趣味で冒険者のトレーナーをしている俺はワケアリ女冒険者からは「私を揉んで!」とよく言われる

はんぺん千代丸

文字の大きさ
16 / 32

第16話 ラズロ君への一言は『今そういうのいいから』です

しおりを挟む
 翌日、冒険者ギルドの二階にて。

「はぁ~い、それじゃ『あたし達』のパーティー結成初依頼の打ち合わせ、しよ!」

 さほど広くない個室にて、やたら声を弾ませるのは、ルクリアだ。
 この部屋は、表に出せない情報を抱えた依頼に関する話をするためのものだ。

 あるのはテーブルと椅子だけで、機密を守るため防音の魔法が壁に施されている。
 ただ、どこぞの竜人のせいで四つある部屋のうち三つが現在使用不可だとか。

「え~、ルクリアさん? ……パーティーって?」

 俺は単刀直入に聞いた。

「組んで?」

 そしたら、あっちも単刀直入に来た。

「……何でそうなるんすか?」

 え、聞いてないんですけど。俺もプロミナも、そんな話聞いてないんですけど。

「もうソロはイヤ。結局、引退に追い込まれた理由がそれだしさ」
「むぅ、それはまぁ……」

 冒険者に復帰しても、ソロでやり続ければ必ずどこかで無理をする羽目になる。
 それを思えば、パーティーを組むというのもわかる話ではあるんだが――、

「何で俺ら?」
「酷いよコージン君! あたしを組み敷いてあんなに激しく鳴かしておいて!」

 おい、人聞きの悪いことを言うんじゃないよ!?
 外に音漏れしてたら、また変な噂立つやつでしょうが、その言い方は!

「う~ん、プロミナはどう思う?」
「へ? 何で私?」

 何か、我関せずって感じでお茶啜ってるけど、君も当事者の一人だろ。

「う~ん、ギルド長がいるとできることの幅は思いっきり広がるよね~」
「のん気に言ってるけどな、プロミナ。パーティーを組むならリーダーは君だぞ」

 ぶぴっ。
 プロミナがお茶を噴いた。

「わ、私が!?」
「当たり前だろ。俺は君のトレーナー。裏方、後方支援、がんばれって言う側」

 俺からすれば、何を今さらって話ではあるんですけど?
 ルクリアの方はというと、眉間いっぱいにしわを作り表情にもしょっぱみが増す。

「は? このクソバカガキがリーダー? 何それ、あり得ないんだけど」

 ルクリア、思いっきり地が出てるよ、地が!

「あり得ないぃ~? ……へぇ、そんなこと言っちゃうんだ、ギルド長ったら」

 あれ、何でプロミナも反応してんの? 何でそんな目くじら立ててんの?

「…………」
「…………」

 そして、何で互いに無言で身を乗り出して、殺気を撒き散らして睨み合ってんの?
 無意味に部屋の気温を下げるのやめなさいよ、君達……。

「……って、そういえばギルドの職務はどうすんのさ、ルクリアさん」
「それは下に任せるわ~。お姉さん、副ギルド長のウォールトさんを信じてるから」

 途端に普段のお姉さんモードに入るルクリア。
 ウォールト・レンギットは頭髪がかわいそうな事態になってる四十路のおっさん。
 このギルドの副ギルド長で、実質的に業務全般を取り仕切っている。

「お姉さんはお飾りに徹してればいいから、楽よねぇ~」
「自分がいなくても回る組織作りをしたといえば聞こえはいいが、あんた最低だな」

 俺は率直な意見を述べた。

「いいのいいの、それよりもほら、依頼の打ち合わせ! やろうよ、ね!」
「うわぁ、このギルド長、ウッキウキだよ、先生」
「よっぽど冒険が楽しみなんだろうねぇ……。ま、じゃあ打ち合わせしますかね」

 言って、俺がギルドから借りた地図をテーブルに広げる。
 この辺一帯を大雑把に記したもので、真ん中辺りにロガートの街を示す印がある。

「で、今回は薬草採取。ただし、難しめのやつね」
「『湖岸の翠月花』、だっけ? それってどんな薬草なの、コージン先生」

「エリクサーの原材料。っつったらわかる?」
「死んでさえいなければ体を完全に治すっていう、あれ!?」

 小さく驚くプロミナ。うん、そう、そのあれ。

「そうそう、原材料が貴重すぎてそもそも市場に出回らないから値段もつかないあれ。出てきさえすればお金で解決できるんだけどねー、全然出てこなくてさ……」

 依頼人でもあるルクリアも、腕を組んで顔に渋面を浮かべる。

「だから、エリクサーを作るために必要ってこと?」
「そうよ~ん、プロミナちゃん。錬金術師の手配は終わってるし、原材料もあとはこの『湖岸の翠月花』だけなんだけど、これの採取難易度がバカ高くてね~」

 プロミナが『そうなの?』という感じで俺を見てくる。

「そうだねぇ、名前の通りこいつは湖の岸辺に咲く花なんだが、実はこれ自体はありふれた薬草なんだ。ただし、ありふれてる方は『湖岸の蒼月花』というんだが」
「あれ、ちょっとだけ名前が違う」

「よく見るのは『蒼月花』の方。『翠月花』はこれの突然変異種なんだよ。だから、滅多に見つからない。それと色合いもほとんど変わらないから、見分けるのも大変」
「うわぁ、めんどくさ……!」

 ま、だからこそルクリアは俺にこの依頼を持ってきたのだろう。
 俺なら、数ある『蒼月花』の中から『翠月花』を見分けることもできなくはない。
 ただ、他に気になることが一つある。

「ルクリアさんさ、これ、一応の確認なんだけど」
「何かな? あたしの今夜の予定? 夜は空いてるよ! 家の住所も教えるね!」

 いらんわ、別に!

