趣味で冒険者のトレーナーをしている俺はワケアリ女冒険者からは「私を揉んで!」とよく言われる

はんぺん千代丸

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第26話 今から一緒にこれから一緒に魔王討伐に行こうか

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 俺とリリーチェは、空を見上げていた。

「落ちてこないなぁ……」
「落ちてきませんね……」

 プロミナが落ちてこない。
 一応、見上げた先にそれらしき影を見てとることはできるのだが、落ちてこない。

「星海まで飛んでいったとか、ないですわよね?」
「空の果てにあるっていう暗黒領域のこと? ……さすがにないと思いたいなぁ」

 微妙に自信がないけど。

「けど、間違いなくあの子は『勇者』やれるよ。俺が太鼓判を押すわ」
「わたくしの助力ありとはいえ、本当にルール権能を破りましたものね……」

 能力について不安はない。
 それは、リリーチェも認めてくれているようだ。

「ただ……」

 しかし、ここで彼女は俺にちょっとした不安を吐露する。

「それを成しうる力があることと、プロミナ様に『勇者』になっていただけるか否か、というのはまた別問題なのではないかと思うのですが……」
「まぁな」

 俺はそれを肯定する。
 極論、魔王に関する問題はプロミナには一切関係がない。

 彼女が『勇者』になりうる資質を持っているからといって、それは押しつけられない。
 そもそも魔王に関する問題自体、過去の俺達が残した問題なのだから。でも、

「プロミナは『勇者』をやるよ」
「それは、そうであればわたくしとしても喜ばしいことですが、本当に?」
「ああ。だって絶好の修行になるからな」

 修行。
 その言葉を出した瞬間、リリーチェの動きが止まった。

「修行、ですか?」
「修行、だねぇ~」

 何を驚くことがあろうか。
 封印されてる『十二天魔』を滅ぼす手段が血気しかないというのなら、これほどプロミナの修行に適した相手もない。きっと全方面において糧となりうるだろう。
 いやぁ、過去に残した宿題がこんな形で役に立つとは。

「プロミナは強くなりたい。俺はプロミナを強くしたい。『十二天魔』の打倒はプロミナを強くする修行にもってこい。……何か、問題あるか?」
「え~と……、あ、あれ? 問題、ないのでしょうか……、あれ?」

 リリーチェがしきりに首をかしげるが、問題はない。何も問題はない。
 まぁ、そんな風に話を持っていけばプロミナも断らないだろう。それは確信してる。

「にしても――」

 再び、リリーチェが空を見上げた。

「落ちてきませんね……」
「落ちてこないなぁ……」

 ま、このままあの子が落ちてくるまでのんびり待つとしま――、

 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ!

「大変じゃああああぁぁぁぁぁ! 一大事じゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ!

「うるせぇ!!?」

 突然の騒音に、俺は思わず叫んでしまった。
 何事かと見てみれば、一台の荷馬車がこっちに向かって激そうしてきている。

 ただし、荷馬車を引いているのは奴隷の首輪をした某一刀十爪流開祖の竜人だが。
 あと馬車に積まれている荷物も、某ロガートの街の『影の領主』だが。

「……どしたの、ルクリアさん?」

 俺達の前で止まった荷馬車で、ルクリアさんが顔を青くしている。
 酔ってる、ってわけじゃなさそうだが、何だかやけに鬼気迫る顔をしているぞ。

「コージン君、リリーチェ様。今さっき、クォーネの村から鳩が届きました」
「鳩? ……もしかして、救援鳩か?」

 救援鳩は、緊急事態発生時に近くの街に助けを求めるため放たれる伝書鳩だ。
 クォーネの村は、ロガートから二日ほどの距離にある割と大きめの村だが、何だ?

「そんな、クォーネの村が……」

 リリーチェもルクリア同様に顔を青くする。
 おっと、これはなかなかヘビィな事態の予感がしてきたぞ。何があったんだ。

「話を簡潔に。クォーネの村が、アンデッドの大群に襲われました」
「アンデッド……」

 それを聞いて、ピンと来た。
 なるほど、そりゃあ最悪の事態だ。つまり魔王が復活した、と。

「クォーネの村がある方向に、ディスロスの封印があったってことだな?」
「はい、その通りですわ」

 リリーチェが重々しい調子でうなずく。
 骸魔王の号が示す通り、ディスロスはアンデッドを召喚・使役する死霊術師だ。
 千年前の戦いでも、あいつのアンデッド軍団は五つもの国を滅ぼした。

「で、ルクリアさんはそれを俺達に知らせに来た、と」
「うん。そういうこと」

 俺とルクリアの視線が、荷馬車を引く存在の方に注がれる。

「何でこれ? 馬は?」
「急を要することだったから、使える馬がなくてね……」

「ゴ車は?」
「メンテナンス中だったのよ」

 ああ、なるほど。
 全くの新機軸のものだから、メンテナンスは欠かせないよな。

「何じゃ何じゃ、大先生も御主人様も! ワシに何ぞ用でもあるんかい!」
「御主人様……?」

 え、ルクリア、ガルンドルに自分のことそう呼ばせてるの?

「違うから。それは奴隷の首輪の効果の一つだから。あたしの趣味じゃないから……」

 言いつつも、気まずそうに目を逸らすルクリア。

「うん、いや、いいんじゃない? ゴツい竜人を傅かせて悦に浸る趣味があっても」
「待ってコージン君! 本気でやめて! 傅かせるならコージン君がいい!」

 あんたこそ待てや。
 それを聞かされて俺はどんな反応を返せばいいんだよ!

