黒狐さまと創作狂の高校生

フゥル

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第1話 黒狐さまと狐憑き

ここまで素早く指を引いたのは、熱いやかんに触れた時以来

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 ただ願うだけで夢がかなうなら、自己啓発書を読んだだけで、誰でも億万長者だ。
「だって、願い事叶う系の短編小説のオチって、ろくな事ないじゃないですか。願いがゆがめられて、真逆の結果を引き寄せたり。叶ったけど、後で因果応報されたり。本当に当人が必要だったものを、見失ったりするパターンもあるし」
 『少年と三つの願い』という話を読んだ事がある。一つ目の願いは、金が欲しいだった。結果少年は、優しい両親が死んで保険金が手にした。二つ目に、保険金はいいから両親を生き返らせてくれと願った。全身が腐った状態で両親が生き返った。最後に、全てをなかったことにしてと願った。両親の存在ごと、少年の存在が抹消された。後には何も残らない。
「過程を無視して結果だけを求めると、全てが台無しになる。神話の時代からのお約束です」
「おぬし、どんだけ執筆に侵されているんじゃ!?」
「引き受けるにしても、まずはチャンスを辞退しないと。人生が変わるような選択に置かれた時、人はまず現状を維持しようとします。だから、洋画では本人が旅立ちに乗り気でなかったり、両親や雇い主から反対されたりするんです」
「映画と現実をごっちゃにするでない!」
「現実と空想を取り違えたような、黒狐さまに言われたくありません!」
 風で舞った枯れ葉が、白い肌にばっちり陰影を作っている。とても、幻覚には見えない。
 素直に信じるのも考え物だ。かといって、どこぞのショートショートのように、呪われるのも避けたい。とりあえず、会話を長引かせて、思考時間を稼がねば。
「ああもう、わらわをコケにしたらどうなるか──」
 マズイ、気の利いた返しをしないと殺される!
「今はツンツンしてるけど、3回くらい優しいエピソード重ねたらデレるんですよね。オムニバス短編集の中のヒロインみたいに!」
「わらわをキャラクターと一緒にするでない! わらわは実在しておるんじゃ。知識経験豊富な妖狐じゃぞ?」
「でも、最近のことしか覚えていないんでしょう?」
「うっ」
 黒狐さまは口に手を当てて、数歩後ろに下がった。
「で、素で対等に話せる人間がいなくて、寂しいんですよね。SNSの漫画で見たことあります」
「友達はぼちぼちいるし! いや、正体は教えとらんけど……」
「で、能力の偉大さに対して、ごく普通の悩みを持っているそのギャップがいいんですよね!」
「その手の4コマはわらわも好き……じゃなくて! もうよい!」
 賽銭箱を迂回して、こちらへ歩いてくる。
「ほれ」
 黒狐さまは、胸を大きく前に突き出した。改めて、その大きさに圧倒される。
「気になっていたんじゃろう。よい、触ってみよ」
「いや、さすがに神社で祭られてる狐さまの胸を触るのは罰当たりかと」
「幻覚に触ったところで罰が当たることはあるまい」
 顎に手を当て、見下してきた。ニタニタしている。「そんな度胸などないであろう?」とでも、言いたげだった。
 相手が後退することを見越し、一気に手を伸ばした。肩を下げ、腰を捻り、最大限手を伸ばす。
 反射的に手を引いていた。柔らかな弾力が、まだ指先に残っている。
「ひっ」
 小動物の鳴き声かと思ったが違った。自分の声だった。
「アハハ! なっさけないのぉ。じゃが、これでよくわかったろう。わらわが、夢幻ではないことがな!」
 黒子さまは、懐からスマホを取り出した。
 妖狐もスマホを使うんだ……。
「さてと、では投稿サイトと、アカウント名を教えておくれ。検索するから」
「普通にアドバイスしてくれる感じですか?」
「そうじゃ。ただの助言であれば、文句はあるまい」
 黒狐さまは、ニコリと笑って頷いた。
 それならアリだ。アリだ。大アリだ。自分の力でどうにもならない『あと一押し』。努力で伸ばせない力。運気をつかむ力。それが欲しくて、今ここにいるのだから。
 観念して、サイトとアカウント名を教えた。
 黒狐さまは、鼻歌を奏でながら、ぼそっと呟いた。
「稲荷大神と交渉する手間が省けたのじゃ~」
 やっぱりやめた方がよかったかな?
 まあいい。もうどうやっても彼女は止められないだろう。
 それより、何か引っかかる。重大な見落としをしているような気が──。
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