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思い出とともに変わるもの 3
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リューイは空を見上げた。
どこまでも透き通った青い空である。まぶしさを遮るように手を目の上にかざす。
休日のためか人手が多い。
「フィーディス、はぐれるなよ。迷子になっても探さないからな」
「リューのほうが迷子になりそうだよ。浮足立ってる」
「ばれた?」
てへっと笑えばフィーディスが追い付く。二人並んで歩きながらどこに行こうかと言葉を交わした。
「俺と出かけてよかったの?」
「うん。だってレックスたちは出かけちゃったし、せんせーも珍しく研究以外で用事があるっていうから…それにさ、フィーディスと二人で出かけたことなかっただろう?」
笑顔のリューイを見つめてフィーディスは幸せをかみしめていた。
レックス、シルバ、クラルスの三人は朝方迎えに来た養子先の各両親とともに出かけた。
すっかり慣れた三人は笑顔で手を振って出かけて行った。残された三人であったが、ウィリディスも出かけるというので残ったのはリューイとフィーディスだった。
二人顔を見合わせてどうしようかと考えたがめったにないことのため、二人で外に行くことに決めた。
ピータが笑顔で送り出してくれたことも影響しているかもしれない。
「ウィンドウショッピングして、一緒にカフェ入って…ゲーセンとかも行ってみたい。あと何しようか」
「リューが一番わくわくしてるじゃん」
はたから見てもリューイのわくわくがわかる。
どこに行こうかと店をあげていく様子を眺めては自分も心が躍るのを感じた。
「…月末にはみんないなくなっちゃうんだな」
「そうだね」
「この前レックスと話したんだ。寂しくないのって聞かれて…じわじわ寂しくなってきてたまんなかった」
「リューは…行く先決めた?」
「決めてるだろー。迎えにこいよって言ってるじゃん」
「リューは納得してる?」
「してるよ」
嘘だ、とフィーディスは声にしないまま口にした。
自分と約束しなければリューイはとっくにウィリディスの番になっていただろう。
悲しいやら嬉しいやら、それを考えるとフィーディスはいつも複雑な思いを抱いた。
「なぁなぁ、フィーディス」
「なに、リュー」
「あれ見て、フルーツケーキ食べ放題だって」
「……食べ放題行きたいの?」
「うん」
わかった、とうなずけば子供のように無邪気にリューイは笑う。
その笑顔を見れるだけでも幸せだと思えるのに、もっとほしいと思ってしまう自分は欲張りなのだろうか。
リューイに引きずられてケーキの食べ放題に入る。
目の前でつやつやとした輝きを放つフルーツケーキを見て顔を輝かせる思い人がまぶしかった。
「おいしい?」
「すごくおいしい。ほら、フィーディスも」
フォークに刺した苺のタルトを差しだされた。
それを頬張りながらリューイにメロンのムースを差し出せば大きな口を開けて幸せそうに食べる。
いつもレックスたちがごはんを食べる様子を笑顔を浮かべてみているリューイだが、今はフィーディスに見られている側となった。
かわいい、と思いながら見ていれば、皿の上にあったケーキを完食したリューイは追加を取りに向かう。
「おなか壊さないでね、リュー」
「大丈夫だよ。ほどほどにするから」
「本当?」
疑いの目を向けつつ山盛りのケーキと紅茶を持ってきた姿を見て苦笑する。
どのみち出かけた三人は夕食も一緒にしてくると言うのだからたまには夕食抜というのも悪くはないかもしれない。
口の端にクリームをつけて食べるリューイは弟たちよりも幼く見えた。
「おいしかったー…もうしばらく甘いものはいいや」
「だろうね」
膨れた腹を撫でつつ幸せいっぱいのオーラを出しているリューイを見てフィーディスは告げた。
甘いもので幸せな気分に包まれたリューイと店を見て回る。特にすぐに買わなければならないものは二人にはないため冷やかし交じりで店に入っていった。
時間的なものもあるのか人はそれほど多くないためゆったりと見て回ることができた。
楽しそうなリューイを見てフィーディスも楽しくなってくる。
「はぁ…いいなぁ、こういうの。みんなで出かけるのもめっちゃ好きだけどさ」
「俺も。たまにはまた出かけようね」
「うん」
