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第1話 黒狐さまと狐憑き
新しい友達
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五分ほど坂を登ると、桜通りに出る。
桜通りはもともと急こう配だった坂を、工事で切り開き、両側を石垣で固めたらしい。その時、坂の両脇に50もの桜を植えたそうで、これが名前の由来になっている。
桜の花で造られた、ピンクのアーチは圧巻。花見に来たであろう人もちらほら見られた。
「おぉ! あと少しで満開かのぉ!」
黒狐さまが見上げると、純白のうなじが露わとなった。幾本かの髪の毛が、散らばっており、白と黒の対比のすばらしさは言うまでもない。よく見れば、生え際まで手入れが行き届いており、黒狐さまの髪に対する並々ならぬ想いが伝わってくる。多種多様な髪型が跋扈する現代とは違い、平安時代は黒髪ロング一強だ。現代と比べ、比較にならないほどハイレベルな黒髪合戦が繰り広げられたに違いない。彼女の黒髪は、黒髪戦国時代を生き延びた、歴戦の黒髪なのだ。
「お今見るべきは、わらわではなく桜じゃぞ?」
どうにか、桜の枝に集中しようとする。が、どうしても桜背景の、黒狐さまの横顔に、目が行ってしまう。
頭に浮かんできた言葉を口ずさむ。
「黒髪を、かきあげ拝む、桜かな」
「桜見ず、黒髪拝む、惚け者! 心遅すぎるわ馬鹿者が!」
「返歌早ッ」
「貴族のたしなみぞ!」
「ついでに、心遅いってどういう意味ですか?」
一瞬固まった後、若干恥ずかしそうに黒狐さまは言った。
「古語で、気が利かないという意味じゃたわけ! わらわは桜の感動をお主と共有したかったんじゃ。少しは人の気持ちを考えよ!」
「わかりました。次からは、あなたに気付かれないように、うなじを拝みます」
黒狐さまは両腕で自分を抱くと、体をぶるっと震わせた。
「変態かッ! もうよい。今よりお主のあだ名は『狐憑き』じゃ! 『狐に憑かれる』のではなく、『狐に憑く』から狐憑き!」
「狐の名を関するあだ名をいただけて光栄であります!」
わざとらしく手を合わせて、黒狐さまを拝んだ。
しばらくの沈黙の後、二人で笑いあった。
坂を上り終えた所で、狐憑きは言った。
「あそこに見える、築30年のアパートの一室が、僕の家です。ここまでついてきてくれてありがとうございました」
「こちらこそ、こんなに笑わせてもらったのは久しぶりじゃぁ。これは礼じゃ」
黒狐さまは、満足げに笑うと、お守りを差し出してきた。深間神社のお守りとはデザインが違った。黒地に金の糸で『御守』と書かれている。字の下には狐の絵。デフォルメされており、とても愛らしい。
「何が入っているんです」
「わらわの毛じゃ」
「どこの」
キョトンとした顔をした。が、質問の意味を察したらしく、みるみる顔が赤くなり、眉間にしわが寄った。
「へ、変態! 変態じゃぁ! 髪じゃよ、髪の毛! 黒髪! 太古より、黒髪は神の依り代であり、髪とは魂の宿るところと、信じられて大切にされてきたんじゃ。故に、髪は送ることはわらわの魂を送ることと同義でいかがわしいことは何も……って何を言わせるんじゃ!」
「勝手に自分が口を滑らしたんじゃないですか!」
黒狐さまは、ポコポコ胸を叩いてきた。目が潤んでおり、なんというか、とても嗜虐心をそそられる表情だった。
「もうよい。覚えておれ。この恥辱は必ず晴らすのじゃぁ~」
その表情で言われても正直、捨て台詞にしか聞こえない。
「すいません。所で、黒狐さまの家はどこなんですか?」
「ん? 深間神社の裏」
一瞬、訳が分からなかった。
「じゃあ、なんでここまでついてきたんです?」
「お主の家の場所を知りたかったからじゃ」
「騙しましたね?」
「悪い気分ではなかったじゃろう?」
先ほどとは打って変わって、艶のある声にどきりとしてしまった。
「……あの、また神社に遊びに行ってもいいですか?」
「その必要はないのじゃ」
「なぜ?」
「じきに分かるのじゃ。じきにのぉ。ふっふっふー!」
またなのじゃ! と、黒狐さまは、スキップしながら坂を下りて行った。
「またな、か」
とりあえず黒髪、狐、神社、平安時代については調べた方がよさそうだ。
でも今は……