「お二人とも、話が脱線していますわ。これからどうしますの?」
「そう、ですね。ひとまずロガートに帰って、住民を避難させて――」

 リリーチェに言われて話を戻したルクリアが、あごに手を当てて方策を考える。
 だが、俺がそこに待ったをかけた。

「まぁ、ちょっと待てよ」
「……コージン君?」
「話はあの子の意見を聞いてからでも遅くはないだろ」

 俺は軽く視線を上げた。
 つられて、ルクリア達も顔をあげる。

「せぇぇぇぇぇぇぇぇんせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」

 空から降ってきたプロミナを、俺は両腕でしっかりと受け止めて、破顔する。

「お帰り、プロミナ」


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 プロミナの意見は、シンプル極まっていた。

「え、今から突っ込んでブッ潰せばいいんじゃない?」

 この、清々しいまでの絵に描いたような『真っすぐ行ってブン殴る』系の思想。

「いいね、そういうのは嫌いじゃないぜ」
「お待ちくださいませ。そこでコージン様が賛同されますと、話が終わってしまいます」

 俺がプロミナに同意すると、何故かリリーチェが止めに入った。

「どうした、リリーチェ」
「このまま突っ込むというのは、ディスロスを討ちに向かうということですの?」
「うん。そう」

 うなずくプロミナ。

「いえ、それは、いかがなものでしょうか? 近隣の街や村に事態を報せて、住民の避難の準備なども進めなければなりませんし、アンデッドの群れに対抗する人員を――」
「それってさ、結構時間かかるよね?」

 リリーチェが言い終える前に、プロミナが指摘する。
 それに、リリーチェは言葉を途切れさせて押し黙ってしまう。事実上の肯定だった。

「まぁ、今からでもいいか」

 そこに、ルクリアまでもが賛意を示す。

「ルクリア様? それでは住民の皆さんの避難指示が……」
「その辺は副ギルド長がやってくれると思います。あたしは彼を信じてます!」

 あたしは彼を信じて(全ての仕事を丸投げして自分は好きにし)ます。だな、これ。
 相変わらず、ギルド長としては最低だよ、この人。

「行こうよ、リリーチェちゃん。私達なら、やれるよ」
「何故、そう言えるのです? プロミナ様は『勇者』になられる御決心を?」

「『勇者』になるかは決めてないけど、魔王討伐とか、絶対いい修行になるよね!」
「…………」

 リリーチェが口をポカンと空けたまま俺を見た。俺が言うまでもなかったな。

「あ、魔王がいる方向って多分あっちだよね」

 プロミナがそう言って、平原の向こうを指さした。

「空から、ウゾウゾ動いてる黒い影が見えたの。アンデッドの群れだと思う。多分」
「もう、空からでも視認できる規模になってたか。相変わらずだな」

 ディスロスの恐ろしいところは、配下のアンデッドの増殖速度にある。
 襲った村の人間をアンデッドに変える上、召喚を多発してどんどん群れを大きくする。

 だが、それもディスロスを叩けば止まる。
 これから突撃を仕掛けるのは、被害を防止する意味でも策としてはアリだった。

「皆様は、怖くないのですか……?」
「すっごい怖い」
「そうですね。あたしも怖いです。死にたくないです。もっともっと冒険したいし」

 ふと口にされたリリーチェの疑問に、プロミナとルクリアが答えた。
 馬車を引いてた竜人剣士の方は、鼻息も荒くウズウズしてるの丸わかりなので除外。

「私も死にたくないよ。でも、それ以上に試したいの」
「試し、たい……?」
「私が剣士として、伝説の魔王にどこまでやれるか、確かめたいの」

 言うプロミナの顔には、怯えと笑いが同時に浮かんでいた。
 それは剣士のサガ。戦うものの本能。強さを求める以上、決して逆らえない欲望。

 驕りでもなく、慢心でもない、非常に純粋かつ個人的な興味。
 だが、それを持てなければ戦士とは呼べない。まさに戦う者の核心たる情念だ。

「あたしも似たようなものかな。魔王討伐なんて冒険、見逃せないでしょ?」

 ルクリアもルクリアで、非常にこの人らしい動機だった。
 ああ、この人は冒険者だ。どこまでも一途に純粋に、冒険を愛するという意味で。

「ディスロスまでは、俺とガルンドルが届ける」
「ぬおぉ!? ワシは主戦力ではなく露払いなのですか、コージン大先生ッ!」

「そーだよ。嬉しいだろ。俺との共闘だぜ?」
「むぅ! 確かに! 師弟の共闘、これは熱いのォ! 激熱じゃあァァァァァァ!」

 おまえの師になった覚えはないけどな!

「そうと決まれば姐御、御主人様! あとなんかエルフの小娘! さっさと馬車に乗れィ! このまま一直線に敵陣に突っ込んだららららりゃああああああ!」

 あああああ、暑苦しい。こいつ本当に暑苦しい。
 でも今は大切な移動手段なので、調子に乗せるだけ乗せておこう。

「もぉ、こんな急に決戦だなんて!」

 リリーチェがプリプリしながら馬車に乗り込む。
 プロミナも続いて乗り込み、最後に乗った俺がガルンドルに命じた。

「行け、ガルンドル。決戦の場に急行だ!」
「うおおおぉぉぉぉぉぉ、お任せあれ、我がお師様よォォォォォォォオ!」

 竜人に引かれた荷馬車が、急発進する。
 おまえのお師様になった覚えは、全くないけどな!
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