大きくうなずいたリューイから視線を前に向ければフィーディスの足が止まる。
リューイはフィーディスのほうを見て足を止めた。
「どうした、フィーディス」
「えっと……そうだ。俺さ、さっきの店もう一回見たいものがあるんだけどいい?」
「どうしたんだよ、いきなり。いいけどさ」
フィーディスの目はリューイに向いていない。
人の山の向こうにある。首を傾げたリューイはフィーディスの視線を追いかけてそして表情を固まらせた。
「リュー、行こう。早くしないと俺の欲しいものが…」
「…うん」
フィーディスが差し出した手をリューイが握る。うつむいたリューイから笑顔が消えて、失敗した、とフィーディスは悔やんだ。
ちらりと後ろを振り返れば周囲の待ち合わせ場所としても目立つ噴水前にウィリディスがいた。
それもウィリディスは一人でなかった。彼と親し気に言葉を交わすのは女性である。花束を手に嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「…リュー」
「何でもない。大丈夫だ。ほら、行こう?どの店だ」
「ごめん、俺が立ち止まったからだね」
「なんのことだ?」
リューイの声は硬い。
見つけて立ち止まったりしなければリューイはあの光景を見ずに済んだのだろう。
タイミングの悪さに舌打ちをしたくなる。
リューイもウィリディスも互いを想いあっているのははた目からも丸わかりだが、それでも傷つくものだろう。
「リュー…帰ろう」
「フィーディスのみたいものがあるんだろう」
「それは、今度また一緒に出掛ける時の口実にさせて」
先ほどまでの笑顔はどこに消えたのか。泣きそうなリューイを連れて歩き回れるはずもない。
帰ろう、とその手を引いて歩き出す。抵抗しないリューイはされるままにフィーディスについてきた。
人波を抜けてマンションまで戻る。
ウィリディスはもちろんのこと、クラルスをはじめとした弟たちもまだ戻っていない。
フィーディスはソファに座るとリューイを抱えた。何も口に出さないリューイが何を考えているのかはわからない。
「リュー…大丈夫だよ。どうせあの先生のことだからリューイが欲しがりそうなものでも聞いて、そのお礼に花束渡していただけだろうし」
「うん…」
「そもそもαのフェロモンをこんなにたっぷりリューイにつけてるのに、ほかの女に目をやるとか信じられない。俺にしよ?」
「うん…」
「愛した相手を信じられない?」
リューイの顔が上がる。ゆっくりを首を振ったリューイだが顔をうつむかせてしまう。
「せんせーが…クロエさんっていう大事な人を想ってるのは知ってるけど、ほかのΩとか女の人の影とか全然ないから安心してたのに」
「うん、そうだね。そもそも俺たちを拾うまであの先生の頭の中には研究のことしかないだろうし」
「いきなりで驚いた」
「そうだね」
「…今日は顔見られない」
「そこまで?」
フィーディスの腕の中でリューイは小さくうなずいた。
わかった、とうなずけば寝室まで連れていく。ベッドに座らせれば足元に膝をついてリューイを見上げた。
「レックスたちにはリューイが寝てるから静かにって伝えておくよ。先生にはもちろん言わないで置くから安心して。でも明日になったら笑ってくれないと困るからね?」
「誰が…」
「俺が。俺はリューの笑顔が見たいんだから」
笑顔のフィーディスを見つめてリューイはうなずいた。
フィーディスはリューイの頭を撫でて部屋を出ていく。
冷蔵庫を開けてリューイの代わりに夕食を作る。ナスを入れずに作れるものを探す。
リューイのようにうまくはできないかもしれないが、おいしいと言ってくれるだろうか。
キッチンに立って肉を炒めた。野菜も投入し、コンソメスープと合わせる。
味見をしてその出来栄えに満足していれば下のフロアで音がした。火を止めて階段を降りればウィリディスが帰宅していた。
「帰ったんですか」
「…どうした、いつになく敵対心が透けて見えるが」
「えぇ、そうでしょうとも。今日に関しては俺はあんたの最悪さに腹が立って仕方ありません」
フィーディスの言葉にウィリディスは目を丸くしていた。
一体何があったというのか。彼がこんなことを言うのはリューイに絡むことであるのは間違いない。
今日はクラルスたちが外に出ている。ウィリディスも用事があったため出かけたから二人きりであったはずだ。
フィーディスは喜ぶことはあるにしてもウィリディスに対して怒りをあらわにする必要はないはずである。
