世界は万華鏡でできている

兎杜唯人

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運命

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リューイはベッドに横たわっていた。
朝から体温が高い。ウィリディスは少し汗ばんだほほを手の甲で撫でた。

「ウィル……」
「辛いか。今水と、クラートからもらってきた薬を飲ませるから安心しろ」
「ん…大丈夫、だよ」
「そうか」

発情期前のΩはいろいろと体調を崩すことが多い。
前回は見てやることができなかった。異変にも気づくことができなかった。
だが今回はそばにいることができる。リューイがそれを望んだからだ。

「先生、リュー兄は大丈夫…?」
「あぁ。済まないな。お前たちとの別れも近いのに」
「ううん」

部屋を出れば心配していたらしい子供たちがウィリディスを見つけて駆け寄ってくる。
レックスは顔を曇らせたまま、シルバはその隣で手を握り締めていた。
クラルスも眉を下げフィーディスの体に身を寄せていた。

「……リューちゃんが、たまにこうして具合悪くなるのって、あの首輪がいけないの?」
「リュー兄…もう治らない…?この先もずっとこうやって苦しむ日がくるの?」
「首輪がいけないわけではない。生まれ持った性質のせいなんだ。お前たちが知るにはまだ早いとは思うが」
「でも知っておきたい。先生なら教えてくれるでしょう?俺たち、リュー兄の事を知らないままさよならはしたくないよ」

レックスに腕をつかまれウィリディスはその言葉に驚く。
リューイは話すことを望むだろうか。フィーディスを見れば彼も少し顔がこわばっていた。
レックスにもシルバにもまだ早い。学校に行き、性について学ぶまでは、と思ってもいた。
ただ多くのαやΩの家庭の子供たちは、そういうものである、という認識の中で生活している。
数か月に一度、Ωを襲う発情期、男であっても妊娠し、女であっても妊娠させられるということ。
それが当たり前である中で生活しているのとしていないのとではその子供の意識も大きく変わるだろう。
何しろ彼らの養子先はどこも、αとΩの番である。ウィリディスが話すべきことでないと思っている。

「お前たちが知りたいと望むことは悪いことではない。話すのもお前たちが望むのであればかなえてやりたいと思う。だが、俺が不安に思うのは知ったあと、リューイを見るお前たちの目が変わるのではないかということなんだ」
「変わらない。それがどんなことだって変わるはずない。だから、教えて、先生。先生とのお勉強会、これを最後にするから」

ため息とともに二人をソファへと促した。
さすがにクラルスには話そのものが時期尚早であろう。フィーディスはウィリディスが話すつもりなのを見て悟ればクラルスを連れて二人で上のフロアに上がっていった。

「りゅーちゃは?」
「少し寝ているから俺と二人でアルバム作りの続きやろうね。この前ピータさんとフォートとクラートと写真撮ったでしょ。あれをみんなのアルバムにいれようね」
「うん」

階段の声が聞こえなくなればウィリディスはうつむいた二人のそばに座った。
どこからどう話したものだろうかと悩む。Ωにもαにも偏りがでないように話さなければならない。
ウィリディスはゆっくりと口を開く。
人間の性別のこと、そこから派生した三つの性別のこととその特徴、かみ砕ける限界までかみ砕いて今のレックスとシルバでわかる範囲の内容を告げた。

「じゃぁリューちゃんは今までもずっと体調の良くない日があって…」
「そういえば一週間ずっと泊まりの仕事だからって、たくさんご飯を用意していなくなるときがあった」
「じゃぁその時も…?」
「おそらく」
「だって具合悪いんでしょう?」

