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第七節 「ふたりだけの夜」
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作品展が終わった夕方、僕と紬は校門の前で待ち合わせた。展示が無事に終わった安堵感と、たくさんの人に自分の絵を見てもらえた喜びが、心の中でふわふわと混ざり合っている。紬もどこか嬉しそうで、二人で歩く帰り道は、いつもより少しだけ特別に感じた。
「柊、お疲れさま。今日の絵、本当に素敵だったよ」と紬が言う。
「ありがとう。紬の絵もすごかった。あの赤いライン、すごく印象的だった」と僕も素直に伝える。
「うん、あれはね……柊と一緒にいる自分を描きたかったんだ」と紬が照れくさそうに笑う。
夕暮れの道を歩きながら、僕たちは作品展の感想や、見に来てくれた友達の話をした。紬は僕の手をそっと握り、指先を絡めてくる。その温もりが、じんわりと僕の心に広がった。
「ねえ、柊。今日、うちに来ない?」と紬が突然切り出す。
「えっ、いいの?」
「うん。両親、今日は遅くなるから、ゆっくりできるよ」
僕は少しだけ緊張しながらも、頷いた。紬の家に遊びに行くのは何度目かだけれど、今日はなぜか胸が高鳴る。紬と二人きりで過ごす時間が、今までよりもずっと大切なものに思えた。
紬の部屋は、明るい色のカーテンと可愛い雑貨で飾られていて、彼女の個性が溢れている。僕はベッドの端に腰掛け、紬は隣に座った。
「お茶、淹れるね」と紬が立ち上がり、キッチンへ向かう。僕は部屋の中を見回しながら、ふと机の上に置かれたスケッチブックに目を留めた。ページをめくると、そこには僕と紬が並んで笑っているイラストが描かれていた。
「それ、見つけちゃった?」と紬が戻ってきて、少し恥ずかしそうに笑う。
「うん……これ、僕?」
「そう。柊と一緒にいるときの自分が、一番好きなんだ」
二人でお茶を飲みながら、自然と会話が弾む。作品展のこと、これから描きたい絵のこと、将来の夢――。
「私ね、将来は美術の先生になりたいんだ」と紬が語る。
「きっとなれるよ。紬なら絶対に」と僕は応援するように言った。
ふと、会話が途切れる。静かな時間が流れ、僕は紬の横顔を見つめた。
「柊……」と紬が小さな声で僕の名前を呼ぶ。
「なに?」
「……もう一回、手をつないでもいい?」
「うん」
紬はそっと僕の手を握り、今度はぎゅっと強く抱きしめてくれた。彼女の体温と、柔らかな香りが僕を包み込む。
「私、ずっと柊のことが好きだった。どんな柊でも、全部好き」
「僕も……紬といると、自分を好きになれるんだ」
紬はゆっくりと顔を近づけ、僕の頬に優しくキスをした。初めての感覚に、僕の心臓は大きく跳ねる。
「……これからも、ずっと一緒にいてくれる?」
「うん。僕も、紬とずっと一緒にいたい」
ふたりだけの夜。静かな部屋の中で、僕たちはお互いの存在を確かめ合った。まだ不安や迷いはあるけれど、今だけは、紬の温もりと優しさに身を委ねていた。
「柊、お疲れさま。今日の絵、本当に素敵だったよ」と紬が言う。
「ありがとう。紬の絵もすごかった。あの赤いライン、すごく印象的だった」と僕も素直に伝える。
「うん、あれはね……柊と一緒にいる自分を描きたかったんだ」と紬が照れくさそうに笑う。
夕暮れの道を歩きながら、僕たちは作品展の感想や、見に来てくれた友達の話をした。紬は僕の手をそっと握り、指先を絡めてくる。その温もりが、じんわりと僕の心に広がった。
「ねえ、柊。今日、うちに来ない?」と紬が突然切り出す。
「えっ、いいの?」
「うん。両親、今日は遅くなるから、ゆっくりできるよ」
僕は少しだけ緊張しながらも、頷いた。紬の家に遊びに行くのは何度目かだけれど、今日はなぜか胸が高鳴る。紬と二人きりで過ごす時間が、今までよりもずっと大切なものに思えた。
紬の部屋は、明るい色のカーテンと可愛い雑貨で飾られていて、彼女の個性が溢れている。僕はベッドの端に腰掛け、紬は隣に座った。
「お茶、淹れるね」と紬が立ち上がり、キッチンへ向かう。僕は部屋の中を見回しながら、ふと机の上に置かれたスケッチブックに目を留めた。ページをめくると、そこには僕と紬が並んで笑っているイラストが描かれていた。
「それ、見つけちゃった?」と紬が戻ってきて、少し恥ずかしそうに笑う。
「うん……これ、僕?」
「そう。柊と一緒にいるときの自分が、一番好きなんだ」
二人でお茶を飲みながら、自然と会話が弾む。作品展のこと、これから描きたい絵のこと、将来の夢――。
「私ね、将来は美術の先生になりたいんだ」と紬が語る。
「きっとなれるよ。紬なら絶対に」と僕は応援するように言った。
ふと、会話が途切れる。静かな時間が流れ、僕は紬の横顔を見つめた。
「柊……」と紬が小さな声で僕の名前を呼ぶ。
「なに?」
「……もう一回、手をつないでもいい?」
「うん」
紬はそっと僕の手を握り、今度はぎゅっと強く抱きしめてくれた。彼女の体温と、柔らかな香りが僕を包み込む。
「私、ずっと柊のことが好きだった。どんな柊でも、全部好き」
「僕も……紬といると、自分を好きになれるんだ」
紬はゆっくりと顔を近づけ、僕の頬に優しくキスをした。初めての感覚に、僕の心臓は大きく跳ねる。
「……これからも、ずっと一緒にいてくれる?」
「うん。僕も、紬とずっと一緒にいたい」
ふたりだけの夜。静かな部屋の中で、僕たちはお互いの存在を確かめ合った。まだ不安や迷いはあるけれど、今だけは、紬の温もりと優しさに身を委ねていた。
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