「なにがあった。リューイは」
「しらじらしい。リューというものがありながら女性と会って親し気にしていたのは誰ですか」
「女性…………あぁ、彼女か。近くにいたのか。ならば声をかければよいものを」
ウィリディスはフィーディスが立つ階段の脇を通れば下げていた鞄をソファに下ろした。
ウィリディスの言い方にフィーディスはカチンとくる。あの時見つけてしまったがためにリューイはショックを受けているというのをわかっているのだろうか。
「彼女は」
「聞きたくありません。その話をするならリューとが筋でしょう。まぁ、今日はリューはあなたに会うことはないだろうけど」
「……もし何か誤解しているのならば誤解は解かねばならないだろう」
「無理強いしてリューを傷つけるつもりですか」
「そんなつもりはない」
階段を降りきったフィーディスはウィリディスをにらみつける。
フィーディスのにらみなど気にした様子なくウィリディスは上着を脱いだ。
「俺の何かにリューイが腹を立てているのなら落ち着くまで会わないほうがいいだろう。故意に傷つけたわけではないが、彼女に関しては話しておかなかった俺もよくない」
ウィリディスは少しだけ顔を曇らせた。リューイに誤解を与えてしまったのは心苦しい。
しかしリューイに今無理に会っても話は聞いてもらえなさそうだと判断した。
「リューイのことはお前に頼んだほうがいいだろう。食事は」
「作ってますが」
「そうか。ならよかった。俺は部屋にこもる」
フィーディスの返答は聞かなかった。
ウィリディスが自分の部屋に入っていったのを見送ってからフィーディスはむかむかするままに上のフロアに上がった。
腹が立って仕方がない。器にスープを盛り付けトーストを焼く。
寝室に向かえば軽くドアをノックする。
「リュー、スープ作ったよ。今日はいっぱいケーキ食べたからちょっと軽めのごはんにしよう」
「食べない」
「だめ。食べないと困る」
「やだ」
「俺のごはん食べたくない?リューのためにいっぱい愛情こめたのに?」
「……食べる」
「わかった。トースト焼いてるから準備できたら出ておいでよ。ゆっくりご飯にしよう」
リューイの返答はなかった。
二人分の食事をテーブルに並べる。焼けたトーストを皿に盛る。
スプーンを用意したところでリューイが部屋から顔を出した。
リューイの顔を見て笑顔になるフィーディスだがまだリューイの顔は暗い。
「リュー…」
「せんせーは帰ってきた?」
「帰ってきてるよ」
「そっか…」
椅子に座ったリューイはスプーンを持つものの食べ進めない。
フィーディスは再び、あの場所でウィリディスを見つけてしまった自分を恨んだ。
とはいっても見てしまった以上はどうしようもできない。
「先生に会うの?」
「無理…だって、多分俺聞けない」
「なら俺が代わりに聞く?あの人は誰ですかって。そもそも俺が見つけたのがいけないわけだし」
リューイの目が丸くなる。
考えるかのように視線を落としつつも静かに首を振った。
フィーディスが聞いたところでウィリディスが答えてくれるとは思ってもいないし、何より自分の整理がつかない。
フィーディスはわかった、とうなずけばリューイをよそにスープを口にする。少し塩を入れすぎたかと思いながらリューイも少しずつ食べていくのを見つめた。
「俺が片付けるからリューはお風呂入って寝ちゃうといいよ。明日にはまた笑って見せて」
「ん…」
「レックスたちが帰ってきたらちゃんとお風呂に入れるからそこも安心していいよ」
「わかった」
うなずいたリューイはタオルとパジャマをもって浴室に消える。
キッチンで二人分の食器を洗って片付ければ、ただいまー!と元気な声が下から聞こえた。
濡れた手を拭いて階段を降りればレックスとシルバがそれぞれエレベーター前で別れを告げていた。
「おかえり、レックス、シルバ」
「ただいま、フィー兄。下でクラルスがわんちゃんとお別れ渋ってたからクラルスはもうちょっとかかるよ」
「そっかぁ」
「お風呂入ってくるねー」
「ごはんも食べた?」
「うん。今日ね、おうちで食べたの。すごくおいしかったよ」
楽し気な様子の二人の話を聞いていたがリューイは風呂を出ただろうか。
未だであるならば少し時間を稼いであと少しだけ一人落ち着ける時間を与えたい。
そんなフィーディスの考えを読んだわけではないだろうが二人はフィーディスを相手に楽しかったことを話して聞かせる。
