趣味で冒険者のトレーナーをしている俺はワケアリ女冒険者からは「私を揉んで!」とよく言われる

はんぺん千代丸

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第10話 元SSランク冒険者『美拳』のルクリア

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 プロミナと、一つ約束をした。

「なぁ、プロミナ」
「ぅ、ひゃう~……?」

 話しかけると、ベッドに身を投げだした格好のプロミナがこっちを向いてくる。
 しっかりと全身揉んだ後なので、その顔はトロントロンになっている。

「一つ、約束してほしい」
「にゃに~? 何でも言ってぃぃょ~、ふぁあ~。頭はほわんほわんすりゅ~」

 本当に大丈夫か、と思いつつ、俺は本題を告げた。

「君の親の仇が見つかっても、俺がいいと言うまで戦わないでほしい」
「……何で?」

 途端に、プロミナの表情が引き締まった。
 たちまち全身から鋭い殺気は放たれて、それは俺の身を容赦なく貫いた。

「どうして、そんなこと言うの。私が強くなりたい理由、知ってるでしょ?」
「ああ、知ってる。君の家族を殺し、故郷を焼いた蒼鱗の竜人剣士を討つためだ」

「そうよ。それが私の生きる理由。私が強くなりたい理由」
「強さを求める動機にするのはいいが、生きる理由にはしないでくれ。頼む」

 ベッドから起き上がったプロミナへ深く頭を下げる。
 自分の言っていることが自分勝手なわがままでしかないことは重々承知している。
 だがこれは、今のうちに言っておかねばならないことだった。

「…………」

 頭を下げる俺に、プロミナの視線が突き刺さる。
 そうしてしばしの間を置いて、彼女は短く「どうして?」と俺に尋ねてきた。

「何で、そんなこと言うの? 私に仇を討つなってこと?」
「そうじゃない。俺は君に仇を討たせてやりたい。だけど、同時に――」

「同時に、何?」
「俺は、君を幸せにしたいと思ってる」

 俺は顔をあげて、まっすぐにプロミナを見つめながら、そう告げた。

「し、幸せに……ッ!?」

 何故だか、頬を紅潮させるプロミナ。
 どうして動揺するのか、もしかしたら意味が正確に伝わってないからかな。

「仇を討ちたいという願いは尊いものだ。それを動機として強さを求めることも全然悪いことじゃない。ただ、それだけを追い求める人間になるのは、ダメだ。それだったら俺が君を導く。俺が、君に道を示す。ただ空虚なだけの道を歩ませたりしない」

 しっかりとわかってもらうべく、俺は声に力を込めた。

「先生……」
「これは完全に俺のエゴだ。でも、約束する。俺は君を強くする。だから……」

 呆気に取られているプロミナを一直線に見据える。
 この子はどう返してくるのか、強い不安の中でそれを待ち続けていると、

「本当に、私のこと、強くしてくれる?」
「ああ、必ず。君の目的を確実に果たせるだけの強さを、俺は君に授けるよ」
「――うん、わかった。ならいいよ。先生のこと、信じる」

 柔らかに微笑む彼女に、俺も顔を綻ばせて「ありがとう」と返した。
 これが、俺とプロミナとの約束だ。


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ロガートの街の一角にね、小生意気にも闘技場とかあるんですよ。
 ただの中堅国家の地方都市に、大国の大都市でしか見られないような立派なのが。

