すみません、その悪役公爵令嬢……私の嫁です

御剣刃金

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セレスティア王立学園編

12.アレな聖女と事件の始まり

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※終盤に血の表現が多くあります。


 入学式やクラスでの自己紹介等を済ませ、サイフォン家の自室へと戻った私は、前世の癖なのかもしれないが制服のまま一先ずベッドとダイブする。

「ふぅ~今日は疲れました」

 掛けたままの眼鏡を両手で持ち上げ、ハルの突拍子もない話を思い返す。

――――
――

「どうか私をイジメて下さい!」

「「は?」」

 と、当然の反応をする私とテルル。
 何故か学生生活を始める前から犬猿の仲の二人と言えど、一方的に彼女をイジメるのは道理どころか道徳に反します。

「……まぁ貴女がそこまで言うのならイジメなくも「テルル!?ダメだよ?」

 早々に結論を出そうとする令嬢に当然ツッコミつつ。ここは先ず理由を聞かなければ進みません。

「ハルさん。理由を聞いた所でイジメる事は出来ないでしょうが、一応話だけでもお聞かせ願いますか?」

 私の問いにモジモジしだすハルさん。

「わ、私……お、王子の気を引きたいの」

「よし、イジメよう」

「だーっ!待って待って。なんでそーなるの!で、ハルさん。貴女が王子に懸想しているのは理解しましたが、何故イジメに繋がるのですか?」

「懸想って」

 テルルがツッコんでますが取り敢えずスルーしつつ。

「あのね、この国はあと2年で隣国ダイロス王国との戦争になる。それでね、このままだと私の癒しの力が戦場で必要になって戦場に駆り出されてしまうの」

「まぁ確かに戦争となれば重要人物が戦場に出た場合はそう言う事もあるかもしれませんね」

「でしょ!だからイジメて!」

 うん、この子はアレだ。ちょっとアレな子だ。

「……えーっと、戦争に行くのとイジメる事になんの繋がりがあるんでしょうか」

 横を見るとテルルがハルの真新しいカバンに手書きで『私は馬鹿なのでどうか皆さんイジメて下さい♡』と書かれた紙を張付けている。
 鞄の方へさりげなく近づき紙を剥がす。

「だーからー。あなた達にイジメてもらって、それに気付いた王子が私をイジメから救うの!そして私は王子様といつしか恋に堕ち、婚約するの!ほら!そしたら時期王妃になる私は戦場に行かなくて済むでしょ?だからね、イ・ジ・メ・テ」

 私はハルの鞄に先程の紙を貼りなおす。

「あーハルさん。君が考えた作戦には大きな穴が3つあります」

「……なによ」

「まず一つ、貴女がイジメられたからと言って王子がそれを助けると言い切れる貴女の脳がどうかしています。二つ目に、作戦が上手く行き王子と婚約したとしましょう。戦争が起こるかどうかは知りませんが、起こったとして婚約者といえど戦争には駆り出されます。なぜなら王家の成り立ちは戦で民を率いたからこその王家であり、その王家に属する人物に特殊な能力があるなら必ず戦争へは駆り出されます。そして最後に――貴女をイジメるのは私達でなくてもいいのではないですか?」

 私の指摘にどんどん小さくなるハルさん。3つ目を指摘する頃には顕微鏡で探さないとわからないくらい存在が薄くなってました。
 そんな存在希薄な彼女に幼馴染が立ち上がり。

「その作戦、乗ったわ」

 再びテルルへツッコもうと彼女を見た時今までと雰囲気が異なり、真剣な表情で彼女を見下ろしていた。
 そして当のハルさんは希薄だった存在がみるみる光に包まれていった、気がする――


――――
――

――そして時間は現在の自室へと戻る。

 私は再び眼鏡を掛けなおす。
 テルルに何故彼女をイジメる事に賛成なのか、理由を聞いて驚いた。
 だが一番驚いたのはイジメ作戦を言い出したハルさん本人だった様子でしたが……。

