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第八話 今更の世界観説明 その3「テストとお母さん」
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こうして小一時間ぐらいが経ち、ようやく準備できたベバニーはデーツの方へと向いた。
「じゃあ説明させていただきますね。と言っても本当に自分が知ってる範囲だけですけど」
「構わない。それを試すのがテストってもんだ」
「いつの間にテストに!? えとじゃあ、始めますよ。
我々が住むテータブル大陸は三つの連合が治めていて、東のレイド連合、西のグレン連合、南のイエール連合」
ベバニーは壁に大きく描いた逆三角形の大陸を三つに分割し、そこに連合の名前を書いていく。
「連合の誕生以前の歴史は知りませんが、とにかくこの三つの中に様々な王国があって、そしてそれぞれがその連合政府に仕えているって事でいいんですよね?」
「中には連合の領地内に含まれているだけで、連合政府に従わない国もあるが、まあ概ね合ってる」
ほっと胸を撫で下ろすベバニー。
「だが、レイドの綴りが違う」
「おっと、ごめん母さん。 おっと失礼しました先生、じゃなくってお客さん」
「うっかりお母さんて呼んじゃう。あるあるだな」
ベバニーは気恥ずかしそうに説明に戻る。
「で、今から15年前ぐらいに戦争が起こるんですよね?
ただその理由がよくわからなくて。確か連合同士が互いの領土を統一しようとしたとか、でも連合内の王国同士も戦争してたとか」
「ここら辺は確かにややこしいよな。まあざっくり言えば、一番初めは連合同士の戦争だった。
レイド、グレン、イエールそれぞれが領土拡大に乗り出したのがこの統一戦争だった。
しかし、戦況が長引くに連れて連合内の王国同士が争い始めた」
「なんでまたそんなことに」
「理由は二つ。一つは属する連合とは別の連合に寝返った国により、反乱が起きたから。
もう一つは、そういった裏切り者の疑惑をかけて、他の王国の領土を奪おうとして内戦が起きたから。実は後者の方が多い」
「そんな滅茶苦茶な」
「当時は、いや今も大概だが、連合は自分の領土をコントロールできない程に落ちぶれてしまったんだ」
デーツは遠い目をしながら、壁に描かれた地図を眺める。
「それで、実在するんですか? 魔王って」
「はあ?」
「いや、聞いたことないですか? 魔王が現れたせいで戦争が終わったって」
「眉唾ものだそれは」
「でも、魔王が人々をさらったせいで各国が機能しなくなったなんて話を、あちこちで聞いたんですよ」
「まず、戦争は終わったわけじゃない。各自の収拾がつかなくなって、連合はしばし休戦協定を結んだだけのこと。
現に連合が絡まない紛争事態は頻発してるしな。
だからもしいずれかの連合が協定を破れば、また地獄が始まる」
「じゃあ魔王ってなんです? そしてそれを倒した騎士団の話も嘘なんですか?」
質問攻めにうんざりしたのか、デーツはベッドに横になる。
「人は暗い現実にぶち当たると、あり得ない空想に逃げるものだ。
それよりお前の点数をつけてやろう、そうだなオマケして75点てとこだな」
「厳しいですね」
「そうか? 合格点だし、充分生きていけるだけの素養はある。どこ行っても大丈夫だろう」
「どうでしょうそれは。僕にできることはこれしかないし」
その言葉を聞いてデーツはベッドから起き上がる。
「どうしてそう思う?」
「どうしてって、力がないんです僕。小さい頃から病弱で畑の手伝いもできなくて。
だから母が、力がないなら知力を身につければいいって勉強を教えてくれて。
でも、ようやく読み書きができるようになった頃に家族は僕以外死んだ」
そう語った時、ベバニーは涙ぐみそうになったので、思わずデーツから顔を背けた。
「それで路頭に迷って、食うのに困ってたら、お金持った人が僕を買うって。もちろん肉体的な意味で。
最初は嫌だと思いましたよ。でも本当に空腹だったし、それに僕の事を"女の子みたいでかわいい"って言ってくれて。
それまでは力がないことを、周りから女みたいだとからかわれてたのに、その日初めて褒め言葉として言われたんです。
ずっと嫌なこと続きだったのに、急に褒められたからその言葉が本当に、本当に嬉しくて」
背を見せているベバニーの体は震えている。その表情が嬉しさを思い出しているのか、それとも悲しさを思い出してるのかは、デーツには判断出来なかった。
「かなり乱暴な扱いをされましたけど、その時の褒められた感動が忘れられなくて、怪しい場所に入り浸っては自分を売る毎日を送りましたよ。
色々危ない橋を渡ったけど、今は紹介されたこの店でまあそれなりに生活できてます」
「じゃあ、この仕事に満足してるんだな。それならいいけど」
だがベバニーはすぐに答えず、少し押し黙ってから答えた。
「満足。満足かはわかりません。やっぱりやってて気持ちいいわけじゃないし、でもただ我慢すればいい。我慢してればお金が貰えるし褒めてくれる人もいる。
我慢さえ、我慢さえしてればいい」
デーツは答えず、両手を頬に当ててただ彼を見ているだけだ。
そしてその沈黙に耐えられなくなったベバニーが叫ぶ。
「我慢することでしか生きてけない人もいるんだよ。死にそうな思いを沢山してきたんだ、だから我慢してるだけで生きていけるだけでもありがたいんだ。わかってよわかってくれよ母さん!」
部屋に響く彼の叫び。後ろを向いていても頬につたう涙が、デーツの目には見えていた。
「我は別に責めるつもりなどない、そしてお母さんでもない」
そう口にするデーツだが、後ろから彼を優しく抱きしめる姿は母親のようであった。
「じゃあ説明させていただきますね。と言っても本当に自分が知ってる範囲だけですけど」
「構わない。それを試すのがテストってもんだ」
「いつの間にテストに!? えとじゃあ、始めますよ。
我々が住むテータブル大陸は三つの連合が治めていて、東のレイド連合、西のグレン連合、南のイエール連合」
ベバニーは壁に大きく描いた逆三角形の大陸を三つに分割し、そこに連合の名前を書いていく。
「連合の誕生以前の歴史は知りませんが、とにかくこの三つの中に様々な王国があって、そしてそれぞれがその連合政府に仕えているって事でいいんですよね?」
「中には連合の領地内に含まれているだけで、連合政府に従わない国もあるが、まあ概ね合ってる」
ほっと胸を撫で下ろすベバニー。
「だが、レイドの綴りが違う」
「おっと、ごめん母さん。 おっと失礼しました先生、じゃなくってお客さん」
「うっかりお母さんて呼んじゃう。あるあるだな」
ベバニーは気恥ずかしそうに説明に戻る。
「で、今から15年前ぐらいに戦争が起こるんですよね?
