趣味で冒険者のトレーナーをしている俺はワケアリ女冒険者からは「私を揉んで!」とよく言われる

はんぺん千代丸

文字の大きさ
11 / 32

第11話 対『美拳』、決着。そして、対『美拳』

しおりを挟む
 話は、一週間前にさかのぼる。

「は? 攻撃禁止!?」
「そう」

 使っている宿の、俺の部屋でのこと。
 俺が口にしたその課題に、プロミナは当然のごとく拒否反応を示した。

「それじゃあ、試合に勝てないよ、先生!」
「勝つ必要はない。そもそも、ルクリアさんとの試合の主題は勝利じゃない」
「……どういうこと?」

 かぶりを振る俺に、プロミナは眉根を寄せた。

「何か闘技場で観客集めてやるとか変な話になってるが、ルクリアさんとの試合は、俺からすればあくまで稽古だ。勝ち負け以外の部分に目的があるんだよ」
「その目的って、何なのよ?」

 勝つことより優先するものがある。
 そう言われてもプロミナは納得できかねるようだった。ま、説明するが。

「気功の根幹技術の一つである『備衣そなえ』の体得だよ」

 プロミナが最優先で覚えるべき技術、それが気功の二大基礎の一つ『備衣』だ。
 二大基礎のもう一つは『呼導こどう』という技術。

「『呼導』については、君はすでに使っている」
「え、私、もう使ってるの?」
「自分の武器に血気を纏わせるアレだよ」

 己の武器に血気を注ぎ、威力を爆発的に向上するのが『呼導』。
 体ではなく器物に血気を通すということもあり『備衣』よりも難易度が高い。
 でもこの子、それを難なく使っちゃったモンなぁ……。

「その『備衣』っていうのは、どんな技なの?」
「血気を全身に巡らせて、自己強化したり体に色んな効果を付与する技だ」
「……何か、地味ね」

 基礎だっつってんだろ。

「あのな、プロミナ。『備衣』を覚えないと、魔法使う相手には勝てないぞ」
「何よそれ、聞かせてよ」

 食いついてきた、食いついてきた。

「『破魔備衣はまぞなえ』っていってな、魔力を遮断する効果の『備衣』がある」
「……魔力を遮る『破魔備衣』」

「ガルンドルとラズロ達が戦ったときのことを思い出せ」
「あ、そういえば、魔法を受けても無傷だった!」

 そういうことだ。

「ガルンドルは血気を使えるワケじゃない、が、あいつは竜人だ。生命力が人よりはるかに強い。生命力は文字通り生きる力だ。己を脅かすものに抵抗効果を発揮する」

 それを極端に尖らせたものが『破魔備衣』。
 気功を使う剣士にとってはまさに生命線となりうる技だ。

「ここまで説明すれば、もうわかるだろ。俺の意図」
「『破魔備衣』で耐えきれっていうんでしょ、ギルド長の攻撃魔法を」

 ハイ、正解。
 今回のテーマは『できる限り長くルクリアの攻撃を耐える』なのだった。


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ――試合開始後、五分経過。

「この、いつまでも石像みたいに……!」

 試合が始まってから一切動いていないプロミナに、ルクリアがいきり立つ。
 構図としては、動かないプロミナを中心に色々と動き回るルクリア、という感じ。

「これで――、どう!」

 空中に展開する、多数の魔法陣。
 それは次々に火弾や光線を発射して、プロミナを襲った。

 直撃。
 直撃。
 また直撃。

 起きた爆発に土砂が吹き上がる中、さらに火球、光線、冷気、雷撃。
 ルクリアが見せる攻撃魔法は、実に多彩だった。

 この世界の生き物は、それぞれが固有の属性を有している。
 例えば、プロミナなら火と光の二属性。
 ルクリアは、多分だが地水火風の四大属性全てを有しているのではなかろうか。

 彼女の見せる魔法のバリエーションを見るに、そんな気がする。
 もちろん、保有属性の数もまた才の一角。彼女の天才ぶりがうかがえる。
 だが、それでは今のプロミナは、仕留めきれない。

「……何でよ! どうして無事なのよ!?」

 ルクリアが不快げに吼える。
 余波が収まったのち、そこに平然と立っているプロミナを見たからだ。

「それで終わりですか、ギルド長?」

 言って、余裕そうに笑うプロミナ。ルクリアの眉間に深いしわが生じる。
 プロミナは、見事に『破魔備衣』を使って見せていた。

 いやぁ、末恐ろしい。
 やっぱプロミナは天才だ。ペース配分まで完璧じゃねぇか。

 実は、プロミナにはもう一つ課題を出してあった。
 それは『この試合を十分間耐え凌ぐこと』だ。
 今までのように配分を考えず血気を使っていると絶対に達成できない課題だ。

 が、すでに試合が始まって六分が過ぎようとしている。
 だが未だプロミナは倒れず、剣を構え続けていた。

 汗の量が増えているのがわかった。
 さすがに体力の消耗が激しいのだろうが、このままいけば十分は越えられる。

「何だあのプロミナとかいう相手、全然攻めてないぞ……?」
「それ以前にルクリアさんの魔法が効いてないっぽくないか? 何かの魔法か?」
「いや、あの女剣士、魔法は使えないらしいぞ……」

 観客達が、徐々にザワつき始める。試合場で起きている異常にやっと気づいたか。
 声援のほとんどは未だルクリアに向けてのものだが、それも少し弱まった。

「…………くっ!」

 空中に魔法陣を生みつつも、ルクリアは魔法を発動させずに移動を続ける。
 魔法攻撃に意味はないと思い知ったのだろうが、プロミナも動く。
 足は踏み込まず、体の向きだけを変える。

