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第1部-ファフニール王国・自由編-
012_悪意
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夕食時、そろって食事をとっていたリリアは、飲んでいたスープに違和感を覚えてスプーンを置いた。そのままゆっくりと舌の上で味わって咀嚼する。
滅多にないその行動に、アンがすぐさま気づいてそばによるが、リリアは首を横に振った。
「どうかなさいましたか?」
「ううん。オズウェル、スープを味見させてもらっていい?」
「構いませんが、どうかしましたか?」
「ううん。確かめるだけ」
リリアは机を回り込み、スプーンをオズウェルから受け取ると、全体をまんべんなくかき回し、ひとすくい。そっと口元に運び、先ほどと同じように味を確認する。
「……私が狙い?」
眉をひそめてリリアは考え込む。
「リリア嬢?」
「ううん。なんでもない」
「そういう態度には見えませんが。……アン、リリア嬢の皿をこちらへ」
「はい」
異変を察知したオズウェルが飲もうとした手を、リリアはそっと抑えた。
「飲んではだめ」
「なぜですか?」
黙ってしまったリリアに、オズウェルは再びスープに手を伸ばす。誤魔化すのを無理だと悟ったリリア。
「……毒が、入っているから」
「なぜ早く言わないのです。アン、医者を」
「少ししか飲んでないから大丈夫」
「そういう問題ではないでしょう。とにかく部屋へ」
すぐに自室に連れ戻されたリリアは、ベッドに寝かしつけられていた。
今日はもう動かないように、との医者の言葉にリリアは落ち込んだ様子を見せる。思っていた以上に叱られたのがきいたらしい。
「次からはご自分で毒味をしようとはしないように」
「うん……ごめん」
「アンに食事は用意させますから、リリア嬢もくれぐれも危険な真似はしないように」
「気をつける」
「今回はたまたま即効性のない毒だったのです。それもすぐに気づいたおかげで摂取したのも少量。くれぐれも大丈夫だと思わないでください」
大事はなかったものの肝が冷えました、と言い重いため息をついたオズウェルは、クロウに犯人捜しを命じる。だが、結局、いつ毒物が混入されたのかはわからずじまいで日だけが過ぎたのだった。
それからというもの、衣服に針が仕込まれていたり、ベッドに蛇が入っていたりと、本当に殺す気があるのか怪しい手段ではあるものの、明らかにリリアが狙われていた。
警備を厳しくして見つけられないような手段に出られるよりは、まだリリアだけでも自分で発見できる程度の悪意のほうが危険度は低いと判断したオズウェルによって、リリアの部屋に出入りする人間を絞る程度の警戒しかできず、頭では理解していても心理的な恐怖に襲われて、夜は泣いて過ごすことが増えた。
気晴らしにとレオファルドを訪れたリリアは、異変を察知したレオファルドによって状況を吐き出させられる。話を聞いたレオファルドは、くだらないと吐き捨てた。
「リリアに出ていってほしいんだろ、そいつは」
「私がスウィフト家だから……?」
「さてな。それもあるだろうが、バーロンド家にお近づきになりたいやつもいるし、逆に憎んでいるやつもいるだろ。誰が犯人にせよ、リリアが住んでいるのが都合が悪いんだ」
その言葉に、やはり自分の居場所はどこにもないのかと視線を落としたリリアは、精一杯の笑顔を作って感情を誤魔化す。
「……これ以上、迷惑はかけられないよね」
「言っておくが、出ていくなんぞ言ったら、誘拐してやるからな。手元に置いておきたいのを、オズウェルだから譲ってやってるだけだ」
「え、でも……」
「でもじゃない。監禁されたくなきゃ、大人しくオズウェルに面倒見てもらえ。どうしてもというなら護衛をつけてやるが」
脅しともとれるその言葉は、リリアを思ってのもの。少々過激なのも、守りたいがため。
リリアは慌てて首を振った。
「い、いらない! ……大丈夫だから。オズウェルもいるし、クロウやアンもいるから」
「ならお前は堂々としていろ。そんな顔色じゃ、あいつらの思うつぼだぞ」
「……」
「いいか、負けたくなければ戦え。どんな手段であれ、数をこなせば犯人の目星はつく。それまで証拠集めだと思って今まで通り過ごせ。笑っていろ。それだけで相手は焦る」
見上げたレオファルドの表情は怒っていた。けれどその静かな激情に、リリアは逆に少し安らぎを感じる。味方がいるという事実だけでこんなにも心穏やかになるのかと。
「ありがとう、レオ。頑張ってみるね」
「おう。それから、バーロンド家の侍女は皆、武術の心得があるらしいぞ。アンとかいう侍女からは離れないことだ」
「うん」
