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第五節 「告白と戸惑い」
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週末、美術部の作品展に向けて、部室はいつもより賑やかだった。キャンバスや画材が並び、部員たちが思い思いの「本当の姿」を描いている。僕もスケッチブックに向かい、何度も下描きを繰り返していた。自分の「本当の姿」とは何か。それを表現するのは、やはり難しい。
紬は大きなキャンバスに、鮮やかな色彩で自分自身を描いていた。彼女の絵には、迷いのない線と、強い意志が感じられる。そんな紬の背中を見ていると、僕も勇気をもらえる気がした。
「柊、調子はどう?」と紬が声をかけてくる。
「うん、まだ悩んでる。でも、少しずつ形になってきたよ」
「楽しみにしてるね。……私、柊の描く絵が一番好きだから」
その言葉に、思わず顔が熱くなる。紬は、僕の一番の理解者だ。だけど、僕の中にはまだ、説明しきれない不安や戸惑いが渦巻いている。
放課後、部室に残って作業を続けていると、紬がそっと隣に座った。
「柊、今、少し話せる?」
「うん、どうしたの?」
紬はしばらく黙っていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「私ね、やっぱり柊のことが好き。友達としてじゃなくて、恋人として好きなんだ」
紬の声は震えていた。僕は驚きと戸惑いで、すぐに返事ができなかった。
「柊が男の子でも、女の子の服を着てても、そんなの関係ない。私は柊が柊だから好きなんだよ」
紬の真剣なまなざしに、僕の心は大きく揺れた。僕も紬が好きだ。でも、それが「恋」なのか、まだはっきりとは分からない。僕は自分が男であること、女の子の服を着ていること、周囲の目、いろんなことが頭をよぎってしまう。
「ごめん、紬。僕、すぐには答えられない。でも、紬のことは本当に大切だよ」
紬は少しだけ寂しそうに微笑んだ。「うん、分かった。でも、待ってる。柊が自分の気持ちに気づくまで、ずっと待ってるから」
その言葉に、僕は救われる思いがした。紬はいつも、僕の全部を受け止めてくれる。だからこそ、僕も自分の気持ちに正直でいたいと思った。
その夜、家に帰ってからも、紬の告白が頭から離れなかった。自分の気持ちを見つめ直そうと、鏡の前に立つ。スカートをはき、リボンタイを結んだ自分が映っている。これが「本当の僕」だ。だけど、その隣に紬がいる未来を、僕はどう思うのだろう。
ベッドに横になり、天井を見つめながら考える。「好き」という気持ちは、きっと人それぞれ違う形をしている。僕の「好き」は、どんな形なんだろう。紬と手をつなぎたい、笑い合いたい、ずっと一緒にいたい――それは、恋なのだろうか。
翌朝、目覚めた時、心の中にひとつだけ確かな思いがあった。
「僕は、紬と一緒にいたい」
それが恋かどうかは、まだ分からない。でも、その気持ちを大切にしたいと思った。
学校に着くと、紬がいつものように笑顔で迎えてくれた。僕は少しだけ勇気を出して、紬の手をそっと握る。紬は驚いたように僕を見たが、すぐに微笑んで、ぎゅっと握り返してくれた。
「ありがとう、柊」
「僕も、少しずつ自分の気持ちを知っていきたい。……紬と一緒に」
二人の影が、朝の光の中で寄り添うように伸びていた。戸惑いながらも、僕たちは少しずつ、恋の輪郭を描き始めていた。
紬は大きなキャンバスに、鮮やかな色彩で自分自身を描いていた。彼女の絵には、迷いのない線と、強い意志が感じられる。そんな紬の背中を見ていると、僕も勇気をもらえる気がした。
「柊、調子はどう?」と紬が声をかけてくる。
「うん、まだ悩んでる。でも、少しずつ形になってきたよ」
「楽しみにしてるね。……私、柊の描く絵が一番好きだから」
その言葉に、思わず顔が熱くなる。紬は、僕の一番の理解者だ。だけど、僕の中にはまだ、説明しきれない不安や戸惑いが渦巻いている。
放課後、部室に残って作業を続けていると、紬がそっと隣に座った。
「柊、今、少し話せる?」
「うん、どうしたの?」
紬はしばらく黙っていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「私ね、やっぱり柊のことが好き。友達としてじゃなくて、恋人として好きなんだ」
紬の声は震えていた。僕は驚きと戸惑いで、すぐに返事ができなかった。
「柊が男の子でも、女の子の服を着てても、そんなの関係ない。私は柊が柊だから好きなんだよ」
紬の真剣なまなざしに、僕の心は大きく揺れた。僕も紬が好きだ。でも、それが「恋」なのか、まだはっきりとは分からない。僕は自分が男であること、女の子の服を着ていること、周囲の目、いろんなことが頭をよぎってしまう。
「ごめん、紬。僕、すぐには答えられない。でも、紬のことは本当に大切だよ」
紬は少しだけ寂しそうに微笑んだ。「うん、分かった。でも、待ってる。柊が自分の気持ちに気づくまで、ずっと待ってるから」
その言葉に、僕は救われる思いがした。紬はいつも、僕の全部を受け止めてくれる。だからこそ、僕も自分の気持ちに正直でいたいと思った。
その夜、家に帰ってからも、紬の告白が頭から離れなかった。自分の気持ちを見つめ直そうと、鏡の前に立つ。スカートをはき、リボンタイを結んだ自分が映っている。これが「本当の僕」だ。だけど、その隣に紬がいる未来を、僕はどう思うのだろう。
ベッドに横になり、天井を見つめながら考える。「好き」という気持ちは、きっと人それぞれ違う形をしている。僕の「好き」は、どんな形なんだろう。紬と手をつなぎたい、笑い合いたい、ずっと一緒にいたい――それは、恋なのだろうか。
翌朝、目覚めた時、心の中にひとつだけ確かな思いがあった。
「僕は、紬と一緒にいたい」
それが恋かどうかは、まだ分からない。でも、その気持ちを大切にしたいと思った。
学校に着くと、紬がいつものように笑顔で迎えてくれた。僕は少しだけ勇気を出して、紬の手をそっと握る。紬は驚いたように僕を見たが、すぐに微笑んで、ぎゅっと握り返してくれた。
「ありがとう、柊」
「僕も、少しずつ自分の気持ちを知っていきたい。……紬と一緒に」
二人の影が、朝の光の中で寄り添うように伸びていた。戸惑いながらも、僕たちは少しずつ、恋の輪郭を描き始めていた。
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