103 / 124
思い出とともに変わるもの 4
しおりを挟む
リューイは購入してきたアルバムに写真を貼り付けていた。
時折色紙を用いて言葉を入れる。
レックスの笑顔を見てこちらも笑顔になりながら次の写真を手にしていた。
「りゅーちゃぁぁんっ」
「そんな叫ばなくても聞こえるぞ。どうした」
下のフロアからシルバの絶叫が聞こえた。
レックスと喧嘩したのか、それともクラルスがわがままを言ったのか。
どちらだろうかと考えながらフロアを降りればそこは惨憺たる有様だった。
服や本が散らばり、荷物をまとめているはずのカバンはぺしゃんこのままである。
「荷物を分けていたはずだよな、なんでこうなった」
「レックスが俺のものを取るの」
「シルバのじゃない。俺のだ」
二人の手にするのはピータが買ってきた服である。とはいえ二人の体にはサイズがいささかあわないものだ。
買ったその時よりも二人の体は大きくなった。自分のものだと言ってもすぐに着られなくなるだろう。
自分の荷物として持っていくよりはクラルスに与えるか、どこかの施設に寄付したり、古着として売ったほうがよほどいいのではないだろうか。
「だって、ピータさんが買ってくれたやつだもん…」
「うん、ソレも大事な思い出だな?でも、着れないものを持っているよりはそれをまだ着れる人に上げたほうがよっぽどいいぞ」
不満そうな顔をする二人を見てリューイは苦笑する。
クラルスは好きな服を中心に集めて満足している。ニウエはもちろんクラルスとともに行くのだ。
あとはお気に入りの本を選んでいる。
「着れないでしまいっぱなしよりもっとお気に入りのがあるんじゃないのか?これは没収。新しい家でもたくさん買ってもらえると思うし持って行き過ぎも良くないだろ」
「ぶぅ」
「ほら、こんな顔しない。ほかに選べないやつあるなら避けておけよ?」
頬を膨らませたレックスの頬を指で押して空気を抜く。
ぶぅっと音を立てて空気が抜ければ面白かったのか笑い声が上がる。
リューイは再び作業が始まったのを確認すると立ち上がって一人離れた場所で服をたたんでいるフィーディスに近づいた。
「どうだ、まとまりそうか?」
「それなりにはね」
「本はいらないのか?レックスたちはどれにしようか悩んでるのに」
「俺はいいよ。リューがもらって」
「あとで返せっていても返さないからな」
「そんなことは言わないよ」
笑うリューイを見てフィーディスは一度手を止めた。
リューイの発情の周期は間もなくである。
「ねぇ、リュー。今回は先生と一緒なの?」
「うん。俺が一緒にいてって頼んだ」
「そっか…」
「ごめんな、フィーディス」
「いいよ。前回のこともあるから」
フィーディスに笑いかけたリューイは先ほどまでの作業の続きのために上のフロアへと向かっていく。
先ほどまで途中だった写真を手にすれば誰のアルバムに貼ろうかと悩む。五冊分のアルバムを作るのは骨が折れるが、リューイは楽しくてたまらなかった。
写真を見るたびにこんなことがあった、あんなことがあったと思い出す。
ぽたっと涙が流れ落ちれば慌ててそれを拭う。自分だけ先にすすめなくなりそうで怖かった。
大丈夫、と言い聞かせアルバムに写真を貼り付ける。いつか色あせてしまうだろうが、自分たちの心の中に残る思い出は色あせない。
そんなことを考えていて恥ずかしくなった。
「…俺こんなロマンチストだったっけ…いやいや、だれかさんのせいだ」
部屋にある箱にしまったままの万華鏡を思い出す。みんなが寝静まったあと、窓際でそれを覗くのが楽しみだった。
耳まで赤くなりながら誰もいないのに咳払いをする。
泣きじゃくるクラルスをなだめようとするシルバの写真は二人のアルバムに、卵をうまく割れて笑顔のレックスは本人と自分のアルバムに、全員で並んで寝ている写真はシルバとフィーディスに。
