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【33】夢に向かって
しおりを挟む体育館を飛び出したわたしたちは人気のない場所を探しているうちにいつもの音楽室へとたどり着いた。
「いいのかな抜けてきて」
「ライブは終わったし大丈夫だろ。あとは千里がなんとかするって」
あっけらかんとした表情で近くの机に腰掛けた奏人。
「それよりも、俺の歌は届いた?」
わたしの体を引き寄せた奏人は正面から肩に手を回して、わたしが逃げないようにホールドしてくる。
体育館にいたときからずっと鳴りやまない心臓の音がまた一段と激しくなった。
「あんな曲を書くなんて反則だよ。もうわたしが歌詞を書く必要なくなっちゃった」
だって、奏人はラブソングを克服したから。
「あれは咲茉に向けた曲で、俺は今後もラブソングを書く予定はねぇよ。この先、どんな曲を書いたって咲茉への告白にしかならないから」
「⋯⋯っ!」
奏人って平然とした表情で甘い言葉を口にするからずるい。
「咲茉、俺と付き合ってくれる?」
小説のような恋がわたしにも待っているなんて思わなかった。
現実の恋はもっと甘くて、もっと苦いこともあるだろう。
けれど、奏人とならきっと大丈夫。
「はい。お願いします」
わたしがぎゅっと抱きつくと、机に手をついた奏人。
「すげー勢い」
「好きって気持ちがあふれて止まらなかったの!」
「なんだそれ。可愛すぎるだろ」
奏人はそう言うとわたしのおでこに優しい優しいキスを落とした。
***
文化祭から一週間。
わたしと奏人が付き合い始めた噂は全生徒へと知れ渡っていた。
その理由のひとつはわたしたちがステージ上で気持ちを伝え合ったから。
そして、もうひとつは海音ちゃんがファンクラブのルールに『推しの幸せはファンの幸せ(※交際は温かく見守ること)』という項目を追加したからだ。
そのおかげもあって、わたしは今までどおり平和な学校生活を送れている。
引き続きMEBIUSのラブソングを担当することになったわたしは今日も音楽室にいた。
「実はみんなに報告があって」
わたしが話し出すと楽器の準備をしていた四人がそろって手を止める。
「あっ、えっと準備したままで大丈夫」
わたしがそう言ってもみんな手を止めたままだ。
みんなが大切な練習時間を削らなくてすむように簡潔に話そう。
「実は昨日、夏合宿で書いた小説のコンテスト結果が出て⋯⋯」
「受賞したのか⁉」
弾けるような笑顔でわたしを見る新。
「それが選外だったんだよね」
「⋯⋯悪い」
「新はいつも気が早いんだよ」
千里先輩の言葉に新は肩をすぼめる。
新のためにも早く次の報告をしなくちゃ。
「それとは別に前に選外だった作品を一部書き直して違うコンテストに応募してたんだ。その作品が佳賞を受賞したの」
受賞という言葉に新の笑顔が戻る。
「すげぇじゃん咲茉!」
「ありがとう。賞金も出ないし、書籍にはならない賞なんだけど初めて受賞したからみんなには報告したくて」
佳賞の横に自分のペンネームを見つけたときは手が震えた。
「おめでとう咲茉ちゃん」
「佳賞だってすごいだろ」
「ありがとうございます、千里先輩。律もありがとう」
「咲茉ならいつか賞を取ると思ってた」
奏人はそう言ってわたしの肩にそっと手を置く。
「わたしが受賞できたのは、奏人のおかげだよ」
「俺?」
「前に言ってくれたでしょ? 賞がとれなかったからってわたしの小説がだめな作品になるわけじゃない。場所やタイミングによって評価が変わることだってあるって」
その言葉がなかったらわたしは自分の書いた小説をだめだと思ったままだった。
「確かに言ったけど、受賞したのは咲茉が努力したからだろ」
「そうそう。咲茉、合宿中もずっと小説書いてたじゃん! 俺ももっとドラムを練習して上手くならないと。負けてらんねー!」
「俺もバンドの活動と両立しながら、もう一度ピアノのコンクールにも挑戦してみようかな」
「そうだね。みんなで気合を入れ直そうか」
千里先輩が出した手を自然と握る奏人と律。
そして、律の手を新が握ると、今度はわたしに差し出される手。
わたしはあの日と同じように奏人と新の手を握った。
「MEBIUSも咲茉もまだまだこんなもんじゃねぇ。夢に向かって走り続けるぞ!」
奏人の低い声が音楽室に響く。
「「「「「おー!」」」」」
わたしはみんなと一緒に力いっぱい右足を踏み出した。
『Emaの人気小説が映画化決定!
主題歌を担当するのは最年少でドーム公演を行ったMEBIUSです』
テレビからそんなニュースが流れてくるのは十年後のお話──。
fin.
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四条 京さま
最後までお読みいただきありがとうございます!
我妻と咲茉へのお言葉もとても嬉しく思います。
また、文化祭へのご来場、佳作を受賞した咲茉へのお言葉もありがとうございました。
(現地ライブのお声とても嬉しいです‼)
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何度もお力をくださり本当にありがとうございました。
展開や設定がすごく好みでお気に入り登録させていただきました。どんな結末を迎えるのか本当に楽しみです。更新がんばってください!
お読みくださりありがとうございます。
お気に入り登録にご感想もとても励みになります!
最後まで更新頑張ります。
本当にありがとうございました( ꈍᴗꈍ)