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第3話 物恥
図書室にて
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とりあえず黒狐さまに挨拶だけでもすることにした。が、黒狐さまは毎回そっけなく「おはよう」と返すだけ。こちらの顔を見もしない。「おはよう、今日は暑いね」と言っても「そうね」で会話終了。「今日も暑いですね。黒狐さま、体調は大丈夫ですか?」と、疑問形で帰しても「大丈夫」だけ。会話を盛り上げるどころか、まともに会話する気が感じられない。黒狐さまを囲う人だかりに入ろうとしても、本人が逃げてしまう。そんなやりとりを繰り返しているうちに、とうとう黒狐さまの取り巻きからも、哀れまれるようになってしまった。
どうにかならないのだろうか。
休み時間、図書室で本を読んでいると、背後から声をかけられた。
「よう、ツキ。調べといたぜ」
髪の毛を真ん中でバッツり分けた青眼鏡の好青年。原田だった。動物が好きで仕方なく、中学の頃は、三年連続で生き物係を担当していたらしい。さわやかな陸上部員、見た目通りの優しい性格で、男女問わず人気。抜群のコミュニケーション能力で、話しているだけで、話し上手になった気分になる。
原田は、ホチキス止めをした資料を差し出してきた。
ツキは受け取ると、財布から図書カードを差し出した。
「お前、本当真面目だよな。狐憑きってあだ名がついたからって、狐の生体調べるとか」
「ああ、助かったよ。さすが、万年生物係!」
「図書カード欲しかったからな」
原田は照れくさそうに頭を掻いた。
「ところでお前、九条から嫌われてたりする?」
「そっけなくされるのは、皆同じじゃないのか?」
「お前だけだよ」
「まじかぁ……なんか、嫌われるようなことしたっけ」
「俺が見ている限りはないよ。まあ、そう落ち込むな。根気よく声をかければ、ふとした時に寄って来るさ。猫みたいにな」
と、軽く肩を叩いてきた。住良木さんとは違って、痛くない。
「で、ツキは何を読んでるんだ?」
「平安時代大全」
カバーを開いて表紙を見せた。十二単の女性が描かれている。
「お前、歴史好きだったっけ?」
「いや、苦手だよ」
「気が早すぎるぞ。まだ卑弥呼すら出てきてないのに」
「平安好きの友達がいて、話を合わせるために渋々勉強してんだよ」
「狐に平安、陰陽師のファンかな?」
「そんなところ」
まあ、黒狐さまは陰陽師のファンどころか、陰陽師成敗される側だろうが。
「で、何か面白い事は書いてあったか?」
「恋愛全般だな。当時、貴族の女性は殆ど家から出ず、兄弟にすら顔を見せなかった」
「フェロモンもないのにどうやって好みの女を見つけてたんだ。洞窟に住む魚じゃあるまいし」
目のない魚がいるのかよ、という突っ込みは置いておき、話をつづけた。
「男は噂だけで女性に恋して、文通と情報戦で恋愛してた。女貴族は手紙を無視したり、返信したとしても辛辣な言葉ばっかり返すんだそうだ。天皇と内通してる超大物政治家ですら、辛辣な返事を六回以上耐え抜き、ようやく結婚にこぎつけたりしてる」
「手紙で愛を試すわけか」
うーむ、と考えてから原田は言った。
「もし、現代に平安女貴族が生きていたとしたら、さぞかし受け身でつんつんしてるんだろうな」
「そうか……そういうことか! ありがとう」
もしかしたら、黒狐さまは1100年前くらいの常識をまだ引きずっているのかもしれない。そうでないにしろ、本人に直接聞いてしまった方が早そうだ。以前のように無自覚に彼女を傷つけているかもしれない。自体が悪化しないうちに、手を打つ必要がある。
ツキは立ち上がると、いそいそと教室へ向かった。
「あいつ、平安貴族とでも付き合ってんのかな?」
どうにかならないのだろうか。
休み時間、図書室で本を読んでいると、背後から声をかけられた。
「よう、ツキ。調べといたぜ」
髪の毛を真ん中でバッツり分けた青眼鏡の好青年。原田だった。動物が好きで仕方なく、中学の頃は、三年連続で生き物係を担当していたらしい。さわやかな陸上部員、見た目通りの優しい性格で、男女問わず人気。抜群のコミュニケーション能力で、話しているだけで、話し上手になった気分になる。
原田は、ホチキス止めをした資料を差し出してきた。
ツキは受け取ると、財布から図書カードを差し出した。
「お前、本当真面目だよな。狐憑きってあだ名がついたからって、狐の生体調べるとか」
「ああ、助かったよ。さすが、万年生物係!」
「図書カード欲しかったからな」
原田は照れくさそうに頭を掻いた。
「ところでお前、九条から嫌われてたりする?」
「そっけなくされるのは、皆同じじゃないのか?」
「お前だけだよ」
「まじかぁ……なんか、嫌われるようなことしたっけ」
「俺が見ている限りはないよ。まあ、そう落ち込むな。根気よく声をかければ、ふとした時に寄って来るさ。猫みたいにな」
と、軽く肩を叩いてきた。住良木さんとは違って、痛くない。
「で、ツキは何を読んでるんだ?」
「平安時代大全」
カバーを開いて表紙を見せた。十二単の女性が描かれている。
「お前、歴史好きだったっけ?」
「いや、苦手だよ」
「気が早すぎるぞ。まだ卑弥呼すら出てきてないのに」
「平安好きの友達がいて、話を合わせるために渋々勉強してんだよ」
「狐に平安、陰陽師のファンかな?」
「そんなところ」
まあ、黒狐さまは陰陽師のファンどころか、陰陽師成敗される側だろうが。
「で、何か面白い事は書いてあったか?」
「恋愛全般だな。当時、貴族の女性は殆ど家から出ず、兄弟にすら顔を見せなかった」
「フェロモンもないのにどうやって好みの女を見つけてたんだ。洞窟に住む魚じゃあるまいし」
目のない魚がいるのかよ、という突っ込みは置いておき、話をつづけた。
「男は噂だけで女性に恋して、文通と情報戦で恋愛してた。女貴族は手紙を無視したり、返信したとしても辛辣な言葉ばっかり返すんだそうだ。天皇と内通してる超大物政治家ですら、辛辣な返事を六回以上耐え抜き、ようやく結婚にこぎつけたりしてる」
「手紙で愛を試すわけか」
うーむ、と考えてから原田は言った。
「もし、現代に平安女貴族が生きていたとしたら、さぞかし受け身でつんつんしてるんだろうな」
「そうか……そういうことか! ありがとう」
もしかしたら、黒狐さまは1100年前くらいの常識をまだ引きずっているのかもしれない。そうでないにしろ、本人に直接聞いてしまった方が早そうだ。以前のように無自覚に彼女を傷つけているかもしれない。自体が悪化しないうちに、手を打つ必要がある。
ツキは立ち上がると、いそいそと教室へ向かった。
「あいつ、平安貴族とでも付き合ってんのかな?」
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