映っている存在に偏りがないように、一ページごとに開いたとき、笑顔になれるように、リューイは丁寧にアルバムを作っていく。
「……つら…」
ぽつりとこぼれた。
手を止めて床に転がる。にぎやかな声が聞こえてきた。
喧嘩をしているわけではないのだろう。クラルスの笑い声も響く。
彼らがいなくなったこの部屋はどれだけ静かになるのだろうか。
ウィリディスがいる。でも彼は研究室にいる時間のほうが昼間は多い。ピータと二人で静かな部屋にいることになるのだ。
「リュー兄、アルバムできた?って…どうしたの、リュー兄。転がっちゃって」
「ん、少し疲れた」
「じゃぁ俺たちもやろうか」
「やる?」
「うん。シルバたち呼んでくる。だって俺たちのためのアルバムなんだろ?リュー兄だけでやるのずるい。俺もやりたいもん」
「わかった。じゃぁペンとかいろいろ用意しておくから」
笑顔でうなずいたレックスは下へと急ぎ足で降りていく。リューイは起き上がれば追加のペンやハサミを用意した。
そういえば、と思い立つ。ウィリディスやピータとの写真が少ない。なんだったらフォートやアイリーン、クラートとの写真もないではないか。
フォートやクラートは少し脇においておき、ウィリディスとピータとの写真はほしい。個々でもいいし、集合でもいい。
ピータは明日また来るし聞いてもいいだろうか。ウィリディスは今日帰宅したときに突撃して写真を撮ればいい。
「リューちゃん、お手伝いにきたぁ」
「りゅーちゃ、おてつだいー」
「おー、ありがとうー。ペンもいっぱいあるし、書き込み用の紙もたくさん用意したからいろいろやろうなぁ」
うなずいた弟たちにペンを渡して各々のアルバムを渡す。
最後の日まで内緒にしようかと思っていた日もあったがこうしてワイワイしながら作っていくのが自分たちらしい。
クラルスは一ページずつめくっては顔を輝かせている。
「これ、覚えてる。りゅーちゃが迷子のれーちゃとしーちゃ探して見つけたやつ」
「クラルス、そんなの覚えてるの」
「覚えてる。えーんって泣いてた。でもおうちのそばだったからりゅーちゃ笑ってた」
「クラルスって案外記憶いいよね」
クラルスが指さしたのは泣きじゃくるレックスとシルバを見ている写真である。
クラルスの言う通りお使いに行かせたはいいが周辺が薄暗くなり帰り道がわからなくなって泣きじゃくっていた二人を見つけたものだ。
二人が泣いていた場所はそのとき住んでいた家の真後ろだったから二人の泣き声がリューイとクラルスにも聞こえていたのだ。
「もう迷子になっても泣かないよ。おうちどこですかって聞けるもん」
「俺は泣いちゃうかもなぁ…知らないところ怖いし」
「僕はみんなと一緒だから迷子にならないよ」
「うん、そうだね」
リューイは彼らの会話に笑ってしまった。
フィーディスがいなかった時のため彼は話に混ざらず自分のアルバムを見ている。
「気になる写真あったか?」
「俺の寝顔なんていつ撮ったの」
「会ってから少し経ったときだなぁ…お前ってば俺たちと会ったばっかりだってのに緊張感なく寝てるんだもん」
完全に安心しきった顔で寝ているフィーディスだが一緒に写っている手はレックスかシルバの手だろう。
リューイのアルバムにも全員分の寝顔が入っている。
「せんせーとピータさんと撮った写真が少ないからさ…二人がいるときに一緒に写真撮ろう」
「俺はピータさんとだけでいい」
「いうと思ったよ。ダメ。フィーディスもいつかアルバム見返したらそんなときもあったなぁって思うかもしれないじゃん」
「リューと二人のがほしい」
「わかった。じゃぁ明日撮ろう。ピータさんも明日ならいるんだ」
「リューちゃんと二人?俺も欲しい」
「俺も!」
「僕も」