ニコニコとして話を聞いていれば遅れてクラルスも帰宅した。
「ふぃーちゃ」
「おかえり、クラルス」
「おかえりー!クラルスも楽しかったって」
「うん、たのしかった。いっぱい遊んだ」
クラルスもフィーディスを見つけて駆け寄ってくる。突進するかのように抱き着けばよほど楽しかったのかくすくすと笑っている。
クラルスも増えたことでおしゃべりが増える。ウィリディスは三人が戻ってきたことに気づいているのだろうか。部屋から出てくる気配はない。
「リューちゃんと一緒にいたんでしょ。フィーちゃんも楽しかった?」
「うん、楽しかったよ。そうそう、俺もリューも今日遊びすぎて疲れちゃったから静かにしてもいい?リューは早めにお風呂に入ってるから静かにね?」
「うん、わかった」
うなずいた三人と声を抑えて上のフロアに上がる。
浴室からは音はしない。中を覗いでみてもリューイはいなかった。
「レックス、シルバ、クラルス、リューはお風呂を出たみたいだからお風呂入っちゃおうか」
「はーい」
うなずいた三人は脱衣所で服を脱いでから浴室へと入っていく。
フィーディスは寝室へ向かう。リューイはベッドに入っていた。しかし寝れてはいないのかごろごろと何度も寝返りを打っていた。
「リュー、三人とも帰ってきたよ」
「ん、わかった。ごめんな、任せちゃって」
「大丈夫だよ、気にしないで」
「このまま寝るな…?」
「うん。お休み、リュー」
横たわるリューイを優しく撫でる。
リューイは口元まで布団をかけると目を閉じる。いい夢を見られればいいとフィーディスは思った。
三人分のパジャマをもって戻れば浴室から楽しそうな声が聞こえてくる。
出てきた三人はおやすみとフィーディスに言葉をかけて部屋に向かう。
見送ったフィーディスも湯に浸かりベッドに向かった。
すでに三人はリューイのそばで寝息を立てている。
リューイを見つめればそのとなりに誰もいないのをいいことに寝転んで抱きしめる。
わずかに身じろぐも起きる気配はない。どんな夢を見ているのだろうか。
「…ん…抱きつくなよ…フィーディス…苦しい」
しばらくしてからリューイはフィーディスの体を押した。寝行っているフィーディスの腕は簡単に外れる。
体を起こしたリューイは眠れなかった。隣に来たレックスたちがヒソヒソと、リュー兄寝てるから静かに、なんて言葉をかわすのが聞こえれば起きることもできないだろう。
昼間に見かけた光景のせいでもやもやとしてしまう。
「ウィルが、そんなことをするはずはないんだ…きっと知り合いかなんかで……大丈夫って思うのに…」
泣きそうになればベッドを降りて部屋を出る。水を飲んで落ち着こうとすれば階段下のフロアから光が漏れていた。
起きているのか、と階段を降りる。ウィリディスは机に紙を広げペンを片手に眉を寄せていた。
「…ウィル」
「リューイ?どうした、眠れないのか」
「誰のせいだと思ってんの」
「俺だろう?フィーディスが戻るなり不機嫌そうに俺に突っかかってきた」
リューイは階段のそばから動かない。ウィリディスもソファから動かない。
互いにそのままだったが、ウィリディスから口を開いた。
「彼女は、俺と偽装結婚をしていたβだ。ピータの娘で夫も子供もいる。最近子供が無事に学校を卒業したと聞いたからその祝いと、もう偽装結婚は不要だと、今までの礼とともに伝えたんだ」
リューイの聞きたいことだった。
恋愛感情を持った相手ではないとわかりホッとする自分がいた。
リューイの返答がないとウィリディスは顔をあげた。
「…昼間、一緒にいたところを見たのだろう。すまないな、お前には偽装結婚の相手のことを伝えておくべきだった」
「…別に…」
「この前お前に言われるまで指輪のことは頭から抜けていた……失敗した」
ウィリディスの言葉は途中で切れた。
リューイに抱きつかれ目を丸くする。だが、背中に腕を回せば強く抱きしめた。
「…すまない。傷つく必要がまったくないのにお前を傷つけたな」
「ほんとだよ…ばか……ふてくされた俺が馬鹿みたいじゃん」
頬を撫でリューイをなだめるように口づける。
ほっと息を吐き出したリューイはウィリディスに抱かれたまま体の力を抜いた。
とろとろといきなり眠気がやってくる。
背中に当たる手の暖かさが気持ちいい。ゆっくりとした呼吸を繰り返す姿を見つめてウィリディスは微笑んだ。
自分によりかからせたまま、ウィリディスは目の前の紙を見直す。