 建てたのは、実はルクリア。
 元々は数十年前に建設計画が立ち上がって、資金不足で一旦中止したらしい。

 そこにどっちゃりと資金を注ぎ込んだのがルクリアだったって話。
 そして完成した闘技場は、今では様々な興行に使われているロガートの名所だ。

 ルクリアは元SSランク冒険者だが、同時に商才にも恵まれてたらしい。
 冒険者ギルドの長であると共に、職人ギルドと商人ギルドの大口出資者でもある。

 この街での影響力と発言力が大きすぎて、ついたあだ名が『影の領主』。
 っていう自慢話を、これまで何回されてきたかなぁ、俺……。

 で、何で俺がこんなことを語ってるかっていうと――、

「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ――――ッ!!!!」」」

 今から、満員御礼の闘技場でルクリアとプロミナの戦いが始まるからでっす。

「うおおおおおおお、ルクリアさぁぁぁぁぁぁぁん!」
「五年ぶりの『美拳』の雄姿だ! この目に焼き付けてやるぜェ!」

 両者入場前だってのに、早くもルクリアが大人気。
 考えるまでもなく、当たり前か。

 魔法偏重の大陸西部で最上位のSSランクを掴み取った女武闘家。
 それだけでもとんでもないことだ。
 大スターとして、人気が出ないわけがない。

 さらに言えば、今はロガートの『影の領主』として別の方向で活躍し続けている。
 冒険者引退後も色んな意味で常に注目され続けてるのがルクリアだ。

 今回だって、自分の対決を興行にしたのはあいつ本人だ。
 ガルンドルとの戦いから、今日で十日。
 その間にルクリアは闘技場を確保し、街の内外に今日のことを宣伝しまくった。

 その結果が、すり鉢状の観客席を満たす、この大観衆よ。
 まぁ、よくやるモンだわ。抜け目がないというか、何というか。

「ルクイアさんと戦うのは誰だ? プロミナ? え、誰?」
「『冒険者ギルド破り』をぶっ倒したのが、そのプロミナって子らしい」
「へぇ、もしかして強いのか……?」

 観客のほとんどがルクリアを応援する中、かすかに混じるプロミナを語る声。
 ガルンドルとのことも多少は評判になっているらしい。

 それでも、この場にいる連中のほとんどはルクリアを見に来ている。
 ルクリアが勝つところが見たい。
 そんな観客達の期待を裏切れるかどうかは、プロミナ本人にかかっている。

「何でおまえがこんなところにいるんだ『草むしり』ー!」
「私達はルクリア様を見に来たのよ、さっさといなくなれー!」
「そうだ、帰れ帰れ~!」

 そして何故か一身に罵倒を受ける俺。
 まぁ、二人も入場してないし、闘技場のど真ん中に立ってるからね、俺。

 俺がここに立っているのは、プロミナとルクリアの二人に希望されたからだ。
 試合のレフェリーを俺にやってほしいんだとさ。

 今回のレギュレーションは、制限時間三十分の一本勝負。
 武器と防具は普段使っているものでOK。一方が降参した場合、その時点で決着。
 また、一方が意識を失ったら、そのときも決着とみなす。という感じ。

 他、反則となる項目が幾つかある程度。毒、呪いの使用とか。
 まぁまぁよく見るルールだ。難しいところはない。

 俺は毒と呪いの使用もアリにしてほしかったが、興行的にNGなんだってさ。
 プロミナにその辺りの経験も積ませておきたかったが、別の機会にするか。

 高らかにファンファーレが鳴り響く。
 両者入場の時間が来た。
 闘技場の東西にある入場口の奥から、いよいよ二人が姿を現す。

「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ――――ッ!!!!」」」

 再び沸き立つ観衆。
 その視線のほぼ全てが、西側から現れたルクリアに注がれている。

「もぉ~、今さらこの格好で人前に出るのなんて、恥ずかしいだけなのよね~」

 苦笑しながら、ルクリアがやってくる。
 長い金髪を三つ編みにしてまとめ、両手に金属製の篭手。足もひざ下を覆う足甲。

 纏っているのはいかにも武闘家風の装束で、体の線がはっきりわかる。
 普段はあまり意識していなかったが、均整の取れたプロポーションをしている。

 手足以外、防具と呼べるものは一切着けていない。
 それは自信の表れか、それとも己の戦い方に合わせた結果なのか。

 東側の入場口から、プロミナが現れた。
 腰に愛用の長剣を提げ、身に着けているのは革の防具。動きやすさ重視の装備だ。

「…………死にそう」

 プロミナの顔は、げっそりしていた。
 これだけの人間の前で戦わにゃならんのは、相応に重圧だわなぁ。
 いざ、試合が始まればすぐに集中できるの知ってるから、放っておくけども。