「わかったわかった。二人ずつで撮ろうなー?一番最後にみんなで撮った写真載せてさ…うん、我ながら最高にいいんじゃないか?」
リューイは出来上がりを想像して笑う。
写真を一枚ずつ貼りながらクラルスは絵を描く。レックスとシルバにも描けば二人はその代わりに写真に文字を書き込む。
楽しいが作業の進みは良くない。苦笑しつつもリューイは自分の写真を見つめてはウィリディスのアルバムを作るべきだったかと思う。何枚か余りの出た写真をファイリングして渡せば喜ぶだろうか。
「ねぇねぇ、リュー兄、俺ね学校行くの」
「俺もだよ」
「僕も。がっこうってなに?」
「たくさんの友達と勉強するところ。勉強だけじゃなくて遊んだり運動したり、いろんなことができるんだ。まぁ、時間に縛られはするけど、慣れれば楽しいと思う。同い年も年上も年下もいるぞ」
レックスは眉を寄せる。
生まれてからというもの子供と言えるような存在はリューイとシルバ、クラルス、フィーディス、フォートとアイリーンの息子しか知らない。
「怖い」
「怖いの?」
「うん。だって知らない人怖い。仲良くなれるかな」
不安そうな顔をされてしまう。
苦笑してから二人の頭を撫でる。リューイもそれまで全く関係してくることのなかった同い年と突然会ったらうまく付き合えるか心配になる。
その場にいてやりたいが、リューイは一緒に学校へ行くことはできない。
無理はしなくていい。でも自分たちからも歩み寄って行ってほしいと思うのもまた事実である。
ぐしゃぐしゃと髪を乱す。笑いかければまだ不安はあるようでアルバムに視線を落とした。
「いやなこと、不安なこと、怖いこと、そんなことがあるなら家族に話すんだぞ。いきなりは無理でも少しずつ」
レックスがこくんとうなずけば再度頭を撫でた。
五人のアルバム作成は夜ご飯前まで続く。ウィリディスが帰宅したときもまだやっており、様子を見るために顔を覗かせればフロアの床一面に広がった写真に驚いた。
「そうか、珍しく出迎えがなかったから出掛けているのかと思ったんだ。だが、上から楽しそうな声がしたから見に行ってしまった」
「楽しかったよ。写真見るといろんなこと思い出すから。別れも寂しいけど、アルバム見たらきっと寂しい気持ちも落ち着くと思う」
入浴後レックスたちに勉強を教えていたウィリディスはいつもより集中力のない理由を把握した。
勉強は途中で終えて、アルバム作りの話を聞いていたのだ。
明日もやるのだと言い、ピータと写真を撮りたいと話していた。ピータも喜ぶだろう。
フォートやアイリーンとも写真を撮りたいとねだられてしまえば断る理由などあるはずもなく、その場で電話をかけて約束を得た。
「先生、明日みんなで写真撮るからね、早く帰ってきてね」
「できる限り早めに戻る」
「ピータさんは昼間撮るとして、フォートはいつ来るかな」
「夜には来るだろう……クラートもいるか?」
「うん!」
「わかった。連絡をいれておく」
シルバが嬉しそうに笑う。
腕を伸ばし頭を撫でれば笑い声が上がった。
その様子を眺めながらウィリディスに渡すアルバムはどんなものにしようかと考える。
写真を入れて、みんなでメッセージを入れて、アクティナやアカテスに見せたとしても笑ってもらえるものがいい。
「リューちゃん、寝る?」
「うん。寝るけどあと少しせんせーと話すから先にベッドに行っていて」
「わかった。おやすみ、先生、リュー兄」
「おやすみー」
手を振って見送る。
ウィリディスはさっそくクラートに連絡を入れていた。
リューイはその隣で端末をいじる。ウィリディスが手を止めればリューイも顔を上げた。
「終わった?」
「返事がくるかはわからないがな」
「そっか。じゃぁ次は俺の番」
「なんだ」
ウィリディスが端末を目の前のテーブルに置く。