来月には治験ができる。リューイを抱く力を強めてウィリディスはその日が来るのを待ちわびた。
どこまでも透き通った青い空である。まぶしさを遮るように手を目の上にかざす。
休日のためか人手が多い。
「フィーディス、はぐれるなよ。迷子になっても探さないからな」
「リューのほうが迷子になりそうだよ。浮足立ってる」
「ばれた?」
てへっと笑えばフィーディスが追い付く。二人並んで歩きながらどこに行こうかと言葉を交わした。
「俺と出かけてよかったの?」
「うん。だってレックスたちは出かけちゃったし、せんせーも珍しく研究以外で用事があるっていうから…それにさ、フィーディスと二人で出かけたことなかっただろう?」
笑顔のリューイを見つめてフィーディスは幸せをかみしめていた。
レックス、シルバ、クラルスの三人は朝方迎えに来た養子先の各両親とともに出かけた。
すっかり慣れた三人は笑顔で手を振って出かけて行った。残された三人であったが、ウィリディスも出かけるというので残ったのはリューイとフィーディスだった。
二人顔を見合わせてどうしようかと考えたがめったにないことのため、二人で外に行くことに決めた。
ピータが笑顔で送り出してくれたことも影響しているかもしれない。
「ウィンドウショッピングして、一緒にカフェ入って…ゲーセンとかも行ってみたい。あと何しようか」
「リューが一番わくわくしてるじゃん」
はたから見てもリューイのわくわくがわかる。
どこに行こうかと店をあげていく様子を眺めては自分も心が躍るのを感じた。
「…月末にはみんないなくなっちゃうんだな」
「そうだね」
「この前レックスと話したんだ。寂しくないのって聞かれて…じわじわ寂しくなってきてたまんなかった」
「リューは…行く先決めた?」
「決めてるだろー。迎えにこいよって言ってるじゃん」
「リューは納得してる?」
「してるよ」
嘘だ、とフィーディスは声にしないまま口にした。
自分と約束しなければリューイはとっくにウィリディスの番になっていただろう。
悲しいやら嬉しいやら、それを考えるとフィーディスはいつも複雑な思いを抱いた。
「なぁなぁ、フィーディス」
「なに、リュー」
「あれ見て、フルーツケーキ食べ放題だって」
「……食べ放題行きたいの?」
「うん」
わかった、とうなずけば子供のように無邪気にリューイは笑う。
その笑顔を見れるだけでも幸せだと思えるのに、もっとほしいと思ってしまう自分は欲張りなのだろうか。
リューイに引きずられてケーキの食べ放題に入る。
目の前でつやつやとした輝きを放つフルーツケーキを見て顔を輝かせる思い人がまぶしかった。
「おいしい?」
「すごくおいしい。ほら、フィーディスも」
フォークに刺した苺のタルトを差しだされた。
それを頬張りながらリューイにメロンのムースを差し出せば大きな口を開けて幸せそうに食べる。
いつもレックスたちがごはんを食べる様子を笑顔を浮かべてみているリューイだが、今はフィーディスに見られている側となった。
かわいい、と思いながら見ていれば、皿の上にあったケーキを完食したリューイは追加を取りに向かう。
「おなか壊さないでね、リュー」
「大丈夫だよ。ほどほどにするから」
「本当?」
疑いの目を向けつつ山盛りのケーキと紅茶を持ってきた姿を見て苦笑する。
どのみち出かけた三人は夕食も一緒にしてくると言うのだからたまには夕食抜というのも悪くはないかもしれない。
口の端にクリームをつけて食べるリューイは弟たちよりも幼く見えた。
「おいしかったー…もうしばらく甘いものはいいや」
「だろうね」
膨れた腹を撫でつつ幸せいっぱいのオーラを出しているリューイを見てフィーディスは告げた。
甘いもので幸せな気分に包まれたリューイと店を見て回る。特にすぐに買わなければならないものは二人にはないため冷やかし交じりで店に入っていった。
時間的なものもあるのか人はそれほど多くないためゆったりと見て回ることができた。
楽しそうなリューイを見てフィーディスも楽しくなってくる。
「はぁ…いいなぁ、こういうの。みんなで出かけるのもめっちゃ好きだけどさ」
「俺も。たまにはまた出かけようね」
「うん」
大きくうなずいたリューイから視線を前に向ければフィーディスの足が止まる。
リューイはフィーディスのほうを見て足を止めた。
「どうした、フィーディス」
「えっと……そうだ。俺さ、さっきの店もう一回見たいものがあるんだけどいい?」
