恋愛 短編集

noraneko

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強がり

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「もう別れよう。お互いのためだよ」

都合のいい言葉だ。
お互いのためではない。
何故なら、彼には新しい女性がいるということを私は知っている。

「お互いのためじゃないでしょ」

私はつい口をついて出た言葉に後悔した。
これ以上のことを話せば深く傷つく答えがみえている。

彼なりの最後の優しさなのかもしれない。

「お互いのためだよ。」

「そっか」

先週の休みに会う約束だったけれど、彼からメールで急用が入ったと聞かされた。

一人で買い物に出た私は偶然にも彼と知らない女性が一緒に歩いているのを見てしまったのだ。

信じたくなかった。
仲睦まじく歩く姿はどう見ても恋をしている二人にしか見えなかった。
少し年上の女性に見えた。

頭では目の前の事実がわかっていたけど、見て見ぬふりをしようとしていた。

だって、好きだから。

今こうしている時も彼が好きだ。


長く濃いまつ毛に大きな瞳に
子供のような無邪気な笑顔。

低い声だけど優しい話し方。

何でも美味しそうに食べる姿。

仕事には真面目なところ。
そして、優しかった。

涙もろいくせにそれを隠そうとしている姿は私がかわいいと思うぐらいだ。


大学の同じサークルで知り合い、意気投合してそのまま自然と付き合いはじめた。

それから3年。

大学時代とは私達は就職したけれど、忙しい日々にのみ込まれるようになり、会えない事が増えていった。

仕事に慣れることに必死でお互いを思いやることに欠けていたかもしれない。

それでも彼が頑張っているからこそ私も頑張れた。

ようやく仕事に慣れ落ち着いたと思ったら…
もう彼の気持ちは離れていたのだろう。


「紗奈には感謝しているよ。今までありがとう

「こちらこそ…」

私は作り笑顔をしてみたけれど、無理で言葉に詰まった。

大きな声で泣き叫びたかった。
行かないでとしがみつきたかった。

でも、きっともうそんな事をしても
お互いのためじゃない。

「本当にごめん。俺もういくね」

何故?そんな切なそうな顔をするの?
口に出せなかった。

彼は立ち上がり、私の家から帰ろうと玄関に向かった。

「待って。」

私は思わず口にしてしまった。

後悔したけど、それ以上何も言わない私を見て彼も何も言わずに出て行った。
出て行く彼の背中を見ることはできずに玄関ドアが開いて、そして閉まり音を聞いて、涙が溢れ出した。


声をあげて泣いた。
こんな情けない泣き方を彼には見せられなかった。


それから、3日寝込んだ。

家に閉じこもったまま食事も出来ず、寝ることも出来ず、起き上がる事さえも気力がわかず、トイレに行くこと以外は何もせずベッドの上で過ごした。

吐き気がしてトイレに駆け込む。
何も食べてないのだ、吐くものがない。

ベッドに戻ると携帯が鳴った。

メールが届き、私は目を疑った。

彼からだ。

「ごめん。呼び止められたけど、最後に振り返る事が出来なかった。

実は3年間、仕事でフランスに行くことになった。
明後日、日本を発つ。

この間の休みもその事で先輩と引き継ぎの話に行ってたんだ。

沙奈は希望していた仕事に就いているし、なかなか言い出せなかったんだ。

3年も日本に帰って来れるかも分からないし、俺も動揺していて一方的に別れを告げたのは申し訳ないと思ってる。

今までありがとう」

私はまた泣いた。
もう涙は尽き果てたと思っていたのに。

あの隣の女性は……?
本当はただの勘違い……?


明後日……私は急に眠気に襲われた。

ほっとしていた。

きっと私は勘違いしていただけなのだ。

明後日、私は彼を見送りに行こう。

そして、彼を抱きしめてあげよう。

そして……フランスにも遊びに行こう。

私は目を閉じ深い眠りに落ちる。

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