ソファに再び体を預ければリューイがウィリディスの腕を抱いて距離を縮める。
「ほら、ウィル。カメラを見てよ」
言葉と同時に視線を少し上に向ければシャッター音が聞こえた。
リューイはすぐにウィリディスの腕を解放すれば端末で撮ったばかりの画像を確認する。
少し目を丸くしたウィリディスとのツーショットだった。
うまく撮れたと満足すれば画像に保護をかける。
「ありがと、ウィル」
「…いや、構わないが…」
「これは俺だけの写真。明日も別で撮るからな」
「まだいるのか」
「当たり前じゃん。ほしい。ウィルはいらない?」
「…本物が隣にいればいい」
ウィリディスの言葉にリューイはほのかに赤くなる。
言葉を返すことはないままウィリディスの膝に向かい合わせで座る。
見るたびにきれいだと思う瞳を覗き込み笑みを浮かべた。
「わがまま…」
「悪いか。お前を好きになってから、あれもこれもと欲深くなる。今夜も寝かせたくないと思うほどに」
腰を撫でる手が下にずれる。
甘えるようにすり寄れば髪に唇が落ちてくる。
「このままベッドに行きたいものだな」
「だめ。しばらくは上でみんなと寝るの」
リューイはウィリディスの体から離れた。
自分もこのままではベッドに行きたくなるばかりかもしれない。
おやすみ、と告げて足早に上に駆け上がる。
腕の中から消えたぬくもりを抱きしめるようにウィリディスは手を握る。
リューイを独占できる発情期が待ち遠しいなどと言ったらどう思われるのだろうか。
ため息を着けば端末がメッセージの到着を知らせた。取り上げて見ればクラートからで、仕方ないから行ってやるよ、というものだった。
苦笑し、待っている、と送って自分もベッドに向かう。
寝室の電気を消す直前に見た端末の待ち受けはいつか撮ったリューイの寝顔である。
それを一撫でしてからウィリディスも眠りについた。
時折色紙を用いて言葉を入れる。
レックスの笑顔を見てこちらも笑顔になりながら次の写真を手にしていた。
「りゅーちゃぁぁんっ」
「そんな叫ばなくても聞こえるぞ。どうした」
下のフロアからシルバの絶叫が聞こえた。
レックスと喧嘩したのか、それともクラルスがわがままを言ったのか。
どちらだろうかと考えながらフロアを降りればそこは惨憺たる有様だった。
服や本が散らばり、荷物をまとめているはずのカバンはぺしゃんこのままである。
「荷物を分けていたはずだよな、なんでこうなった」
「レックスが俺のものを取るの」
「シルバのじゃない。俺のだ」
二人の手にするのはピータが買ってきた服である。とはいえ二人の体にはサイズがいささかあわないものだ。
買ったその時よりも二人の体は大きくなった。自分のものだと言ってもすぐに着られなくなるだろう。
自分の荷物として持っていくよりはクラルスに与えるか、どこかの施設に寄付したり、古着として売ったほうがよほどいいのではないだろうか。
「だって、ピータさんが買ってくれたやつだもん…」
「うん、ソレも大事な思い出だな?でも、着れないものを持っているよりはそれをまだ着れる人に上げたほうがよっぽどいいぞ」
不満そうな顔をする二人を見てリューイは苦笑する。
クラルスは好きな服を中心に集めて満足している。ニウエはもちろんクラルスとともに行くのだ。
あとはお気に入りの本を選んでいる。
「着れないでしまいっぱなしよりもっとお気に入りのがあるんじゃないのか?これは没収。新しい家でもたくさん買ってもらえると思うし持って行き過ぎも良くないだろ」
「ぶぅ」
「ほら、こんな顔しない。ほかに選べないやつあるなら避けておけよ?」
頬を膨らませたレックスの頬を指で押して空気を抜く。
ぶぅっと音を立てて空気が抜ければ面白かったのか笑い声が上がる。
