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第2話 前編 高校にて
やっぱり来やがった
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マンションから出て、桜通り前の交差点を左に曲がる。駐車場つきの一軒家が並ぶ住宅街を行く。春のぽかぽか陽気で、学ランの内側が蒸し暑い。都立田東高等学校では校則上制服は自由だ。しかし、周囲の目を気にして学ラン、ブレザー、スラックスで投稿する生徒がほとんど。購買で手軽に制服が買えるのも、実質上の制服登校を加速させていた。
見覚えのある後頭部を見つけた。茶髪ボブで、紺のブレザーを着ている。
「おはよー」
「ちーっす」
かったるい返事が返ってきた。中学時代からの旧友である、住良木さんだ。まるまるとした頬っぺたに、同じく丸みを帯びてくりくりしている目。少しぽっちゃりめの体も、メリットにしか働いていない。その微笑みは、見知らぬ赤ちゃんに笑顔をもたらす。が、同級生の男子に見せる笑顔の大半が嘲笑だった。
住良木は、露骨なため息をついた。
「だっっっるぅ~」
「昨日何時に寝た」
「三時間しか寝てない。腹いせにこの眠気をなすりつけてやる」
と、住良木さんはこちらへ向けて大あくびをしてきた。思わずつられてあくびしてしまう。
「やめろ。僕だって学ランのせいで、暑くてだるくて死にそうなんだ」
「制服を着て、校勲をつけて、学校名でラベリングした上で、校則違反者への敵対心をあおり、自発的に学校理念沿ってもらおうとする圧力に屈した、あんたが悪いんでしょー」
「唐突なディストピアやめろ。ってかそれじゃあ、住良木さんも同類だろ」
「うちは学校の理念に従ってるんじゃなくて、快適だから利用させてもらってるだけ~」
至極どうでもいい話をしている間に、学校に着いた。
都立田東高等学校は、中央に中庭のある四角形の本校舎と、美術部や茶道室のある第二校舎から成る。入ってすぐにある玄関ホールを通り抜け、一階の教室へ向かった。
クラスメイトと適当に世間話をしていると、チャイムが鳴った。慌てて教室最奥の自分の席へ戻る。が、なぜかカバンが教室の右最奥から一つ横の席に移されていた。
不可解な現象に、棒立ちしてしまった。
「アハハハ! いやぁ、席替えで頭こんがらがってんのはわかるけど、全く別の席にカバン置くとかないわー。マジ笑えるんだけど」
「あれ? いやぁ……まあいいや。ありがと、住良木さん。言葉遣いさえ気を付けていれば最高だった」
おかしい、昨日決まった自分の席は、教壇の真ん前だったはず。間違えるはずはない。けれども、今座っている机に貼られた名札は間違いなく自分の名前だった。よく見れば、自分の席を中心にクラス全体の座席もズレているようだった。しかも、誰もその違和感に気づいていない。
田中先生が入ってきた。スキンヘッド、縦長でがっしりした顔に、ギラギラとした眼光を持つ、弓道部顧問。五段の段位を持つ、ガチの武人である。
「今日は、この教室に新たな仲間が加わることになりました」
タナカ先生が扉を開ける。
同時に、教室の男女にどよめきが走った。
モデルのような足取りには、既視感しか感じない。黒いローファー、黒いタイツ、黒い制服、黒い鞄、白のスカーフ。豊満な胸にはらりとかかる黒髪。ぴっしり切りそろえられた前髪の麗しさは、浮世絵の世界観そのまま。
「九条 黒狐です。得意科目は国語と日本史、特に古文に関しては大半の質問に答えられます。古典のテスト前にわからないことがあれば、ぜひ私に聞いてください。よろしくお願いいたします」
お辞儀にあわせて、一メートル超ある髪の毛が、ゆらりとなびいた。それだけで、「おぉ」という感嘆の声がどこからか聞こえてきた。
「申し訳ないが、一番奥の隅の席で頼む」
