恋愛 短編集

noraneko

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「もしもさ、私が」

「もしも話は嫌い」

「聞いてくれたっていいじゃん」

「もしも話じゃなければ聞くよ」

「なにそれ」

「はい、終わり。怒るの無意味。もしもの話より、現実の話をしよう」

彼はアイスティーを飲みながら、見終えた映画のパンフを見つめていた。

主人公が病気になり恋人が…という、
ありふれた内容だけれど、胸を打たれるシーンがいくつもあったのだ。

きっと、彼は私が口にしようとした言葉を知っていたのかもしれない。

もしも、私が病気だったら…

そう口にしようとしていたのをわかったのではないだろうか?


「あのさー、やっぱり」

「なに?聞く気になった?」

「ならない。こういう映画は作品を観ている時は今を大事にしようって思うんだよな」

「そうそう。いつどうなるか、わからないんだから。」

「でもさ、それを常日頃からそう思うのってどれだけの人がそう感じながら生きてるかって言われたら、日々の生活に追われて見えなくなってる人の方が圧倒的に多いはず」

「だから、これを機に一つ一つの事を楽しまないと」

「と、思うんだけど、ずっとそうも考えてばかりもいられないのも人間なんだよなって」

私はアイスコーヒーをストローでかき混ぜながら、彼の顔をみた。

「なに今日、理屈系男子?」

「なにそれ?何系でもないし。いや、とにかく忙殺状況でも、そう考えられるようになったらすごい事だなと。」

「そうだね。忙しくても、毎日を後悔なく生きるってすごい事だもんね。
今を大事にしないと。今よ」

「よし!今の言葉で決めた!」

彼は鞄から小さい紙袋を取り出した。

そして、その中から黒いケースを取り出す。

「あのね、今日実はお前が行きたがってたレストラン予約とってるんだけど、、、」

「え、あそこの夜景が綺麗な?」

「そう。そこで渡そうと思ったんだけど、もしかしたら夜にどうなってるかわからないから、今を大事に今言っとく」

「何を?」



彼は黒のケースを開け私の前に差し出した。

ダイヤのリングがそこで輝いていた。

「え?え?」

「俺と結婚してください。」

「はい。って、普通ここでプロポーズする?」

「する。今この時を大事にするために。でも、場を違えたので、また夜言う」

「は?なにそれ?指輪ちょうだいよ」

「いや、まだあげない」

「なに言ってんの?早く」

「俺は今を大事にしすぎてムード台無しだったから、もっかい夜言う。今の忘れて」

私は笑ってしまう。
なんと単純な男なのだろうかと。

「忘れられるわけないでしょ。んじゃ、結婚しないよ。指輪して。
それでもう一回プロポーズして」

私は左手を彼の前に伸ばす。

「さっき、うんって言ってくれたじゃん」

「同じくじゃあ今の忘れて」

彼は指輪を取り出し私の薬指に通してくれた。

「今が大事なんだから。ね?」

「おう。」

「プロポーズなら嬉しいから、何度でも聞くよ」 

「いやだ。何度も言ってるうちに、NOって返事にかわったら困るから」

「なにそれ」

新しい運命も「今」切り開くことが出来るのだ。

でも、いつ何時何が起ころうとも、彼を想う気持ちは変わらないだろう。
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