リューイは再び作業が始まったのを確認すると立ち上がって一人離れた場所で服をたたんでいるフィーディスに近づいた。
「どうだ、まとまりそうか?」
「それなりにはね」
「本はいらないのか?レックスたちはどれにしようか悩んでるのに」
「俺はいいよ。リューがもらって」
「あとで返せっていても返さないからな」
「そんなことは言わないよ」
笑うリューイを見てフィーディスは一度手を止めた。
リューイの発情の周期は間もなくである。
「ねぇ、リュー。今回は先生と一緒なの?」
「うん。俺が一緒にいてって頼んだ」
「そっか…」
「ごめんな、フィーディス」
「いいよ。前回のこともあるから」
フィーディスに笑いかけたリューイは先ほどまでの作業の続きのために上のフロアへと向かっていく。
先ほどまで途中だった写真を手にすれば誰のアルバムに貼ろうかと悩む。五冊分のアルバムを作るのは骨が折れるが、リューイは楽しくてたまらなかった。
写真を見るたびにこんなことがあった、あんなことがあったと思い出す。
ぽたっと涙が流れ落ちれば慌ててそれを拭う。自分だけ先にすすめなくなりそうで怖かった。
大丈夫、と言い聞かせアルバムに写真を貼り付ける。いつか色あせてしまうだろうが、自分たちの心の中に残る思い出は色あせない。
そんなことを考えていて恥ずかしくなった。
「…俺こんなロマンチストだったっけ…いやいや、だれかさんのせいだ」
部屋にある箱にしまったままの万華鏡を思い出す。みんなが寝静まったあと、窓際でそれを覗くのが楽しみだった。
耳まで赤くなりながら誰もいないのに咳払いをする。
泣きじゃくるクラルスをなだめようとするシルバの写真は二人のアルバムに、卵をうまく割れて笑顔のレックスは本人と自分のアルバムに、全員で並んで寝ている写真はシルバとフィーディスに。
映っている存在に偏りがないように、一ページごとに開いたとき、笑顔になれるように、リューイは丁寧にアルバムを作っていく。
「……つら…」
ぽつりとこぼれた。
手を止めて床に転がる。にぎやかな声が聞こえてきた。
喧嘩をしているわけではないのだろう。クラルスの笑い声も響く。
彼らがいなくなったこの部屋はどれだけ静かになるのだろうか。
ウィリディスがいる。でも彼は研究室にいる時間のほうが昼間は多い。ピータと二人で静かな部屋にいることになるのだ。
「リュー兄、アルバムできた?って…どうしたの、リュー兄。転がっちゃって」
「ん、少し疲れた」
「じゃぁ俺たちもやろうか」
「やる?」
「うん。シルバたち呼んでくる。だって俺たちのためのアルバムなんだろ?リュー兄だけでやるのずるい。俺もやりたいもん」
「わかった。じゃぁペンとかいろいろ用意しておくから」
笑顔でうなずいたレックスは下へと急ぎ足で降りていく。リューイは起き上がれば追加のペンやハサミを用意した。
そういえば、と思い立つ。ウィリディスやピータとの写真が少ない。なんだったらフォートやアイリーン、クラートとの写真もないではないか。
フォートやクラートは少し脇においておき、ウィリディスとピータとの写真はほしい。個々でもいいし、集合でもいい。
ピータは明日また来るし聞いてもいいだろうか。ウィリディスは今日帰宅したときに突撃して写真を撮ればいい。
「リューちゃん、お手伝いにきたぁ」
「りゅーちゃ、おてつだいー」
「おー、ありがとうー。ペンもいっぱいあるし、書き込み用の紙もたくさん用意したからいろいろやろうなぁ」
うなずいた弟たちにペンを渡して各々のアルバムを渡す。
最後の日まで内緒にしようかと思っていた日もあったがこうしてワイワイしながら作っていくのが自分たちらしい。
クラルスは一ページずつめくっては顔を輝かせている。
「これ、覚えてる。りゅーちゃが迷子のれーちゃとしーちゃ探して見つけたやつ」