「どうしたんだよ、いきなり。いいけどさ」
フィーディスの目はリューイに向いていない。
人の山の向こうにある。首を傾げたリューイはフィーディスの視線を追いかけてそして表情を固まらせた。
「リュー、行こう。早くしないと俺の欲しいものが…」
「…うん」
フィーディスが差し出した手をリューイが握る。うつむいたリューイから笑顔が消えて、失敗した、とフィーディスは悔やんだ。
ちらりと後ろを振り返れば周囲の待ち合わせ場所としても目立つ噴水前にウィリディスがいた。
それもウィリディスは一人でなかった。彼と親し気に言葉を交わすのは女性である。花束を手に嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「…リュー」
「何でもない。大丈夫だ。ほら、行こう?どの店だ」
「ごめん、俺が立ち止まったからだね」
「なんのことだ?」
リューイの声は硬い。
見つけて立ち止まったりしなければリューイはあの光景を見ずに済んだのだろう。
タイミングの悪さに舌打ちをしたくなる。
リューイもウィリディスも互いを想いあっているのははた目からも丸わかりだが、それでも傷つくものだろう。
「リュー…帰ろう」
「フィーディスのみたいものがあるんだろう」
「それは、今度また一緒に出掛ける時の口実にさせて」
先ほどまでの笑顔はどこに消えたのか。泣きそうなリューイを連れて歩き回れるはずもない。
帰ろう、とその手を引いて歩き出す。抵抗しないリューイはされるままにフィーディスについてきた。
人波を抜けてマンションまで戻る。
ウィリディスはもちろんのこと、クラルスをはじめとした弟たちもまだ戻っていない。
フィーディスはソファに座るとリューイを抱えた。何も口に出さないリューイが何を考えているのかはわからない。
「リュー…大丈夫だよ。どうせあの先生のことだからリューイが欲しがりそうなものでも聞いて、そのお礼に花束渡していただけだろうし」
「うん…」
「そもそもαのフェロモンをこんなにたっぷりリューイにつけてるのに、ほかの女に目をやるとか信じられない。俺にしよ?」
「うん…」
「愛した相手を信じられない?」
リューイの顔が上がる。ゆっくりを首を振ったリューイだが顔をうつむかせてしまう。
「せんせーが…クロエさんっていう大事な人を想ってるのは知ってるけど、ほかのΩとか女の人の影とか全然ないから安心してたのに」
「うん、そうだね。そもそも俺たちを拾うまであの先生の頭の中には研究のことしかないだろうし」
「いきなりで驚いた」
「そうだね」
「…今日は顔見られない」
「そこまで?」
フィーディスの腕の中でリューイは小さくうなずいた。
わかった、とうなずけば寝室まで連れていく。ベッドに座らせれば足元に膝をついてリューイを見上げた。
「レックスたちにはリューイが寝てるから静かにって伝えておくよ。先生にはもちろん言わないで置くから安心して。でも明日になったら笑ってくれないと困るからね?」
「誰が…」
「俺が。俺はリューの笑顔が見たいんだから」
笑顔のフィーディスを見つめてリューイはうなずいた。
フィーディスはリューイの頭を撫でて部屋を出ていく。
冷蔵庫を開けてリューイの代わりに夕食を作る。ナスを入れずに作れるものを探す。
リューイのようにうまくはできないかもしれないが、おいしいと言ってくれるだろうか。
キッチンに立って肉を炒めた。野菜も投入し、コンソメスープと合わせる。
味見をしてその出来栄えに満足していれば下のフロアで音がした。火を止めて階段を降りればウィリディスが帰宅していた。
「帰ったんですか」
「…どうした、いつになく敵対心が透けて見えるが」
「えぇ、そうでしょうとも。今日に関しては俺はあんたの最悪さに腹が立って仕方ありません」
フィーディスの言葉にウィリディスは目を丸くしていた。
一体何があったというのか。彼がこんなことを言うのはリューイに絡むことであるのは間違いない。
今日はクラルスたちが外に出ている。ウィリディスも用事があったため出かけたから二人きりであったはずだ。
フィーディスは喜ぶことはあるにしてもウィリディスに対して怒りをあらわにする必要はないはずである。
「なにがあった。リューイは」
「しらじらしい。リューというものがありながら女性と会って親し気にしていたのは誰ですか」
「女性…………あぁ、彼女か。近くにいたのか。ならば声をかければよいものを」
