黒狐さまと創作狂の高校生

フゥル

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第5話 妖狐

妖狐

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 低座のソファにどっと座った。目の前には『唯春の夜の夢のごとし』の掛け軸。柱を挟んで右側、違い棚にはお香がたかれていた。さわやかな香りがする。黒狐さまの家は、相変わらずクールだ。
 黒狐さまもソファの上で大きくのけぞっていた。量胸の満月よりも、畳へ向かって垂直に滴り落ちる黒髪に目が行くのは、自分の業だろう。
「疲れたのじゃぁ~。転生したい」
「さらっと人生止めようとしないでください」
 一息ついてから、呟いた。
「朝のアレ、どうにかして化かせなかったんですか?」
 黒狐さまの表情が一瞬、固くなった。
 ツキが瞬きした時には、元のだらけた表情に戻っていた。
「なぜ狐がわざわざ夜や、人気のない所におびき寄せてから人を嵌めるか考えたことある?」
「ありませんね」
「なぜ、一度に化かす人数が少ないのか。なぜ、正体バレた後の玉藻の前が、防戦一方だったのか?」
「化かすには条件がある?」
「まぁ、そういうことじゃ。人を化かす時、化かす人数が多いほど、内容が複雑になるほど、人気が多いほど、対象の精神力が強いほど、周到な準備が必要になる。感覚的なものじゃから、正確な人数や距離・範囲については答えられんがのぉ。実際、生娘に化けるのもやはり、男を油断させるのに最適だからじゃ。狐と女は同じ『陰の気』で化けやすいというのもあるが、少し練習すれば男にも老人にも子供にも普通に化けれる」
 そうか、だから化かさなかったのか。ツキは納得すると同時に、平然と騙しの要求をしてしまったことに気付いた。
「すいません。妖狐の力を強要してしまって」
「いいんじゃ。先入観というものは簡単には消せん」
 そう言った黒狐さまは、少し寂しそうだった。
「それに、人間と共存するためとはいえ、隠し事をしたうえで、人を利用しているしているのは事実じゃしな」
「人間は人間で、都合の悪いことを妖狐に押し付けたりしています。中には僕みたいに、妖狐の力を悪用しようとするやつもいる。どっこいどっこいです」
「そんなに悲しい顔をするな。わらわがお主を責めているみたいで、みじめな気分になる」
「気を付けます」
 黒狐さまは優しく頷きながら、座卓のグラスを取った。
「まぁ、人を利用してると言っても、わらわは『ここぞというとき』にしか人を化かさぬし、化かすにしてもお互いに利のある使い方をしておる」
 一瞬、神社での出来事がフラッシュバックした。
「僕と出会ったときも、『ここぞというとき』だったって事ですか?」
「当然じゃろう」
 黒狐さまはこう言うと、扇で口元を隠した。
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