「まぁ私にはわからない話です。彼女達がそれでいいなら最後まで付き合います、よっと」

 いいながらベッドから起き上がる。

「爺!剣の稽古お願いしままーす!」

 夕食まで時間がありそうだったので剣の鍛錬をする為に爺を呼び出した。

「……」

 返事が無い、既に屍の様だ。

「爺ー!中庭に居ますかー?」

 爺を探しに私は歩みを中庭に向けたその時、爺の呻き声が聞こえた気がして歩みを全力疾走へと切り替える。

 中庭に到着した私が見た物は胸から血を流す爺の姿。

「ローエン!!」

 普段呼ばない爺の名を叫び彼に駆け寄る。
 胸からの血が止まらない。
 まともな止血方法など解らず、私はただ胸の傷口を両手で抑え助けを呼ぶ。

「誰か!医者を!誰か!早く!!医者を!」

 私の叫びに爺が目を少し開ける。

「ローエン!!直ぐに医者が来る!」

 意識が朦朧としているのか、虚ろな目で左手を上げる。その手を取ると。

「ボン。お、お逃げ――グホッ、お逃げ下さい」

 口に溜まった血を掻き出す。
 折角掻き出した口内の血液だったが、喋れる様になった爺は再び。

「は、や”ぐ……おに」――その瞬間上からの気配に爺を抱えたまま私はその場から飛びのく。

――ザシュッ!

 見れば先程私達が居た場所へ、黒いフードの男が短剣を地面に突き刺していた。
 賊?何故こんな所に!?
 どこの賊なのかは不明だが、今はそんな事はどうでもいい。
 やるべきことは一つ。だが武器がない。
 ならば――

 私は右手を黒フードの男に掲げる。

――『ファイヤーバースト!!』

 私の右手から放たれる燃え盛る炎。
 それは現代の火炎放射器にも似た炎の筋が黒フードへと襲い掛かる。

 だが、黒フードは寸前で炎を躱し中庭の噴水の上段へと身を翻す。

『アイスアロー!!』

 先程の炎とは違い、今度は氷の矢が賊を襲う。
 その矢は族の片腕を飛ばし、族の血が飛び散る。

――「ぐっ、話が違うだろ」

 黒いフードの男はそう零すと、そこから屋根へと飛び上がりそのまま姿を消した。

「アレク様!」

 他の家令達が到着したのを確認し。

「ローエンが賊に刺された!刺した賊は逃げたが早く医者を!別の者は早急に父へ報告を!」

 逃げた賊を追いかけろとは他の家令に言う訳にもいかず唇をかむ。
  
「……お、お見事です。ボン」

「爺」

「まさかそんな力をお隠しだったとは」

「爺、いいから喋るな」

「ははっ、今度からは剣と魔法を合わせた戦い方の修行をしないといけませんな……」

呼吸はどんどん細くなり、それでも爺は喋り続ける。

「ほれ、私の同僚の魔術師メイガスがいい先生になるはずです……また公爵令嬢様に怒られますな……おしあ……に」

「ローーーエーーーーーーーーン!!!!」

 私は力の限り眠る家令の名を叫んだのだった。



――その日、永くサイフォン家に仕えたくれた一人の元A級冒険者がこの世を去った。


――――
――で、次の日。我がサイフォン家のリビングで聖女と公爵令嬢がバトルを繰り広げていた。


「使ったアーティファクトってこんな爺さんに使う予定じゃないのよ!?本来もっと重要な場面で使うはずなのに!」

 その聖女の言葉を聞き恐縮して小さくなるローエンこと爺。

「まぁいいではないか。あんな慌てたアレクを見れた事に私は満足してるわ」

 その言葉に私はハルに申し訳なく苦笑いを向けるが、そっぽを向かれ爺へと視線を合わせるも、昨夜のやり取りが気恥ずかしくお互い顔を天井へと向けた。



――そう、何故こうなったかと言えば、襲撃事件の翌朝、入学二日目の朝の事だ。
 



  
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