 切っ先の延長線上にルクリアを捉え続け、決してそれを変えさせない。
 ルクリアのフェイントにも反応もせず、ただ、それだけを徹底し続けていた。

 そこからの三分間は、観客達にとっても見応えがなかったろう。
 魔法も使わず走り回るルクリアと、それに合わせて向きを変えるだけのプロミナ。
 見ていて何ら面白みのない展開が延々続くだけなのだから。

「――あのねぇ」

 ルクリアが、いきなり走ることをやめて盛大にため息をついた。

「ちゃんとやってくれないかしら、プロミナちゃん。今この場に、どれだけの人がつめかけてるかわかってる? これじゃあ興行にならないのよね~、ねぇ、みんな!」

 そんなことを言い出し、ルクリアは観客に向き直って煽るように両腕を広げた。

「そうだー! ちゃんと試合やれー!」
「こっちは金払ってんだぞ、ちゃんと楽しませろォ!」

 観客席から次々に起きるの非難声。
 闘技場全体に波及したそれは、試合場をも揺るがす大ブーイングの嵐と化した。

「わかったかしら? お客様もこう言ってるんだし、ちゃんとした勝負をね――」

 体は観客席を向いたまま、肩越しにプロミナを見ようとするルクリア。
 どうせビビッてるプロミナでも想像してたんだろうが、的外れもイイトコだ。

「どうでもいいですよ、お客さんなんて」

 今のプロミナに、この程度の罵倒、そよ風にもなりゃしない。

「……あんた」

 肩越しに見ていたルクリアの顔から、戻りつつあった余裕が消し飛ぶ。

「ところで、いいんですか」
「え……」
「今、ギルド長は私に背中を向けてますけど、本当に私が攻撃していいんですか?」

 プロミナが淡々と告げた致命的事実に、ルクリアの表情が引きつった。
 彼女は慌てて体の向きを直そうとするが、一歩早く、プロミナが突撃した。

 ルクリアが構えを取ろうとした瞬間には、すでにプロミナが懐に入っていた。
 そして、しっかり両手に握られ振り上げられる長剣。
 観客の間で悲鳴じみた声があがり、ルクリアは絶望に染まった顔で刃を見上げる。

「――参りました」

 間もなく告げられた、決着の声。
 それを言ったのは、膝を屈したルクリアではなく、刃を止めたプロミナだ。
 試合開始から十分が経過した瞬間のことだった。

「……へ?」

 突然の降参に、ルクリアは眼前の刃を見上げたまま声を漏らす。
 俺はスッと右手を挙げて、宣言した。

「勝負あり。勝者、ルクリア・ヴェスティ」
「ありがとうございました。勉強になりました」

 自ら敗北を認めたプロミナが、そう言ってお辞儀し、場をあとにしようとする。

「ま、待って。待ちなさいよ! どういうつもりよ!?」

 ルクリアが声を荒げてプロミナを呼び止めようとする。
 しかし、完全に白けた顔つきのプロミナは振り返りもせず、一言だけ告げた。

「私は稽古をしに来ただけですから。成果は十分だし、これ以上見世物になるつもりはないです。っていうか、ギルド長のくだらない嫉妬に付き合う気もないです」
「く、くだらない嫉妬……」

 呆然となりながら、ルクリアがその部分だけを繰り返す。
 去りゆくプロミナが、すれ違いざまに俺に言った。

「『破魔備衣』、すごいね。全然、痛くなかったよ」
「だろ? 気功は奥が深いぜぇ~」

 と、笑いながら俺は「お疲れ」とプロミナの肩を叩いた。
 その労いに彼女は笑って、だがすぐに表情を引き締め、こう続けた。

「あと、ギルド長のこと、お願いしていいかな、先生」
「任せろ」

 そしてプロミナは東側の入場口へと消えていった。
 あとに残ったのは、俺と、呆けたままのルクリアと、満員のままの大観衆。

「ナメた真似をしたから、やり返された。それだけの話だ、ルクリアさん」
「コージン君……」

「俺は別に、こんなオオゴトにしてくれなんて頼んじゃいねぇ。客まで入れて、あの子を見世物にしようとしたのはあんただ。やり返されて当然だと思わねぇか?」
「……そう、かもね」

 俯いていたルクリアが、ゆらりと顔をあげる。
 そこには、尋常ならざる色を帯びた、歪んだ彼女の笑顔があった。

「でもねコージン君。お姉さんとあの子じゃ、格が違うの。私はロガートの街の『影の領主』よ。その一方で、あの子は一介の冒険者風情。ね、全然違うでしょ?」
「そうだな、全然違うな」

「さすがはコージン君、理解が早いわ。うん、そうよね。冒険者如きが私をナメるなんて許されないわ。だから悪いけど、プロミナちゃんはギルド追放かしらね」
「回りくどいな、ルクリアさん。素直にあの子が羨ましいって言えばいいのにな」

 俺が軽く笑うと、ルクリアがギロリと睨んできた。

「……何が言いたいのかしら、コージン君?」
「いや、別に。っていうか言葉はもういいだろ。俺もあんたも、弁士じゃない」

 そして俺は軽く両足を広げる。

「来いよ、ルクリアさん。俺があんたを揉んでやる」

 軽く手招きした先で、ルクリアが憤怒の雄叫びをあげた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...