ウィリディスはフィーディスが立つ階段の脇を通れば下げていた鞄をソファに下ろした。
ウィリディスの言い方にフィーディスはカチンとくる。あの時見つけてしまったがためにリューイはショックを受けているというのをわかっているのだろうか。
「彼女は」
「聞きたくありません。その話をするならリューとが筋でしょう。まぁ、今日はリューはあなたに会うことはないだろうけど」
「……もし何か誤解しているのならば誤解は解かねばならないだろう」
「無理強いしてリューを傷つけるつもりですか」
「そんなつもりはない」
階段を降りきったフィーディスはウィリディスをにらみつける。
フィーディスのにらみなど気にした様子なくウィリディスは上着を脱いだ。
「俺の何かにリューイが腹を立てているのなら落ち着くまで会わないほうがいいだろう。故意に傷つけたわけではないが、彼女に関しては話しておかなかった俺もよくない」
ウィリディスは少しだけ顔を曇らせた。リューイに誤解を与えてしまったのは心苦しい。
しかしリューイに今無理に会っても話は聞いてもらえなさそうだと判断した。
「リューイのことはお前に頼んだほうがいいだろう。食事は」
「作ってますが」
「そうか。ならよかった。俺は部屋にこもる」
フィーディスの返答は聞かなかった。
ウィリディスが自分の部屋に入っていったのを見送ってからフィーディスはむかむかするままに上のフロアに上がった。
腹が立って仕方がない。器にスープを盛り付けトーストを焼く。
寝室に向かえば軽くドアをノックする。
「リュー、スープ作ったよ。今日はいっぱいケーキ食べたからちょっと軽めのごはんにしよう」
「食べない」
「だめ。食べないと困る」
「やだ」
「俺のごはん食べたくない?リューのためにいっぱい愛情こめたのに?」
「……食べる」
「わかった。トースト焼いてるから準備できたら出ておいでよ。ゆっくりご飯にしよう」
リューイの返答はなかった。
二人分の食事をテーブルに並べる。焼けたトーストを皿に盛る。
スプーンを用意したところでリューイが部屋から顔を出した。
リューイの顔を見て笑顔になるフィーディスだがまだリューイの顔は暗い。
「リュー…」
「せんせーは帰ってきた?」
「帰ってきてるよ」
「そっか…」
椅子に座ったリューイはスプーンを持つものの食べ進めない。
フィーディスは再び、あの場所でウィリディスを見つけてしまった自分を恨んだ。
とはいっても見てしまった以上はどうしようもできない。
「先生に会うの?」
「無理…だって、多分俺聞けない」
「なら俺が代わりに聞く?あの人は誰ですかって。そもそも俺が見つけたのがいけないわけだし」
リューイの目が丸くなる。
考えるかのように視線を落としつつも静かに首を振った。
フィーディスが聞いたところでウィリディスが答えてくれるとは思ってもいないし、何より自分の整理がつかない。
フィーディスはわかった、とうなずけばリューイをよそにスープを口にする。少し塩を入れすぎたかと思いながらリューイも少しずつ食べていくのを見つめた。
「俺が片付けるからリューはお風呂入って寝ちゃうといいよ。明日にはまた笑って見せて」
「ん…」
「レックスたちが帰ってきたらちゃんとお風呂に入れるからそこも安心していいよ」
「わかった」
うなずいたリューイはタオルとパジャマをもって浴室に消える。
キッチンで二人分の食器を洗って片付ければ、ただいまー!と元気な声が下から聞こえた。
濡れた手を拭いて階段を降りればレックスとシルバがそれぞれエレベーター前で別れを告げていた。
「おかえり、レックス、シルバ」
「ただいま、フィー兄。下でクラルスがわんちゃんとお別れ渋ってたからクラルスはもうちょっとかかるよ」
「そっかぁ」
「お風呂入ってくるねー」
「ごはんも食べた?」
「うん。今日ね、おうちで食べたの。すごくおいしかったよ」
楽し気な様子の二人の話を聞いていたがリューイは風呂を出ただろうか。
未だであるならば少し時間を稼いであと少しだけ一人落ち着ける時間を与えたい。
そんなフィーディスの考えを読んだわけではないだろうが二人はフィーディスを相手に楽しかったことを話して聞かせる。
ニコニコとして話を聞いていれば遅れてクラルスも帰宅した。
「ふぃーちゃ」
「おかえり、クラルス」
「おかえりー!クラルスも楽しかったって」
「うん、たのしかった。いっぱい遊んだ」
