君と描く未来

Novelhajimemashita

文字の大きさ
7 / 10

第七節 「ふたりだけの夜」

しおりを挟む
作品展が終わった夕方、僕と紬は校門の前で待ち合わせた。展示が無事に終わった安堵感と、たくさんの人に自分の絵を見てもらえた喜びが、心の中でふわふわと混ざり合っている。紬もどこか嬉しそうで、二人で歩く帰り道は、いつもより少しだけ特別に感じた。

「柊、お疲れさま。今日の絵、本当に素敵だったよ」と紬が言う。
「ありがとう。紬の絵もすごかった。あの赤いライン、すごく印象的だった」と僕も素直に伝える。
「うん、あれはね……柊と一緒にいる自分を描きたかったんだ」と紬が照れくさそうに笑う。

夕暮れの道を歩きながら、僕たちは作品展の感想や、見に来てくれた友達の話をした。紬は僕の手をそっと握り、指先を絡めてくる。その温もりが、じんわりと僕の心に広がった。

「ねえ、柊。今日、うちに来ない?」と紬が突然切り出す。
「えっ、いいの?」
「うん。両親、今日は遅くなるから、ゆっくりできるよ」

僕は少しだけ緊張しながらも、頷いた。紬の家に遊びに行くのは何度目かだけれど、今日はなぜか胸が高鳴る。紬と二人きりで過ごす時間が、今までよりもずっと大切なものに思えた。

紬の部屋は、明るい色のカーテンと可愛い雑貨で飾られていて、彼女の個性が溢れている。僕はベッドの端に腰掛け、紬は隣に座った。
「お茶、淹れるね」と紬が立ち上がり、キッチンへ向かう。僕は部屋の中を見回しながら、ふと机の上に置かれたスケッチブックに目を留めた。ページをめくると、そこには僕と紬が並んで笑っているイラストが描かれていた。

「それ、見つけちゃった?」と紬が戻ってきて、少し恥ずかしそうに笑う。
「うん……これ、僕?」
「そう。柊と一緒にいるときの自分が、一番好きなんだ」

二人でお茶を飲みながら、自然と会話が弾む。作品展のこと、これから描きたい絵のこと、将来の夢――。
「私ね、将来は美術の先生になりたいんだ」と紬が語る。
「きっとなれるよ。紬なら絶対に」と僕は応援するように言った。

ふと、会話が途切れる。静かな時間が流れ、僕は紬の横顔を見つめた。
「柊……」と紬が小さな声で僕の名前を呼ぶ。
「なに?」
「……もう一回、手をつないでもいい?」
「うん」

紬はそっと僕の手を握り、今度はぎゅっと強く抱きしめてくれた。彼女の体温と、柔らかな香りが僕を包み込む。
「私、ずっと柊のことが好きだった。どんな柊でも、全部好き」
「僕も……紬といると、自分を好きになれるんだ」

紬はゆっくりと顔を近づけ、僕の頬に優しくキスをした。初めての感覚に、僕の心臓は大きく跳ねる。
「……これからも、ずっと一緒にいてくれる?」
「うん。僕も、紬とずっと一緒にいたい」

ふたりだけの夜。静かな部屋の中で、僕たちはお互いの存在を確かめ合った。まだ不安や迷いはあるけれど、今だけは、紬の温もりと優しさに身を委ねていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

パパと娘の入れ替わり

廣瀬純七
ファンタジー
父親の健一と中学生の娘の結衣の体が入れ替わる話

王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル

ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。 しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。 甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。 2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...