「クラルス、そんなの覚えてるの」
「覚えてる。えーんって泣いてた。でもおうちのそばだったからりゅーちゃ笑ってた」
「クラルスって案外記憶いいよね」
クラルスが指さしたのは泣きじゃくるレックスとシルバを見ている写真である。
クラルスの言う通りお使いに行かせたはいいが周辺が薄暗くなり帰り道がわからなくなって泣きじゃくっていた二人を見つけたものだ。
二人が泣いていた場所はそのとき住んでいた家の真後ろだったから二人の泣き声がリューイとクラルスにも聞こえていたのだ。
「もう迷子になっても泣かないよ。おうちどこですかって聞けるもん」
「俺は泣いちゃうかもなぁ…知らないところ怖いし」
「僕はみんなと一緒だから迷子にならないよ」
「うん、そうだね」
リューイは彼らの会話に笑ってしまった。
フィーディスがいなかった時のため彼は話に混ざらず自分のアルバムを見ている。
「気になる写真あったか?」
「俺の寝顔なんていつ撮ったの」
「会ってから少し経ったときだなぁ…お前ってば俺たちと会ったばっかりだってのに緊張感なく寝てるんだもん」
完全に安心しきった顔で寝ているフィーディスだが一緒に写っている手はレックスかシルバの手だろう。
リューイのアルバムにも全員分の寝顔が入っている。
「せんせーとピータさんと撮った写真が少ないからさ…二人がいるときに一緒に写真撮ろう」
「俺はピータさんとだけでいい」
「いうと思ったよ。ダメ。フィーディスもいつかアルバム見返したらそんなときもあったなぁって思うかもしれないじゃん」
「リューと二人のがほしい」
「わかった。じゃぁ明日撮ろう。ピータさんも明日ならいるんだ」
「リューちゃんと二人?俺も欲しい」
「俺も!」
「僕も」
「わかったわかった。二人ずつで撮ろうなー?一番最後にみんなで撮った写真載せてさ…うん、我ながら最高にいいんじゃないか?」
リューイは出来上がりを想像して笑う。
写真を一枚ずつ貼りながらクラルスは絵を描く。レックスとシルバにも描けば二人はその代わりに写真に文字を書き込む。
楽しいが作業の進みは良くない。苦笑しつつもリューイは自分の写真を見つめてはウィリディスのアルバムを作るべきだったかと思う。何枚か余りの出た写真をファイリングして渡せば喜ぶだろうか。
「ねぇねぇ、リュー兄、俺ね学校行くの」
「俺もだよ」
「僕も。がっこうってなに?」
「たくさんの友達と勉強するところ。勉強だけじゃなくて遊んだり運動したり、いろんなことができるんだ。まぁ、時間に縛られはするけど、慣れれば楽しいと思う。同い年も年上も年下もいるぞ」
レックスは眉を寄せる。
生まれてからというもの子供と言えるような存在はリューイとシルバ、クラルス、フィーディス、フォートとアイリーンの息子しか知らない。
「怖い」
「怖いの?」
「うん。だって知らない人怖い。仲良くなれるかな」
不安そうな顔をされてしまう。
苦笑してから二人の頭を撫でる。リューイもそれまで全く関係してくることのなかった同い年と突然会ったらうまく付き合えるか心配になる。
その場にいてやりたいが、リューイは一緒に学校へ行くことはできない。
無理はしなくていい。でも自分たちからも歩み寄って行ってほしいと思うのもまた事実である。
ぐしゃぐしゃと髪を乱す。笑いかければまだ不安はあるようでアルバムに視線を落とした。
「いやなこと、不安なこと、怖いこと、そんなことがあるなら家族に話すんだぞ。いきなりは無理でも少しずつ」
レックスがこくんとうなずけば再度頭を撫でた。
五人のアルバム作成は夜ご飯前まで続く。ウィリディスが帰宅したときもまだやっており、様子を見るために顔を覗かせればフロアの床一面に広がった写真に驚いた。
