「好き」があふれて止まらない!

梶ゆいな

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【16】必ず大きなステージに連れていく《我妻side》

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MEBIUSは今日、初めてライブでラブソングを披露した。

俺たちが書けなかった歌詞を書いてくれたのは、同じクラスの比高咲茉。


休み時間はいつも本を読んでいて、誰かと一緒にいるところは見たことがない。

ある日、俺はそんな彼女の秘密を知り、ラブソングの歌詞を頼んだ。

それから一緒にいる時間が増えて俺たちはクラスメイトから仲間になった。

「俺と新は楽器店に寄ってから帰るよ。またね、咲茉ちゃん。奏人」

「またな、咲茉」

「また明日⋯⋯せっ、千里先輩。あ、あら新」

隣で名前呼びに苦戦する咲茉を見て吹き出しそうになった。

可愛くて。

十分前、俺が咲茉を名前で呼んだことから全員が名前で呼び合う流れになった。

一か月一緒にいて遅いくらいだと思う。

俺たち三人と違って咲茉はまだ名前で呼び合うことに慣れないらしい。

「我妻くんは一緒に楽器店に寄らなくてもいいの?」

「我妻くん?」

少し屈んで咲茉の顔を覗き込む。

「かっ、⋯⋯かな⋯⋯と」

咲茉の真っ白な肌はみるみるうちに赤くなっていった。

「よくできました」

「何それっ。⋯⋯で、いいの? 楽器店は」

「俺はまっすぐ家に帰って休みたい」

それも嘘じゃないけれど、本当の理由はまだ咲茉と一緒にいたかったからだ。

好きな本の話をするときはいつもより饒舌になるところ。

小説を書くことに一生懸命で、一度やると決めたら全力で向き合うところ。

すごい才能を持っていて、努力もできる人間なのに自分に自信のないところ。

あの日、咲茉が階段から降ってこなかったら⋯⋯。

ただのクラスメイトのままだったら全部、知らないままだった。


教室では見たことのない咲茉のクルクルと変わる表情を見ていると、その可愛い顔を自分だけに見せてほしい。


いつしかそんな独占欲が芽生えるようになっていた。

こんな気持ちになるのは咲茉がMEBIUSの救世主だからか、それとも⋯⋯。



「あ、お疲れさまでした!」

「今日はありがとうございました」

受付の人に挨拶をしてライブハウスの外に出ようとしたとき、千里からLIMEが届いた。

《表にはファンの子がいた。裏から出て》


了解と返して、来た道を引き返す。

「もう出口だよ?」

「そっちから出ると出待ちがいるから裏から出るぞ」

「出待ちってことはファンの子? MEBIUSって本当に人気だね」

「ファンはファンでもファンクラブの会員じゃない。ファンクラブには出待ち禁止のルールがあって、持永にバレたら退会だからな」

「海音ちゃんってすごいんだね。さすが会長」

咲茉と持永はいつの間にか仲良くなったらしい。

最近はふたりで一緒にいるところをよく目にする。

「よし、人はいないな」

念の為、裏口もチェックしてから外に出た。

「⋯⋯人気があるのも大変だね」

「俺らなんてまだまだだ。この世にはもっとでかいステージに立ってる人が大勢いるからな」

「わたしにはステージの大小はよくわからないけど、MEBIUSも絶対に大きなステージに立つよ! だって、MEBIUSの歌は聴いた人に勇気や元気を与えてくれるから」

咲茉の笑顔が太陽に照らされてキラキラと眩しい。


『バンドで食べていく? そんなことを言えるのは子供のうちだけだ』

『MEBIUSは中学生だからチヤホヤされてるだけ。勘違いしすぎ』

『MEBIUSを好きな理由? 顔かなー。音楽はよくわからない』

今まで似たような言葉を散々浴びてきて、そのたびに絶対に見返してやるって気持ちになった。

自分を信じてくれる人のために頑張ろうなんて思えたのは今、この瞬間が初めてだ。

「絶対に立つ。今よりももっと大きなステージに。俺たちには頼りになる作詞家もいるしな」

俺たちの歌が勇気や元気を与えるって言うなら咲茉の言葉も同じだ。

「プ、プレッシャーがすごい⋯⋯」

「必ず咲茉を大きなステージに連れて行くから、そのときは一番後ろじゃなくて最前で見ろよ」

特等席を用意するから。

「一番後ろって⋯⋯わたしのこと見えてたの⁉」

「見えてたっつーか、むしろ咲茉しか見てなかった」

「⋯⋯奏人って時々、心臓に悪い」

隣を歩いていた咲茉がぼそっとつぶやく。

雑音にかき消された言葉を聞き返したけれど、咲茉は頑なに教えてくれなかった。






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