「好き」があふれて止まらない!

梶ゆいな

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【18】ピアノ経験者の桜路くん

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やっぱり一番はピアノ経験者を探すことだよね。

男子でピアノ経験のある人って誰かいたかな。

一年の頃から人と関わりのなかったわたしに心当たりなんて⋯⋯。

「あっ!」

脳裏に浮かんだのは女の子たちに囲まれるひとりの男の子の姿。

「どうかした咲茉ちゃん?」

「同じ学年にピアノ経験者がいました! 桜路おうじくんです」

「女子って王子様とか好きだよな」

「違うよ新。桜に路地の路で桜路くん! 知らない?」

「⋯⋯知ってるような。知らないような?」

これは知らないな。

「わたし去年、桜路くんと同じクラスだったんだけど、女の子たちが桜路くんのピアノを聴きたいって話しかけてた気がする」

一年の頃の記憶を必死に思い出す。

「トロフィーを見に家に行きたいって言ってた子もいるからコンクールとかにも出てたと思うんだ」

「やけに詳しいな」

ようやくピアノ経験者を見つけたのに、なぜか奏人は不機嫌そう。

「その頃、ピアノを弾く男の子が出てくる小説を書いてたから時々、桜路くんを観察してたんだ。だけど、実際に弾いてるところは見たことがないんだけど⋯⋯」

「本人に話を聞くのが一番だろ! 奏人、千里、明日、勧誘しに行こうぜ。⋯⋯で、その桜路って何組?」

「五組だよ」

「⋯⋯クラスまで知ってるんだな」

「桜路くんも奏人たちと一緒で目立つから」

五組の教室前は桜路くん目当ての女の子たちで混雑していることが多々ある。

だけど、わたしたち一組にはそれ以上に人が集まるから奏人や新は気にならないのかな?

「ふーん」

「何? さっきから変だよ奏人」

「⋯⋯別に。咲茉にも興味ある男がいたんだと思って」

「興味って小説のモデルにしてただけだよ?」

同じクラスでも桜路くんと話したのは一言二言だけ。それもクラス内の業務連絡。

「奏人は咲茉ちゃんが他の男の子を気にかけていたのが面白くないんだよ」

「そんなんじゃねーよ」

面白くないってどういう意味だろう?

そっぽを向いた奏人の耳は赤くなっていて、ますます意味がわからなかった。


翌日、桜路くんを勧誘しに行ったMEBIUSはきっぱりと断られて返ってきた。

「咲茉の言うとおりピアノ経験者ではあったけど、ピアノはもう二度と弾かないって理由で断られた」

昨日、ピアノ経験者が見つかり目を輝かせていた新はすっかり落胆している。

「ピアノはもう二度と弾かないって何かあったのかな?」

「さぁ? ただ何度も無理だって言われた。どっかの誰かさんより頑なだったからこれ以上勧誘しても気持ちは変わらないだろうな」

どっかの誰かさんって、もしかしてわたしのこと?

確かに何度も無理だって言って断ったけど⋯⋯。

「桜路も女子に誘われたらOKしてくれるかも! 頼む咲茉、桜路に声をかけてみてくれよ」

新はわたしの両手を握るとうるうるとした瞳で訴えかけてきた。

「おいおい、新。お前と桜路を一緒にするなよ」

「そうだよ、新。それに咲茉ちゃんに勧誘まで押し付けるのは違うだろ」

「でも、せっかくピアノ経験者が見つかったんだ。このまま諦めきれねぇよ」

そうだよね⋯⋯。

新たちはずっと新メンバーを探していたんだから一度断られたくらいじゃ諦めきれないよね。

「⋯⋯わたし桜路くんに声をかけてみるよ。わたしも最初は奏人の誘いを断ったし、桜路くんの気持ちがわかるかもしれないから」

わたしがみんなの役に立てるかどうかはわからないけど、動かないと何も始まらないよね。

仲間だって言ってくれたみんなのためにわたしもできる限りのことをしたい!

「本当にいいの咲茉ちゃん?」

「はい! 任せてください」

と、自信満々に言ったものの⋯⋯。 


「あんたMEBIUSのマネージャーでしょ。バンドの話ならもう断ったから」

桜路くんの鋭い眼差しに比高咲茉、十四歳。早速、心が折れそうです⋯⋯!



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