に持った長剣を、高々と振り上げる。
 その、鈍い銀色の刀身に橙の輝きが淡く浮かんだ。刃に、血気が流し込まれた。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!」

 さっき、俺がプロミナに伝えたこと。それは大した内容じゃない。
 ただ一言だけ『真正面からブチ破れ』とだけ伝えた。
 その教えの通りに、プロミナはガルンドルを真っ向から迎え撃とうとする。

「真正面からッ、ブチ破ってやる――――ッ!」
「ナメ腐るな、小娘ェ! ワシの一刀十爪は、最強最高絶対無敵じゃあぁァァァァ!」

 プロミナの全力の振り下ろしとガルンドルの斬撃の嵐が、正面から激突した。
 爆音にも優る、両者の激突音。それは轟く雷鳴にも似ていた。そして――、

「……バカな」

 一瞬の交差ののち、呟いたのはガルンドルだった。
 その瞳が、両手を見下ろす。そこにあるはずの鉤爪の何本かが、失われていた。
 しかも尾に掴む曲刀の刀身も、半ばから折れてしまっている。

 宙に高くまで斬り飛ばされたそれらが、地面に落ちて小さな音を立てた。
 ささやかな音ではあったが、それが、二人の勝負に決着を告げる鐘となった。

「私の勝ちよ、ガルンドル」

 振り返り様、プロミナはそう宣言したのだった。
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