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【15】これからもよろしく
しおりを挟む我妻くんとふたりの時間は人の声が遠ざかるまで続いて、その間わたしの心臓はずっとドキドキとうるさかった。
「⋯⋯もう平気か。行くぞ」
辺りを警戒しながらわたしの手を引く我妻くんは出口とは反対方向の廊下を歩いていく。
途中、今日ステージで見た出演者の人とすれ違って挨拶を交わしていた。
「あ、我妻くん。ここってわたしが入ってもいい場所?」
どう見てもバックステージだよね?
「比高もMEBIUSの一員だろ」
一員って言ってくれるのは嬉しいけど、歌詞を書いただけのわたしがバックステージまで入ってきてもいいのかな。
絶対に場違いだよ⋯⋯!
スタッフの人に怒られないかビクビクするわたしと違って我妻くんは堂々としている。
白いドアの前で足を止めると、ノックもせずに中へと入っていった。
わたしも手を引かれたまま一緒に足を踏み入れる。
「我妻くん?」
戸惑う私の手をパッと離した我妻くん。
「おっ、比高じゃん!」
「いらっしゃい比高さん」
「へ⋯⋯?」
ここはMEBIUSの楽屋なのか、杉浦くんと二階堂先輩が笑顔でわたしを迎え入れてくれた。
それならそうと先に言ってくれたらよかったのに。
変に緊張しちゃったよ。
だけど、見慣れた三人の前でも緊張はおさまらなかった。
MEBIUSの三人とは何度も会ったことがあるのに、今日は目が合うだけで心臓が跳ねる。
ステージに立つ姿が本当にかっこよかったから。
「今日は来てくれてありがとう比高さん」
「こ、こちらこそ。素敵なステージをありがとうございました!」
「比高が書いてくれたラブソング高評価だぞ」
杉浦くんはスマホを見ながら満面の笑みを浮かべる。
「ほ、本当⋯⋯?」
「本当、本当! もっと聴きたいって声がアカウントにも届いてる」
「よ、よかった~!」
体の力が一気に抜けてふらついたわたしを我妻くんが支えてくれた。
「ごめん我妻くん」
「立ちっぱなしで疲れただろ。座れよ」
「ありがとう」
「で、どうだった? MEBIUSのライブは」
我妻くんのまっすぐな瞳にわたしが映る。
杉浦くんと二階堂先輩も手を止めた。
「⋯⋯すっ、すごかった。感動した」
「やったな! 奏人、千里」
「二階堂先輩の心地の良いベースの音、杉浦くんの力強いドラム、それから我妻くんの刺さるような⋯⋯それでいて包み込むような歌声。全部が耳だけじゃなくて心にも響いたよ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「MEBIUSの歌はみんなにたくさんの勇気や力を与えてるんだね。わたしもいつかそんな小説を書けるようになりたいって思った。みんなと過ごせた時間はわたしにとって本当に宝物だよ」
どれだけ時間がかかるかわからない。
でも、わたしもMEBIUSのみんなみたいに誰かの心に届くような小説を書きたい。
そう強く思った。
「何、今日で終わりみたいな話してんだよ」
わたしを見ながらため息をつく我妻くん。
「えっ? 最後の挨拶のためにここに連れてきてくれたんじゃないの?」
「ちげーよ。新も言ってただろ。まだまだMEBIUSのラブソングを聴きたい人がいるって」
「言ってたけど⋯⋯それは別にわたしじゃなくても」
次の曲は他の人に頼むこともできる。
「まだそんなこと言ってるのかよ」
「そうだよ! 俺ら円陣組んだ仲じゃん。これからも一緒にやっていこうぜ」
「比高さんの一番は小説だって知ってるから、無理のない範囲でお願いしたいな」
「こいつらもこう言ってるし。でも、比高が書きたくないって言うなら⋯⋯」
「か、書きたい!」
楽屋内にわたしの声が響く。
最初は小説と歌詞。ふたつを書くなんて無理だと思っていた。
だけど、挑戦したら楽しくて。
もっともっと、書きたい欲が出てきたんだ。
自分の書きたいものがまだこんなにもあったなんて知らなかった。
好きがあふれて止まらなくなるなんて気持ちも知らなかった。
MEBIUSのみんなに出会わなかったら、わたしは自分の好きを、情熱を、見失ったままだったかもしれない。
「そう言うと思った。まぁ、断られても諦める気なかったけど」
「え⁉ そうなの」
「俺はもう咲茉しか考えられないから」
不意打ちで呼ばれた名前に胸がドクンと高鳴った。
我妻くんのまっすぐな瞳がわたしを捉えて離さない。
このままだと心臓が破裂しちゃいそうで、わたしは前髪を直すふりをして視線を逸らした。
一瞬、楽屋内に流れた沈黙を破ったのは杉浦くん。
「奏人だけずりぃぞ! 俺も咲茉って呼ぼー」
「じゃあ、俺も咲茉ちゃんって呼ばせてもらおうかな」
「えっと⋯⋯」
杉浦くんと二階堂先輩からもまっすぐな瞳を向けられて、どこも向けなくなっちゃったわたし。
「咲茉も俺たちのこと名前で呼べよ。仲間だろ?」
あたふたするわたしを見ながら我妻くんはいたずらっ子のように笑った。
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