ただその理由がよくわからなくて。確か連合同士が互いの領土を統一しようとしたとか、でも連合内の王国同士も戦争してたとか」
「ここら辺は確かにややこしいよな。まあざっくり言えば、一番初めは連合同士の戦争だった。
レイド、グレン、イエールそれぞれが領土拡大に乗り出したのがこの統一戦争だった。
しかし、戦況が長引くに連れて連合内の王国同士が争い始めた」
「なんでまたそんなことに」
「理由は二つ。一つは属する連合とは別の連合に寝返った国により、反乱が起きたから。
もう一つは、そういった裏切り者の疑惑をかけて、他の王国の領土を奪おうとして内戦が起きたから。実は後者の方が多い」
「そんな滅茶苦茶な」
「当時は、いや今も大概だが、連合は自分の領土をコントロールできない程に落ちぶれてしまったんだ」
デーツは遠い目をしながら、壁に描かれた地図を眺める。
「それで、実在するんですか? 魔王って」
「はあ?」
「いや、聞いたことないですか? 魔王が現れたせいで戦争が終わったって」
「眉唾ものだそれは」
「でも、魔王が人々をさらったせいで各国が機能しなくなったなんて話を、あちこちで聞いたんですよ」
「まず、戦争は終わったわけじゃない。各自の収拾がつかなくなって、連合はしばし休戦協定を結んだだけのこと。
現に連合が絡まない紛争事態は頻発してるしな。
だからもしいずれかの連合が協定を破れば、また地獄が始まる」
「じゃあ魔王ってなんです? そしてそれを倒した騎士団の話も嘘なんですか?」
質問攻めにうんざりしたのか、デーツはベッドに横になる。
「人は暗い現実にぶち当たると、あり得ない空想に逃げるものだ。
それよりお前の点数をつけてやろう、そうだなオマケして75点てとこだな」
「厳しいですね」
「そうか? 合格点だし、充分生きていけるだけの素養はある。どこ行っても大丈夫だろう」
「どうでしょうそれは。僕にできることはこれしかないし」
その言葉を聞いてデーツはベッドから起き上がる。
「どうしてそう思う?」
「どうしてって、力がないんです僕。小さい頃から病弱で畑の手伝いもできなくて。
だから母が、力がないなら知力を身につければいいって勉強を教えてくれて。
でも、ようやく読み書きができるようになった頃に家族は僕以外死んだ」
そう語った時、ベバニーは涙ぐみそうになったので、思わずデーツから顔を背けた。
「それで路頭に迷って、食うのに困ってたら、お金持った人が僕を買うって。もちろん肉体的な意味で。
最初は嫌だと思いましたよ。でも本当に空腹だったし、それに僕の事を"女の子みたいでかわいい"って言ってくれて。
それまでは力がないことを、周りから女みたいだとからかわれてたのに、その日初めて褒め言葉として言われたんです。
ずっと嫌なこと続きだったのに、急に褒められたからその言葉が本当に、本当に嬉しくて」
背を見せているベバニーの体は震えている。その表情が嬉しさを思い出しているのか、それとも悲しさを思い出してるのかは、デーツには判断出来なかった。
「かなり乱暴な扱いをされましたけど、その時の褒められた感動が忘れられなくて、怪しい場所に入り浸っては自分を売る毎日を送りましたよ。
色々危ない橋を渡ったけど、今は紹介されたこの店でまあそれなりに生活できてます」
「じゃあ、この仕事に満足してるんだな。それならいいけど」
だがベバニーはすぐに答えず、少し押し黙ってから答えた。
「満足。満足かはわかりません。やっぱりやってて気持ちいいわけじゃないし、でもただ我慢すればいい。我慢してればお金が貰えるし褒めてくれる人もいる。
我慢さえ、我慢さえしてればいい」
デーツは答えず、両手を頬に当ててただ彼を見ているだけだ。
そしてその沈黙に耐えられなくなったベバニーが叫ぶ。
「我慢することでしか生きてけない人もいるんだよ。死にそうな思いを沢山してきたんだ、だから我慢してるだけで生きていけるだけでもありがたいんだ。わかってよわかってくれよ母さん!」
部屋に響く彼の叫び。後ろを向いていても頬につたう涙が、デーツの目には見えていた。
「我は別に責めるつもりなどない、そしてお母さんでもない」
そう口にするデーツだが、後ろから彼を優しく抱きしめる姿は母親のようであった。
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