「そうか、珍しく出迎えがなかったから出掛けているのかと思ったんだ。だが、上から楽しそうな声がしたから見に行ってしまった」
「楽しかったよ。写真見るといろんなこと思い出すから。別れも寂しいけど、アルバム見たらきっと寂しい気持ちも落ち着くと思う」
入浴後レックスたちに勉強を教えていたウィリディスはいつもより集中力のない理由を把握した。
勉強は途中で終えて、アルバム作りの話を聞いていたのだ。
明日もやるのだと言い、ピータと写真を撮りたいと話していた。ピータも喜ぶだろう。
フォートやアイリーンとも写真を撮りたいとねだられてしまえば断る理由などあるはずもなく、その場で電話をかけて約束を得た。
「先生、明日みんなで写真撮るからね、早く帰ってきてね」
「できる限り早めに戻る」
「ピータさんは昼間撮るとして、フォートはいつ来るかな」
「夜には来るだろう……クラートもいるか?」
「うん!」
「わかった。連絡をいれておく」
シルバが嬉しそうに笑う。
腕を伸ばし頭を撫でれば笑い声が上がった。
その様子を眺めながらウィリディスに渡すアルバムはどんなものにしようかと考える。
写真を入れて、みんなでメッセージを入れて、アクティナやアカテスに見せたとしても笑ってもらえるものがいい。
「リューちゃん、寝る?」
「うん。寝るけどあと少しせんせーと話すから先にベッドに行っていて」
「わかった。おやすみ、先生、リュー兄」
「おやすみー」
手を振って見送る。
ウィリディスはさっそくクラートに連絡を入れていた。
リューイはその隣で端末をいじる。ウィリディスが手を止めればリューイも顔を上げた。
「終わった?」
「返事がくるかはわからないがな」
「そっか。じゃぁ次は俺の番」
「なんだ」
ウィリディスが端末を目の前のテーブルに置く。
ソファに再び体を預ければリューイがウィリディスの腕を抱いて距離を縮める。
「ほら、ウィル。カメラを見てよ」
言葉と同時に視線を少し上に向ければシャッター音が聞こえた。
リューイはすぐにウィリディスの腕を解放すれば端末で撮ったばかりの画像を確認する。
少し目を丸くしたウィリディスとのツーショットだった。
うまく撮れたと満足すれば画像に保護をかける。
「ありがと、ウィル」
「…いや、構わないが…」
「これは俺だけの写真。明日も別で撮るからな」
「まだいるのか」
「当たり前じゃん。ほしい。ウィルはいらない?」
「…本物が隣にいればいい」
ウィリディスの言葉にリューイはほのかに赤くなる。
言葉を返すことはないままウィリディスの膝に向かい合わせで座る。
見るたびにきれいだと思う瞳を覗き込み笑みを浮かべた。
「わがまま…」
「悪いか。お前を好きになってから、あれもこれもと欲深くなる。今夜も寝かせたくないと思うほどに」
腰を撫でる手が下にずれる。
甘えるようにすり寄れば髪に唇が落ちてくる。
「このままベッドに行きたいものだな」
「だめ。しばらくは上でみんなと寝るの」
リューイはウィリディスの体から離れた。
自分もこのままではベッドに行きたくなるばかりかもしれない。
おやすみ、と告げて足早に上に駆け上がる。
腕の中から消えたぬくもりを抱きしめるようにウィリディスは手を握る。
リューイを独占できる発情期が待ち遠しいなどと言ったらどう思われるのだろうか。
ため息を着けば端末がメッセージの到着を知らせた。取り上げて見ればクラートからで、仕方ないから行ってやるよ、というものだった。
苦笑し、待っている、と送って自分もベッドに向かう。
寝室の電気を消す直前に見た端末の待ち受けはいつか撮ったリューイの寝顔である。
それを一撫でしてからウィリディスも眠りについた。
0
あなたにおすすめの小説
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる