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第1部-ファフニール王国・自由編-
011_迎え
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ある日、リリアが日課となったオズウェルとの朝食を終えて紅茶を楽しんでいると、一通の封筒が差し出された。
あて名は『オズウェル・バーロンド』様。どうやら綺麗な花を愛でる茶会の招待らしい。
「リリア嬢さえよければ、僕と一緒に参加していただけませんか?」
「茶会? でも私は……」
「遠縁ということにすれば問題ありません。パートナーになっていただけますか?」
リリアは不安そうにオズウェルと招待の手紙を見比べる。
「何も知らないのに、大丈夫かな……」
「僕がそばについていますから。ぜひ」
「うん……わかった」
「ありがとうございます。さあ、休憩が終わったら王宮へ行きましょう。レオファルドが待っています」
久しぶりの訪問ということもあり一気に紅茶を飲み干したところで、アンが来客を告げに部屋へ入ってくる。
「私に? ……誰?」
「スウィフト家のご使者だそうです」
「待たせておけ」
「承知いたしました」
部屋にはリリアとオズウェル、クロウの三人だけ。アンを下がらせたあと、オズウェルはリリアに向き直った。
「リリア嬢、先日会ったというバルト伯爵とはどういったご関係ですか?」
「どうしてそのことを……」
「クロウは僕に隠し事をしません。そろそろ話していただけると助かるのですが……。今の状態ではあなたをお守りできない」
オズウェルの言葉に、これ以上隠しきれないと悟ったリリアは、深く息を吸った。
こうなっては隠し事などしても無駄だろう。
「名をリリア・スウィフトと申します」
「スウィフト……」
「はい」
オズウェルは驚いた表情をしたもののどこかでどことなくわかっていたのだろう。納得した雰囲気。
ファフニール王国とアネクシロア共和国は間違ってもよい関係ではない。そのなかでも有数の名家の生まれ。互いに不干渉を貫いているものの、いつ火花を散らすともしれない間柄だった。
「スウィフト家の娘は一人だと聞いておりましたが」
「私は存在しないはずの娘なのです。父が秘密裏に産ませた望まれない子。ですからずっと疎まれていたのでしょう」
「どうりで教えてくださらぬはずです」
「……お怒りにならないのですか。内情を探っているかもしれないのに」
「あなたにそのようなことはできないでしょう。リリア嬢は僕がバーロンド姓であることは知っていても、それがどういう意味を持つかもご存じでない」
「意味……?」
リリアは首をかしげる。礼儀作法こそ一通り教えられたものの、社交界に出ることのなかったリリアは、家柄の優劣も勢力図も全く知らない。他国のことなどなおさらである。
そのことを予期していたオズウェルは、苦笑した。
「僕の家は、この国の王族に連なる一族なのですよ。それこそ、あなたは敵の手の中に飛び込んできたようなもの」
「そう、なのですね」
「ですから何の心配もなく僕はリリア嬢を手元においておけるのです。万が一何かあったとしても、僕もレオファルドもあなたの味方ですよ。ご安心を」
「ありがとう」
「ところで、使者が来る心当たりは?」
リリアは首を振る。
「わかりませんが、おそらくは連れ戻したいのかと」
「帰りたいのですか?」
「いいえ。私は望みません」
「では用件だけ聞いて追い返しましょう。リリア嬢、こちらへ」
バルコニーから部屋に戻ると、オズウェルが普段仕事をしている際に腰かけている椅子にリリアを座らせると、自らはそのそばに立つ。
「クロウ、通せ」
「承知いたしました」
しばらくして部屋に入ってきたのは、リリアも見覚えのあるスウィフト家でも立場ある執事の一人。
「突然の訪問をお許しください。バーロンド殿下」
礼儀に倣って膝をついた執事を、無表情のまま冷たく見下ろすオズウェル。その態度は見慣れぬもので、リリアが目をそらすと、大丈夫だと言わんばかりに、背に手のひらが当てられる。
「スウィフト家が何の用だ」
「リリア様を殿下が保護くださったと耳にし、お迎えに上がりました。大変なご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした」
「本人は帰りたくないそうだが」
「いえ。主からは必ず連れ帰るようにと命じられておりますので、何卒」
「だそうだが? リリア」
人前だからか、オズウェルの呼び方もいつもと異なる。部屋中の視線を集めて、リリアは顔を伏せた。
かろうじて首を振って意思表示する。
「望んでいないようですので、お引き取りください。彼女は私が丁重にお預かりいたしましょう」
「殿下、リリア様には婚約者がおります。お渡しを」
「リリアは望んでおりません」
「私……帰りません」
「リリア様!」
大声で怒鳴られてリリアは体を強張らせる。あからさまなため息をついたオズウェルは、不機嫌を隠さない。
「お帰り願おう。命が惜しいならな」
「……承知いたしました。バーロンド殿下のお言葉は確かにお伝えいたします。ですが、いずれお迎えにあがります」
