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第六節 「本当の自分を描く」
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美術部の作品展がいよいよ近づいてきた。放課後の美術室は、部員たちの熱気と緊張感で満ちている。僕も、スケッチブックと向き合う時間が増えた。テーマは「本当の姿」。自分の心の奥底と向き合う作業は、思っていたよりもずっと苦しくて、でもどこか心地よかった。
僕のキャンバスには、制服姿の自分が描かれている。スカートをはき、リボンタイを結んだ自分。けれど、その表情はどこか不安げで、周囲の視線に怯えているようにも見えた。何度も描き直しては、また消して、少しずつ本当の自分に近づけていく。
そんなある日、紬が僕の絵をそっと覗き込んできた。「柊、すごく素敵だよ。ちゃんと自分と向き合ってるんだね」
「でも、まだ迷ってる。僕は男の子で、でも女の子の服を着てる。これが本当の自分なのか、時々分からなくなるんだ」
「柊が『これが自分だ』って思えるなら、それが本当の姿なんだよ」と、紬は優しく微笑んだ。
紬の言葉に背中を押され、僕はもう一度自分の心に問いかける。僕はどうありたいのか。何を大切にしたいのか。
その夜、家で鏡の前に立ち、制服姿の自分をじっと見つめた。男の子の体に、女の子の服。でも、そこにいるのは紛れもなく僕だった。
「これが、僕なんだ」
そう思えた瞬間、心の中のもやが少しだけ晴れた気がした。
作品展前日、部室では最後の仕上げに追われていた。紬は自分の絵に大胆な赤いラインを加えている。「紬、その線、すごくいいね」と声をかけると、「柊と一緒にいると、もっと自分を表現したくなるんだ」と照れくさそうに笑った。
「明日、楽しみだね」と僕が言うと、紬は「うん。……柊の絵、誰よりも楽しみにしてる」と答えた。
僕は少しだけドキドキしながら、「紬の絵も、すごく好きだよ」と返した。
二人の間に、静かな時間が流れる。お互いの存在が、少しずつ大きくなっているのを感じていた。
家に帰ってからも、僕は自分の絵と向き合い続けた。細部を整え、色を重ねる。最後に、鏡の中の自分が微笑んでいるように、キャンバスの中の自分にもそっと微笑みを描き加えた。
「これが、僕の本当の姿」
完成した絵を見つめながら、僕は静かに深呼吸した。明日は、きっと新しい一歩を踏み出せる。そう思えた。
翌朝、作品展当日。制服に着替え、スカートのプリーツを丁寧に整える。リボンタイを結び、鏡の前で小さく微笑む。
「いってきます」と家族に告げると、母は「頑張ってね」と優しく背中を押してくれた。
学校に着くと、すでに美術室にはたくさんの人が集まっていた。部員たちの絵がずらりと並び、来場者が感想を口にしている。僕の絵の前にも、何人かの生徒が足を止めていた。
「これ、柊が描いたんだよね? すごい……」
「なんか、見てると勇気がもらえる気がする」
そんな声が聞こえてきて、僕の胸はじんわりと温かくなった。
紬がそっと隣に立ち、「柊、すごいよ。自分をちゃんと表現できたんだね」と微笑んだ。
「ありがとう、紬。……紬がそばにいてくれたから、描けたんだと思う」
二人で並んで、自分たちの絵を見つめる。今まで感じていた不安や迷いが、少しずつ自信に変わっていくのを感じていた。
僕のキャンバスには、制服姿の自分が描かれている。スカートをはき、リボンタイを結んだ自分。けれど、その表情はどこか不安げで、周囲の視線に怯えているようにも見えた。何度も描き直しては、また消して、少しずつ本当の自分に近づけていく。
そんなある日、紬が僕の絵をそっと覗き込んできた。「柊、すごく素敵だよ。ちゃんと自分と向き合ってるんだね」
「でも、まだ迷ってる。僕は男の子で、でも女の子の服を着てる。これが本当の自分なのか、時々分からなくなるんだ」
「柊が『これが自分だ』って思えるなら、それが本当の姿なんだよ」と、紬は優しく微笑んだ。
紬の言葉に背中を押され、僕はもう一度自分の心に問いかける。僕はどうありたいのか。何を大切にしたいのか。
その夜、家で鏡の前に立ち、制服姿の自分をじっと見つめた。男の子の体に、女の子の服。でも、そこにいるのは紛れもなく僕だった。
「これが、僕なんだ」
そう思えた瞬間、心の中のもやが少しだけ晴れた気がした。
作品展前日、部室では最後の仕上げに追われていた。紬は自分の絵に大胆な赤いラインを加えている。「紬、その線、すごくいいね」と声をかけると、「柊と一緒にいると、もっと自分を表現したくなるんだ」と照れくさそうに笑った。
「明日、楽しみだね」と僕が言うと、紬は「うん。……柊の絵、誰よりも楽しみにしてる」と答えた。
僕は少しだけドキドキしながら、「紬の絵も、すごく好きだよ」と返した。
二人の間に、静かな時間が流れる。お互いの存在が、少しずつ大きくなっているのを感じていた。
家に帰ってからも、僕は自分の絵と向き合い続けた。細部を整え、色を重ねる。最後に、鏡の中の自分が微笑んでいるように、キャンバスの中の自分にもそっと微笑みを描き加えた。
「これが、僕の本当の姿」
完成した絵を見つめながら、僕は静かに深呼吸した。明日は、きっと新しい一歩を踏み出せる。そう思えた。
翌朝、作品展当日。制服に着替え、スカートのプリーツを丁寧に整える。リボンタイを結び、鏡の前で小さく微笑む。
「いってきます」と家族に告げると、母は「頑張ってね」と優しく背中を押してくれた。
学校に着くと、すでに美術室にはたくさんの人が集まっていた。部員たちの絵がずらりと並び、来場者が感想を口にしている。僕の絵の前にも、何人かの生徒が足を止めていた。
「これ、柊が描いたんだよね? すごい……」
「なんか、見てると勇気がもらえる気がする」
そんな声が聞こえてきて、僕の胸はじんわりと温かくなった。
紬がそっと隣に立ち、「柊、すごいよ。自分をちゃんと表現できたんだね」と微笑んだ。
「ありがとう、紬。……紬がそばにいてくれたから、描けたんだと思う」
二人で並んで、自分たちの絵を見つめる。今まで感じていた不安や迷いが、少しずつ自信に変わっていくのを感じていた。
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