訪れたときより少し晴れ晴れとした顔つきでリリアは屋敷へと戻った。その日の晩、本の間にナイフの刃が仕込まれているのを見つけたリリア。泣く、というアンの予想を裏切り、リリアはぐっと耐えた。
「逃げたくない」
滅多にないその行動に、アンがすぐさま気づいてそばによるが、リリアは首を横に振った。
「どうかなさいましたか?」
「ううん。オズウェル、スープを味見させてもらっていい?」
「構いませんが、どうかしましたか?」
「ううん。確かめるだけ」
リリアは机を回り込み、スプーンをオズウェルから受け取ると、全体をまんべんなくかき回し、ひとすくい。そっと口元に運び、先ほどと同じように味を確認する。
「……私が狙い?」
眉をひそめてリリアは考え込む。
「リリア嬢?」
「ううん。なんでもない」
「そういう態度には見えませんが。……アン、リリア嬢の皿をこちらへ」
「はい」
異変を察知したオズウェルが飲もうとした手を、リリアはそっと抑えた。
「飲んではだめ」
「なぜですか?」
黙ってしまったリリアに、オズウェルは再びスープに手を伸ばす。誤魔化すのを無理だと悟ったリリア。
「……毒が、入っているから」
「なぜ早く言わないのです。アン、医者を」
「少ししか飲んでないから大丈夫」
「そういう問題ではないでしょう。とにかく部屋へ」
すぐに自室に連れ戻されたリリアは、ベッドに寝かしつけられていた。
今日はもう動かないように、との医者の言葉にリリアは落ち込んだ様子を見せる。思っていた以上に叱られたのがきいたらしい。
「次からはご自分で毒味をしようとはしないように」
「うん……ごめん」
「アンに食事は用意させますから、リリア嬢もくれぐれも危険な真似はしないように」
「気をつける」
「今回はたまたま即効性のない毒だったのです。それもすぐに気づいたおかげで摂取したのも少量。くれぐれも大丈夫だと思わないでください」
大事はなかったものの肝が冷えました、と言い重いため息をついたオズウェルは、クロウに犯人捜しを命じる。だが、結局、いつ毒物が混入されたのかはわからずじまいで日だけが過ぎたのだった。
それからというもの、衣服に針が仕込まれていたり、ベッドに蛇が入っていたりと、本当に殺す気があるのか怪しい手段ではあるものの、明らかにリリアが狙われていた。
警備を厳しくして見つけられないような手段に出られるよりは、まだリリアだけでも自分で発見できる程度の悪意のほうが危険度は低いと判断したオズウェルによって、リリアの部屋に出入りする人間を絞る程度の警戒しかできず、頭では理解していても心理的な恐怖に襲われて、夜は泣いて過ごすことが増えた。
気晴らしにとレオファルドを訪れたリリアは、異変を察知したレオファルドによって状況を吐き出させられる。話を聞いたレオファルドは、くだらないと吐き捨てた。
「リリアに出ていってほしいんだろ、そいつは」
「私がスウィフト家だから……?」
「さてな。それもあるだろうが、バーロンド家にお近づきになりたいやつもいるし、逆に憎んでいるやつもいるだろ。誰が犯人にせよ、リリアが住んでいるのが都合が悪いんだ」
その言葉に、やはり自分の居場所はどこにもないのかと視線を落としたリリアは、精一杯の笑顔を作って感情を誤魔化す。
「……これ以上、迷惑はかけられないよね」
「言っておくが、出ていくなんぞ言ったら、誘拐してやるからな。手元に置いておきたいのを、オズウェルだから譲ってやってるだけだ」
「え、でも……」
「でもじゃない。監禁されたくなきゃ、大人しくオズウェルに面倒見てもらえ。どうしてもというなら護衛をつけてやるが」
脅しともとれるその言葉は、リリアを思ってのもの。少々過激なのも、守りたいがため。
リリアは慌てて首を振った。
「い、いらない! ……大丈夫だから。オズウェルもいるし、クロウやアンもいるから」
「ならお前は堂々としていろ。そんな顔色じゃ、あいつらの思うつぼだぞ」
「……」
「いいか、負けたくなければ戦え。どんな手段であれ、数をこなせば犯人の目星はつく。それまで証拠集めだと思って今まで通り過ごせ。笑っていろ。それだけで相手は焦る」
見上げたレオファルドの表情は怒っていた。けれどその静かな激情に、リリアは逆に少し安らぎを感じる。味方がいるという事実だけでこんなにも心穏やかになるのかと。
「ありがとう、レオ。頑張ってみるね」
「おう。それから、バーロンド家の侍女は皆、武術の心得があるらしいぞ。アンとかいう侍女からは離れないことだ」
「うん」
訪れたときより少し晴れ晴れとした顔つきでリリアは屋敷へと戻った。その日の晩、本の間にナイフの刃が仕込まれているのを見つけたリリア。泣く、というアンの予想を裏切り、リリアはぐっと耐えた。
「逃げたくない」
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