「そうじゃなくて、エリクサーが必要な人間が身近にいるのか?」
「それは……」

 俺が尋ねると、ルクリアは答えを言いかけようとして口ごもった。

「いや、言いたくないならいいよ。人の事情はそれぞれだし」
「ううん、これはコージン君には言っておくべき。無関係じゃないし」

 俺が、無関係じゃない……?

「ルクリアさん、そりゃ一体――」
「ここか! お邪魔させてもらうよ、ギルド長!」

 突然、ドアが開かれて三人の人物が部屋に入ってきた。
 現れたのは鎧を着た金髪の男に、女魔術師と女盗賊。俺達は揃ってそっちを見て、

「「「何だ、ラズロか」」」

 見事にハモってしまった。

「はぁ!? 何だとは何だ! 『草むしり』に雑魚剣士が! 俺はAランクだぞ!」
「そうですわ、ラズロに対して無礼です。謝ってくださいませ!」
「そうだよ、そうだよ! 『草むしり』と剣士のクセに生意気だぞー!」

 ラズロが気色ばみ、女魔術師リシルが謝罪を要求し、女盗賊ミーシャも騒ぐ。
 うるせぇなぁ、いきなり部屋に入ってきて何だこいつ。

「ラズロ君、自分のランクを自慢する前に言うこと何かないかしら?」

 ものすごく億劫そうにしながらも、ルクリアが一応言葉を返す。

「ああ、ギルド長、ご機嫌麗しゅう。実はギルド長が冒険者に復帰するとの話を聞きまして、ギルド長を我がパーティーにお迎えすべく、参上した次第です!」

 やけに芝居がかった身振り手振りで、ラズロが露骨な自己アピールをする。
 だが、ルクリアは露骨に顔をしかめてただ一言。

「くねくねしないで、キモい」

 玉砕ッ! ラズロ、ルクリアに一言で切り捨てられる! これは無残!
 この結果にラズロは目をひん剥き、リシルは「なんて無礼な……!」と憤慨する。

「ギルド長、そのお言葉は撤回してください。ラズロ様はAランク冒険者で、商人ギルド大幹部のご子息なのですよ!」
「うんうん、そっか。なるほどなるほど。じゃあ――」

 ルクリアの顔に、にこやかな笑みが浮かぶ。が、それは一瞬のこと。

「先にそっちに前言撤回してもらおっかな。『草むしり』に、雑魚剣士、だっけ?」
「なっ、それとこれとは話が……」

 言い返そうとするリシルだが、先に表情を消したルクリアが言葉をかぶせる。

「一緒だよ。あたしの仲間をナメたんだ。――覚悟、できてるよね?」

 いつの間にか、空中に二十を越える魔法陣が展開していた。
 その全てが、ラズロ達三人へと向けられていて、完全に包囲網を形成している。

「な、あ、あんた……、ここはギルドだぞ、わかってるのか!?」
「黙りなよ、ボンボンが。どうせ三つ壊れてるんだ、残り一つが壊れたって同じさ」

 とんでもないことを平然と言うルクリアに、ラズロ達は一様に顔を青くする。
 そんな中、唯一、プロミナだけは――、

「ねぇねぇ先生、聞いた? ギルド長、私達のこと仲間だって。ねぇ」
「案外嬉しそうね、君……」
「え? あ……。べ、別にぃ~、そんなの全然、嬉しくないし」

 せめて赤くなってる頬を誤魔化してから言うといいよ、プロミナ。
 一方、ルクリア、

「で、『冒険者ギルド破り』に情けなくもブッ飛ばされたAランクさんが、『冒険者ギルド破り』をブッ飛ばした雑魚剣士とその先生の『草むしり』を、何だって?」
「う、ぐ、あ、あんただってその雑魚剣士に負けただろうが! も、もうみんな知ってんだぞ! 元SSランクの『美拳』が雑魚以下のクソ雑魚になったって!」

 ここで言い返せるラズロも、見込みがないでもないが、相手が悪すぎる。

「――それで?」
「そ、それで、だと……?」

 テーブルの上に肘をつき、ルクリアは軽く鼻で笑う。

「知ってる、ボンボン? 看板についた泥は、実績っていう布で拭き取れるんだよ」
「あ、あんたの評判は地の底だぞ! これからどうにかなると思ってるのか!?」
「上等。そういうのを覆すのも、冒険の醍醐味でしょ」

 ほら、もう全然格が違う。勝負として成り立たないレベルだよ。

「さっさと出ていきな、坊や。他人の依頼に首を突っ込んでくるような道理もわきまえないガキが、一人前の顔をするものじゃないよ?」

 そしてルクリアはクスッと小さく嘲り笑い、ラズロが顔を怒りに紅潮させた。

「お、覚えてろ! この屈辱は絶対に返してやる、俺を敵に回したらどうなるかすぐに思い知らせてやるからな! 行くぞ、二人とも!」

 お手本のような捨て台詞をその場に残し、ラズロ達は部屋を去っていった。
 そして――、

「で、先生。その薬草はどこで採れるの?」
「あのね、お姉さんは当日はお弁当を作っていこうと思いまーす!」

 二人とも、即座にラズロのことは記憶から消去したようだった。俺も忘れよう。

「ああ、『蒼月花』は湖に咲く。だから、向かうのはここだ」

 俺は地図上の一点を指で示す。
 それはロガートの街のずっと西方にある大きな湖。名前はリフィル湖。

 ――出発は、三日後と決まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...