春のツンデレロマンス

雪の日の出会い

冬の訪れが近づき、街には冷たい空気が漂い始めていた。めぐみと陽介の間には、まだ微妙な距離が続いていたが、互いの心の奥底には未だ、解決されない想いが渦巻いていた。

ある日、予想外の出来事が二人を再び近づけるきっかけを生む。わずかに粉雪が舞う朝、登校途中のめぐみは、ふとした思いつきでいつもと違うルートを選んだ。白く染まった景色が、彼女の心を少しだけ穏やかにしてくれるような気がしたからだ。

その時、ふと遠くから聞こえてくる子供の声に気が付く。小学校の校庭で、無邪気に雪遊びをする子供たちの姿を目にした彼女は、しばらく立ち止まり、彼らが作る小さな雪だるまを眺めていた。記憶の中の温かい情景が、ふと心を癒してくれるようだった。

その瞬間、背後から聞き慣れた声が彼女の耳に届いた。

「めぐみちゃん？」

驚いて振り向くと、そこにはジャケットをはためかせた陽介が立っていた。彼もまた、いつもとは違う道を選んで歩いていたのだ。

「あ…おはよう、田中くん。」

少し驚いた様子で、めぐみは言葉を返す。

「こんなところで会うなんて奇遇だね。」

陽介は微笑もうとするが、その表情にはどこか緊張が混じっていた。

ふたりの間に一瞬の沈黙が落ちる。だが、周囲を舞う雪の静謐さが、どこか心を穏やかにもさせていた。

「雪、きれいね。」

めぐみが少し気を取り直して話を始める。

「さっき、子供たちが雪だるまを作っているのを見て、なんだか懐かしくなっちゃった。」

「うん、僕も同じようなことを考えていたよ。」

陽介も優しく応じる。

雪の降る中で立ち尽くす二人は、その透明感のある時間の中で、互いの心にあった誤解と不安の重みを少しずつ取り除いていく。

「先週は、ごめんね。まりあさんと一緒にいるのを見て、少し寂しくなっちゃって…。」

めぐみは勇気を出して、胸に秘めていた想いを打ち明けた。

「気づいてあげられなくて、悪かったよ。僕にはめぐみちゃんとの時間が本当に大切だから。」

陽介もまた、彼女に誠実に想いを伝える。

その言葉に、めぐみの胸にあったわだかまりがじんわりと溶けていくのを感じた。陽介の言葉は真っ直ぐで、その優しさに、彼女は心から安堵した。

「ありがとう、陽介くん。私も、もう少し素直にならないとって分かったの。」

彼女は微笑みながら言い、自分を見つめ直す勇気を手に入れたことを実感する。

学校に向かって再び歩き出す二人。その道中で、めぐみはかつてのように無邪気に笑うことができた。この清廉な雪の朝こそが、彼らの関係を再び温かく包み込んでくれることを予感させてくれた。

授業が始まると、彼らの間に流れる空気はすでに変わっていた。クラスメイトたちにも、以前と同じように明るく振る舞うめぐみを見て安堵の笑みがこぼれた。その日の放課後、二人はそろって帰り道を歩き始める。

「今日は、お茶でもしながらまた話さない？」

陽介の誘いに、めぐみは嬉しそうに頷いた。

そして彼らは、雪の降り積もる街を彩るように、また新たな一歩を踏み出していく。素直になった心と心が、これからの彼らに新しい風景を見せてくれるのだろう。雪の日の出会いは、二人の心に温かな灯りをともした日の記憶となっていった。