発情期の詳細は伝えていない。その具合の悪さがどうしたら治るのかも伝えていない。伝えるにはあまりにも酷な内容である。

「…あぁ。だが、その時でなければできない仕事があった」
「でもリュー兄はもう仕事しなくていいんでしょ」
「あぁ…」
「じゃぁお薬上げたら治る?」

ウィリディスは首を振る。
顔を歪めながらもレックスは涙を飲み込みウィリディスを真っ直ぐに見つめた。

「…先生が、リュー兄を治せるの」
「"俺だけが"というわけではない。だがいまここにいる中でということならば、今のリューイを治せるのは俺だけだろう」

鼻をすすりながらシルバがウィリディスを見つめた。白くなるほどに握りしめられた手を包むように握る。

「すべてを話すにはどうしてもお前たちは幼すぎる。リューイも知られるのを望みはしないだろう。学校に行き出せばそのうちに学ぶ。これで、許しては貰えないか」

レックスもシルバもなにもいわないし、うなずきもしない。
ただウィリディスを見つめていた。
なにか言わねばと思った。だが、シルバが少し早く声を出した。

「いつか、俺達ももう少し大きくなったら、リューちゃんはその時に話してくれるかな」
「きっと」
「レックス、先生に任せよう。リューちゃんが先生を頼っているなら俺達はリューちゃんを信じればいいから」
「シルバは不安じゃないの?」
「不安だよ。体調良くないのにお仕事していたことも、その、あるふぁとおめがとかの違いもまだわからないし…」

ウィリディスはシルバを撫でる。
ぎりぎりこぼれずにいた涙が一粒落ちた。

「だけど俺達はまだ子供なんだよ。助けたくてもリューちゃんをちゃんと助けられないなら、助けられる人にお願いするしかないよ」
「…うん」
「先生、リューちゃんを助けてあげてね…俺達邪魔しないようにするから」
「あぁ」

シルバとレックスは抱き合い少しだけ泣いた。
二人が立ち上がって上に向かうまでウィリディスはソファから動けなかった。
リューイの発情が収まったあと、どう話してよいか悩んでしまう。
発情期が明けて別れの時まで一週間しかないのだ。余計なしこりは残したくはない。
ソファから立ち上がり、部屋へと戻る。その室内はリューイの甘いフェロモンに満ちていた。

「リューイ」
「…ウィル…辛い」

ベッドに近づき顔を見つめればかすれた声でリューイは名前を呼ぶ。
水も多めにベッド脇においた。ここでの初めての発情のあと、室内にタオルも多めに置くようにしたし、蒸しタオルを作ることができる機械も置いた。
薬も強いものを自分は服用している。
大丈夫だと言い聞かせた。

「好きなだけ乱れるといい。お前が落ち着くまでそばにいる…」

リューイの腕が伸びてくる。その体を抱き寄せて口づければそれが引き金となった。
リューイのフェロモンがウィリディスを取り巻いた。
その細い体を抱き寄せて服をはぐ。肌に吸い付きすでに蜜をこぼすそれを手に収めた。
リューイが名前を呼ぶ。脳まで染み込む程の甘い声だ。
理性など簡単に焼き切れる。ウィリディスとリューイはただひたすらに快楽を貪った。
時間なんてわかるはずもなかった。
窓の外が暗くなり、ウィリディスは流れ落ちてきた汗を拭い、胸を上下させるリューイを見下ろした。
リューイはうつろな目を天井に向けている。

「リューイ…聞こえるか」
「ん…聞こえるの」

リューイはウィリディスを瞳に映せば蕩けた笑みを浮かべる。腕を拡げているリューイの体を抱き上げれば足の上に座っておとなしくなる。
リューイは甘えるかのように顔を寄せてくるため、素肌に髪がこすれて少しくすぐったくもある。

「まだ足らないか」
「ん…あとちょっと。ねぇ、ウィル、ここ触って」

リューイは少し体を放せば自分の腹部を指さした。
困惑しつつリューイの腹に触れる。そこはウィリディスが吐き出した精で満たされている。ウィリディスの手に自分の手を重ねたリューイは幸せそうに微笑んでいる。

「いっぱい…ウィルの精子入ってる……ウィルが俺で気持ちよくなったってすごくわかる」
「お前もたっぷり出していたからな」

リューイの視線がウィリディスからシーツに落ちた。
濡れていないところなどない。二人の交わった証にシーツは色を変えている。
恥ずかしそうにウィリディスの胸元に顔を埋める。くしゅん、と小さなくしゃみが聞こえてくれば体が冷えたのだろうかとリューイをベッドに残して立ち上がる。
蒸しタオルのための機械を購入したことは間違っていなかったようである。中からタオルを一つ出せばリューイの元に戻る。ベッドの縁に腰かけ招き寄せる。リューイはウィリディスの手の中にあるタオルに指先で触れて笑った。