「わかりました」
クラスの注目を一身に浴びたまま、黒狐さまは隣の席に座った。肩にかかった黒髪を払うと、わざとらしく会釈してきた。
「本当の得意科目は何ですか?」
教師含め、クラス全員を化かした妖狐は、何も答えなかった。
見覚えのある後頭部を見つけた。茶髪ボブで、紺のブレザーを着ている。
「おはよー」
「ちーっす」
かったるい返事が返ってきた。中学時代からの旧友である、住良木さんだ。まるまるとした頬っぺたに、同じく丸みを帯びてくりくりしている目。少しぽっちゃりめの体も、メリットにしか働いていない。その微笑みは、見知らぬ赤ちゃんに笑顔をもたらす。が、同級生の男子に見せる笑顔の大半が嘲笑だった。
住良木は、露骨なため息をついた。
「だっっっるぅ~」
「昨日何時に寝た」
「三時間しか寝てない。腹いせにこの眠気をなすりつけてやる」
と、住良木さんはこちらへ向けて大あくびをしてきた。思わずつられてあくびしてしまう。
「やめろ。僕だって学ランのせいで、暑くてだるくて死にそうなんだ」
「制服を着て、校勲をつけて、学校名でラベリングした上で、校則違反者への敵対心をあおり、自発的に学校理念沿ってもらおうとする圧力に屈した、あんたが悪いんでしょー」
「唐突なディストピアやめろ。ってかそれじゃあ、住良木さんも同類だろ」
「うちは学校の理念に従ってるんじゃなくて、快適だから利用させてもらってるだけ~」
至極どうでもいい話をしている間に、学校に着いた。
都立田東高等学校は、中央に中庭のある四角形の本校舎と、美術部や茶道室のある第二校舎から成る。入ってすぐにある玄関ホールを通り抜け、一階の教室へ向かった。
クラスメイトと適当に世間話をしていると、チャイムが鳴った。慌てて教室最奥の自分の席へ戻る。が、なぜかカバンが教室の右最奥から一つ横の席に移されていた。
不可解な現象に、棒立ちしてしまった。
「アハハハ! いやぁ、席替えで頭こんがらがってんのはわかるけど、全く別の席にカバン置くとかないわー。マジ笑えるんだけど」
「あれ? いやぁ……まあいいや。ありがと、住良木さん。言葉遣いさえ気を付けていれば最高だった」
おかしい、昨日決まった自分の席は、教壇の真ん前だったはず。間違えるはずはない。けれども、今座っている机に貼られた名札は間違いなく自分の名前だった。よく見れば、自分の席を中心にクラス全体の座席もズレているようだった。しかも、誰もその違和感に気づいていない。
田中先生が入ってきた。スキンヘッド、縦長でがっしりした顔に、ギラギラとした眼光を持つ、弓道部顧問。五段の段位を持つ、ガチの武人である。
「今日は、この教室に新たな仲間が加わることになりました」
タナカ先生が扉を開ける。
同時に、教室の男女にどよめきが走った。
モデルのような足取りには、既視感しか感じない。黒いローファー、黒いタイツ、黒い制服、黒い鞄、白のスカーフ。豊満な胸にはらりとかかる黒髪。ぴっしり切りそろえられた前髪の麗しさは、浮世絵の世界観そのまま。
「九条 黒狐です。得意科目は国語と日本史、特に古文に関しては大半の質問に答えられます。古典のテスト前にわからないことがあれば、ぜひ私に聞いてください。よろしくお願いいたします」
お辞儀にあわせて、一メートル超ある髪の毛が、ゆらりとなびいた。それだけで、「おぉ」という感嘆の声がどこからか聞こえてきた。
「申し訳ないが、一番奥の隅の席で頼む」
「わかりました」
クラスの注目を一身に浴びたまま、黒狐さまは隣の席に座った。肩にかかった黒髪を払うと、わざとらしく会釈してきた。
「本当の得意科目は何ですか?」
教師含め、クラス全員を化かした妖狐は、何も答えなかった。
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