クラルスもフィーディスを見つけて駆け寄ってくる。突進するかのように抱き着けばよほど楽しかったのかくすくすと笑っている。
クラルスも増えたことでおしゃべりが増える。ウィリディスは三人が戻ってきたことに気づいているのだろうか。部屋から出てくる気配はない。
「リューちゃんと一緒にいたんでしょ。フィーちゃんも楽しかった?」
「うん、楽しかったよ。そうそう、俺もリューも今日遊びすぎて疲れちゃったから静かにしてもいい?リューは早めにお風呂に入ってるから静かにね?」
「うん、わかった」
うなずいた三人と声を抑えて上のフロアに上がる。
浴室からは音はしない。中を覗いでみてもリューイはいなかった。
「レックス、シルバ、クラルス、リューはお風呂を出たみたいだからお風呂入っちゃおうか」
「はーい」
うなずいた三人は脱衣所で服を脱いでから浴室へと入っていく。
フィーディスは寝室へ向かう。リューイはベッドに入っていた。しかし寝れてはいないのかごろごろと何度も寝返りを打っていた。
「リュー、三人とも帰ってきたよ」
「ん、わかった。ごめんな、任せちゃって」
「大丈夫だよ、気にしないで」
「このまま寝るな…?」
「うん。お休み、リュー」
横たわるリューイを優しく撫でる。
リューイは口元まで布団をかけると目を閉じる。いい夢を見られればいいとフィーディスは思った。
三人分のパジャマをもって戻れば浴室から楽しそうな声が聞こえてくる。
出てきた三人はおやすみとフィーディスに言葉をかけて部屋に向かう。
見送ったフィーディスも湯に浸かりベッドに向かった。
すでに三人はリューイのそばで寝息を立てている。
リューイを見つめればそのとなりに誰もいないのをいいことに寝転んで抱きしめる。
わずかに身じろぐも起きる気配はない。どんな夢を見ているのだろうか。
「…ん…抱きつくなよ…フィーディス…苦しい」
しばらくしてからリューイはフィーディスの体を押した。寝行っているフィーディスの腕は簡単に外れる。
体を起こしたリューイは眠れなかった。隣に来たレックスたちがヒソヒソと、リュー兄寝てるから静かに、なんて言葉をかわすのが聞こえれば起きることもできないだろう。
昼間に見かけた光景のせいでもやもやとしてしまう。
「ウィルが、そんなことをするはずはないんだ…きっと知り合いかなんかで……大丈夫って思うのに…」
泣きそうになればベッドを降りて部屋を出る。水を飲んで落ち着こうとすれば階段下のフロアから光が漏れていた。
起きているのか、と階段を降りる。ウィリディスは机に紙を広げペンを片手に眉を寄せていた。
「…ウィル」
「リューイ?どうした、眠れないのか」
「誰のせいだと思ってんの」
「俺だろう?フィーディスが戻るなり不機嫌そうに俺に突っかかってきた」
リューイは階段のそばから動かない。ウィリディスもソファから動かない。
互いにそのままだったが、ウィリディスから口を開いた。
「彼女は、俺と偽装結婚をしていたβだ。ピータの娘で夫も子供もいる。最近子供が無事に学校を卒業したと聞いたからその祝いと、もう偽装結婚は不要だと、今までの礼とともに伝えたんだ」
リューイの聞きたいことだった。
恋愛感情を持った相手ではないとわかりホッとする自分がいた。
リューイの返答がないとウィリディスは顔をあげた。
「…昼間、一緒にいたところを見たのだろう。すまないな、お前には偽装結婚の相手のことを伝えておくべきだった」
「…別に…」
「この前お前に言われるまで指輪のことは頭から抜けていた……失敗した」
ウィリディスの言葉は途中で切れた。
リューイに抱きつかれ目を丸くする。だが、背中に腕を回せば強く抱きしめた。
「…すまない。傷つく必要がまったくないのにお前を傷つけたな」
「ほんとだよ…ばか……ふてくされた俺が馬鹿みたいじゃん」
頬を撫でリューイをなだめるように口づける。
ほっと息を吐き出したリューイはウィリディスに抱かれたまま体の力を抜いた。
とろとろといきなり眠気がやってくる。
背中に当たる手の暖かさが気持ちいい。ゆっくりとした呼吸を繰り返す姿を見つめてウィリディスは微笑んだ。
自分によりかからせたまま、ウィリディスは目の前の紙を見直す。
来月には治験ができる。リューイを抱く力を強めてウィリディスはその日が来るのを待ちわびた。
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