「あったかぁい」
「体を拭いてやる」
「やって」

ウィリディスに体を預けたリューイは隅々まで丁寧に拭われていく。
気持ちよさそうに目を細めては機嫌よさそうに鼻歌を歌う。
発情したてよりは落ち着いているが甘い香りが漂う。ウィリディスが呼吸するたびにその香りが自分の中に入ってくる。
リューイはウィリディスに甘えるように体を寄せて笑いかける。

「ウィル、また抱いて。ウィルの好きなように、めちゃくちゃにしていいから」

タオルを持つ手を抑えてリューイは体を乗り出した。
自分からウィリディスに口づけて唇を舐める。口づけは一度きりではなかった。
リューイをベッドに押し倒し見つめる。

「体はつらくないのか」
「辛くない。ウィルの匂い嗅いでると、もっと、って思うの…ちょっとだけぴりっとして、だけどその体の向こうに甘さもあって…俺の奥底をぐりぐり刺激してくるの。たまんない」
「それは俺も同じだ。お前の柔らかな甘い香りが俺のαを刺激する。お前をすべて食らってしまいたいと、抑えが効かなくなる」

ウィリディスの大きな手がリューイのほほを撫でる。
重なる唇はいつにもまして熱い。舌を引きずり出されて吸い付かれる。
指が絡み、至近距離で見つめあう。弱まっていたリューイのフェロモンが勢いを増した。

「ふゃ…ウィル…俺と子づくりしよー…?」

フェロモンに飲まれ、再度発情の波が来たリューイが囁く。
なんということを囁くのか。リューイはウィリディスの気持ちなどわかりはしないだろう。
ウィリディスのむき出しの胸元を撫で、赤い舌を覗かせる。

「子供はできないがな。薬も飲んでいるし」

苦笑を漏らし一度リューイの中へとたぎった己を突き刺す。
高く啼き、体をのけぞらせるリューイを見ながらまた揺さぶる。リューイの足が腰に回ってくれば、ウィリディスの手がリューイの腰を支える。
頭を突き抜けるほどの快感を得ればリューイは達する。薄いものを吐き出して幸福そのものといった表情を浮かべた。
だがウィリディスはまだ達していない。
リューイから一度抜けばその体を抱き起す。

「ウィル?」
「窓際に行くぞ」
「やだ…」

リューイは首を振った。
発情期の窓際なんていい思い出がない。
冷たいウィリディスの目を思い出す。苦しいほどの快感の中だったはずなのに、あのウィリディスの瞳を思い出せば一気に体は冷めてしまう。

「リューイ…おいで」

ベッドを降りてリューイを呼ぶ。
それでも首を振るリューイを抱きしめればゆっくりと抱き上げた。
体を縮こまらせて震えている姿を見て、前回の発情時に手ひどく扱ってしまったことを再度後悔した。

「立っていられるか?」

リューイは首を振る。窓に手をつかせればそれだけでも震えた。
背中に何度も口づけることで緊張から血の気が失せた肌に熱を与える。
後ろから包み込むように抱きしめればリューイの目を手で覆い隠した。

「リューイ、本当に済まなかった。いくらお前のフェロモンに飲まれまいとしたからと言って、お前を傷つけるようなことを口にしてしまった」

リューイの背中にウィリディスの体温が分け与えられていく。
未だ硬さを保ったままのウィリディスの熱を下肢に感じる。それは確かな意思をもってリューイの中に侵入してきた。

「今は違う。ほら…このガラスに映るお前はとろけ切った顔をしているだろう?お前から見た俺はどう見えている」

リューイの目を覆っていた手がどく。
確かにガラスに反射していた自分の顔はだらしなく蕩けていた。それを見つめるウィリディスの顔も反射している。
その瞳を直視できなかったが、恐る恐るガラス越しにウィリディスの瞳を見つめる。
リューイとガラス越しに目があえばウィリディスは微笑んだ。

「もう、怖くないか」
「……怖くない」
「そうか。俺の好きなように、というのならばこのままここでお前が気絶するまで抱いてもいいだろうか」
「俺に聞くの?好きにしてって言ったのに」
「あぁ。もうお前に怖い思いをさせたくはないからな」

ウィリディスはリューイの中に熱を治めたが、リューイが嫌がれば抜くのだろう。
リューイの答えは伝わっているのではないだろうか。
ガラス越しにリューイの瞳は欲に濡れている。
唇をなめてリューイはその言葉を紡いだ。
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