「創作しよう! やる気は生もの! ある時に創作しないと死ぬ!」
メモ帳を閉じると、狐憑きは家へと駆けて行くのであった。
桜通りはもともと急こう配だった坂を、工事で切り開き、両側を石垣で固めたらしい。その時、坂の両脇に50もの桜を植えたそうで、これが名前の由来になっている。
桜の花で造られた、ピンクのアーチは圧巻。花見に来たであろう人もちらほら見られた。
「おぉ! あと少しで満開かのぉ!」
黒狐さまが見上げると、純白のうなじが露わとなった。幾本かの髪の毛が、散らばっており、白と黒の対比のすばらしさは言うまでもない。よく見れば、生え際まで手入れが行き届いており、黒狐さまの髪に対する並々ならぬ想いが伝わってくる。多種多様な髪型が跋扈する現代とは違い、平安時代は黒髪ロング一強だ。現代と比べ、比較にならないほどハイレベルな黒髪合戦が繰り広げられたに違いない。彼女の黒髪は、黒髪戦国時代を生き延びた、歴戦の黒髪なのだ。
「お今見るべきは、わらわではなく桜じゃぞ?」
どうにか、桜の枝に集中しようとする。が、どうしても桜背景の、黒狐さまの横顔に、目が行ってしまう。
頭に浮かんできた言葉を口ずさむ。
「黒髪を、かきあげ拝む、桜かな」
「桜見ず、黒髪拝む、惚け者! 心遅すぎるわ馬鹿者が!」
「返歌早ッ」
「貴族のたしなみぞ!」
「ついでに、心遅いってどういう意味ですか?」
一瞬固まった後、若干恥ずかしそうに黒狐さまは言った。
「古語で、気が利かないという意味じゃたわけ! わらわは桜の感動をお主と共有したかったんじゃ。少しは人の気持ちを考えよ!」
「わかりました。次からは、あなたに気付かれないように、うなじを拝みます」
黒狐さまは両腕で自分を抱くと、体をぶるっと震わせた。
「変態かッ! もうよい。今よりお主のあだ名は『狐憑き』じゃ! 『狐に憑かれる』のではなく、『狐に憑く』から狐憑き!」
「狐の名を関するあだ名をいただけて光栄であります!」
わざとらしく手を合わせて、黒狐さまを拝んだ。
しばらくの沈黙の後、二人で笑いあった。
坂を上り終えた所で、狐憑きは言った。
「あそこに見える、築30年のアパートの一室が、僕の家です。ここまでついてきてくれてありがとうございました」
「こちらこそ、こんなに笑わせてもらったのは久しぶりじゃぁ。これは礼じゃ」
黒狐さまは、満足げに笑うと、お守りを差し出してきた。深間神社のお守りとはデザインが違った。黒地に金の糸で『御守』と書かれている。字の下には狐の絵。デフォルメされており、とても愛らしい。
「何が入っているんです」
「わらわの毛じゃ」
「どこの」
キョトンとした顔をした。が、質問の意味を察したらしく、みるみる顔が赤くなり、眉間にしわが寄った。
「へ、変態! 変態じゃぁ! 髪じゃよ、髪の毛! 黒髪! 太古より、黒髪は神の依り代であり、髪とは魂の宿るところと、信じられて大切にされてきたんじゃ。故に、髪は送ることはわらわの魂を送ることと同義でいかがわしいことは何も……って何を言わせるんじゃ!」
「勝手に自分が口を滑らしたんじゃないですか!」
黒狐さまは、ポコポコ胸を叩いてきた。目が潤んでおり、なんというか、とても嗜虐心をそそられる表情だった。
「もうよい。覚えておれ。この恥辱は必ず晴らすのじゃぁ~」
その表情で言われても正直、捨て台詞にしか聞こえない。
「すいません。所で、黒狐さまの家はどこなんですか?」
「ん? 深間神社の裏」
一瞬、訳が分からなかった。
「じゃあ、なんでここまでついてきたんです?」
「お主の家の場所を知りたかったからじゃ」
「騙しましたね?」
「悪い気分ではなかったじゃろう?」
先ほどとは打って変わって、艶のある声にどきりとしてしまった。
「……あの、また神社に遊びに行ってもいいですか?」
「その必要はないのじゃ」
「なぜ?」
「じきに分かるのじゃ。じきにのぉ。ふっふっふー!」
またなのじゃ! と、黒狐さまは、スキップしながら坂を下りて行った。
「またな、か」
とりあえず黒髪、狐、神社、平安時代については調べた方がよさそうだ。
でも今は……
「創作しよう! やる気は生もの! ある時に創作しないと死ぬ!」
メモ帳を閉じると、狐憑きは家へと駆けて行くのであった。
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