「はぁい、プロミナちゃん。今日はよろしくね! がんばってね!」
「あ、はい。よろしくお願いします」

 軽く笑うルクリアに、プロミナがペコリを頭を下げる。そして彼女は頭をあげて、

「今日は、お酒飲んでないんですね。ギルド長」

 気づいたことを口にする。するとルクリアは笑みを深めた。

「いいね、少しでも対戦相手の情報を手に入れようとする姿勢。お姉さんは嫌いじゃないよ。でも残念、間違ってま~す。……今日は、じゃなくて十日前から、だよ」

 ルクリアの浮かべる笑みに剣呑なものが混じる。
 彼女の全身から強烈な殺気が放たれた。間近に浴びたプロミナが顔を険しくする。

「お姉さんね、ケンカを売ってきた相手には、売値の五倍でお買い上げって決めてるのよね。だから、もしかしたら今日がプロミナちゃんの引退日になっちゃうかも」

 声を一段低くして脅してくるルクリア。
 プロミナは「大丈夫ですよ」とそれを受け流し、笑い返した。

「私、これでも結構、揉まれてますんで」
「そっか、魔法も使えない剣士だモンね、厳しい世間の荒波に揉まれ慣れてるかぁ」

 いや、俺に揉まれてます。

「それじゃ、コージン君」
「コージン先生」
「「始めの合図、よろしく!」」

 二人が声を揃えたのち、互いに背を向けてゆっくりと離れていく。
 試合開始を前にして、観客席がシンと静まり返る。それはまさに嵐の前の静けさ。

 観客達が見る試合場には、全面に砂が撒かれている。
 数多の沈黙が作る静寂の中、聞こえるのは立ち合う二人が砂を踏む音だけ。
 そして両者は向き直り、距離を空けてその視線をぶつけ合う。

「――始め!」

 俺が開始の合図を告げた。
 真っ先に動いたのは、ルクリア!

「それじゃ、コージン君が入れ込んでるプロミナちゃんの実力、見せてもらうわね」

 そしてルクリアの頭上に、三つの魔法が顕現する。
 渦巻く炎、渦巻く冷気、渦巻く雷光。それぞれ属性の違う三つの攻撃魔法だ。

 それを見て、俺は「やはり」と思った。
 普通、前衛攻撃担当が使う魔法は自己を強化するバフ魔法と相場が決まっている。
 パーティーにおける主な役割は牽制。メインアタッカーはあくまで後衛だ。

 だが、ルクリアは違う。
 彼女は前衛攻撃担当でありながら、後衛と同じく攻撃魔法を用いる。

 戦士としての才に優れる場合、血気と相性はいいが、魔力とは相性が悪い。
 そのため、魔法を使っても魔術師ほどの効果が現れないはず。だが、

「お姉さんね、結構器用なのよ~!」

 ルクリアが三つの魔法を全くの同時に解き放つ。
 傍目に見てもその威力は、専門職たる魔術師にも劣らない。一級品の攻撃魔法。

 やはりルクリア――、彼女の本質は魔術師か。
 同時に、戦士の才も備えている。一方に特化するより両方を選んだクチだ。

 最強にはなれずとも、万能になることができる道。
 当然、実現するには下地となる才と、それを伸ばすための多大な努力が必要だが。
 その高いハードルと難しい要求を全てクリアしたがゆえの、SSランク!

 一方で、迫る三つの魔法を前にプロミナは剣を構えたまま動こうとしない。
 炎と冷気と雷光が、彼女に押し寄せ直撃した。煙が激しく立ち上がる。

「決まったァ――――!」
「すげぇ、一撃で決めたぜ、さすがはルクリアさんだァ!」

 途端に盛り上がる観衆共。
 今の一撃で勝負は決着した。ルクリアの圧勝。『美拳』は今も健在なんだ。
 と、観客達はそんな感じでこの戦いを締めくくろうとしている。

「あれ、本当に終わっちゃった? お姉さん、まだ蹴りの一発も出してないわよ?」

 当のルクリア本人でさえ、このザマだ。
 この辺り、いかにSSランクでもやはり『元』だな。勝負勘が鈍ってる。

「――ンなワケねぇだろ」

 俺がひそかにほくそ笑む。その理由は、すぐに明らかになった。

「どうしました」

 魔法の炸裂によって発生した煙が徐々に晴れて、その向こうから声がする。

「私は、この通り健在ですけど?」

 煙の向こうのプロミナは、剣を構えたままその場から微動だにしていなかった。

「……無傷?」

 ルクリアがかすかに目を見開く。
 俺は、内心にガッツポーズをしていた。やった、成功だ、と。

 実はこの試合を行なうにあたり、俺はプロミナに一つの課題を突きつけていた。
 それは――、

「ギルド長。私からは攻めないであげますから、魔法、好きなだけどうぞ?」

 試合中、一切の攻撃禁止だった。
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