これ以上は無理だと悟ったのか、執事は素直に引き下がる。振り返りながら退出していった執事をクロウが見送りに追いかけると、オズウェルは近くにあった椅子に腰かけ、再びリリアに尋ねた。
「バルト伯爵は婚約者だったのですね」
「親の決めた、殺されるための婚約だから……」
「殺されるため?」
「バルト伯爵には今までに八人の妻がいたのですが、どの女性も嫁いですぐに行方をくらませているんです。使用人曰く、美しい女性をコレクションするために妻にしているとか」
「ろくでもない野郎だな。っと失礼。とんでもない方に好かれたものですね」
「だから私は帰りたくなくって」
「それは正しい判断かと。逃げてきてくださって本当に良かった」
改めて、今ここにリリアがいて良かったと、オズウェルは胸をなでおろした。
そして決してスウィフト家には返さないと決意を新たにする。
「そろそろレオファルドのところに向かいましょうか。遅くなると不機嫌になります」
「うん! いつでも会いたいけど、家のことを思い出したら早く会いたくなっちゃった」
あて名は『オズウェル・バーロンド』様。どうやら綺麗な花を愛でる茶会の招待らしい。
「リリア嬢さえよければ、僕と一緒に参加していただけませんか?」
「茶会? でも私は……」
「遠縁ということにすれば問題ありません。パートナーになっていただけますか?」
リリアは不安そうにオズウェルと招待の手紙を見比べる。
「何も知らないのに、大丈夫かな……」
「僕がそばについていますから。ぜひ」
「うん……わかった」
「ありがとうございます。さあ、休憩が終わったら王宮へ行きましょう。レオファルドが待っています」
久しぶりの訪問ということもあり一気に紅茶を飲み干したところで、アンが来客を告げに部屋へ入ってくる。
「私に? ……誰?」
「スウィフト家のご使者だそうです」
「待たせておけ」
「承知いたしました」
部屋にはリリアとオズウェル、クロウの三人だけ。アンを下がらせたあと、オズウェルはリリアに向き直った。
「リリア嬢、先日会ったというバルト伯爵とはどういったご関係ですか?」
「どうしてそのことを……」
「クロウは僕に隠し事をしません。そろそろ話していただけると助かるのですが……。今の状態ではあなたをお守りできない」
オズウェルの言葉に、これ以上隠しきれないと悟ったリリアは、深く息を吸った。
こうなっては隠し事などしても無駄だろう。
「名をリリア・スウィフトと申します」
「スウィフト……」
「はい」
オズウェルは驚いた表情をしたもののどこかでどことなくわかっていたのだろう。納得した雰囲気。
ファフニール王国とアネクシロア共和国は間違ってもよい関係ではない。そのなかでも有数の名家の生まれ。互いに不干渉を貫いているものの、いつ火花を散らすともしれない間柄だった。
「スウィフト家の娘は一人だと聞いておりましたが」
「私は存在しないはずの娘なのです。父が秘密裏に産ませた望まれない子。ですからずっと疎まれていたのでしょう」
「どうりで教えてくださらぬはずです」
「……お怒りにならないのですか。内情を探っているかもしれないのに」
「あなたにそのようなことはできないでしょう。リリア嬢は僕がバーロンド姓であることは知っていても、それがどういう意味を持つかもご存じでない」
「意味……?」
リリアは首をかしげる。礼儀作法こそ一通り教えられたものの、社交界に出ることのなかったリリアは、家柄の優劣も勢力図も全く知らない。他国のことなどなおさらである。
そのことを予期していたオズウェルは、苦笑した。
「僕の家は、この国の王族に連なる一族なのですよ。それこそ、あなたは敵の手の中に飛び込んできたようなもの」
「そう、なのですね」
「ですから何の心配もなく僕はリリア嬢を手元においておけるのです。万が一何かあったとしても、僕もレオファルドもあなたの味方ですよ。ご安心を」
「ありがとう」
「ところで、使者が来る心当たりは?」
リリアは首を振る。
「わかりませんが、おそらくは連れ戻したいのかと」
「帰りたいのですか?」
「いいえ。私は望みません」
「では用件だけ聞いて追い返しましょう。リリア嬢、こちらへ」
バルコニーから部屋に戻ると、オズウェルが普段仕事をしている際に腰かけている椅子にリリアを座らせると、自らはそのそばに立つ。
「クロウ、通せ」
「承知いたしました」
しばらくして部屋に入ってきたのは、リリアも見覚えのあるスウィフト家でも立場ある執事の一人。
「突然の訪問をお許しください。バーロンド殿下」
礼儀に倣って膝をついた執事を、無表情のまま冷たく見下ろすオズウェル。その態度は見慣れぬもので、リリアが目をそらすと、大丈夫だと言わんばかりに、背に手のひらが当てられる。
「スウィフト家が何の用だ」
「リリア様を殿下が保護くださったと耳にし、お迎えに上がりました。大変なご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした」
「本人は帰りたくないそうだが」
「いえ。主からは必ず連れ帰るようにと命じられておりますので、何卒」
「だそうだが? リリア」
人前だからか、オズウェルの呼び方もいつもと異なる。部屋中の視線を集めて、リリアは顔を伏せた。
かろうじて首を振って意思表示する。
「望んでいないようですので、お引き取りください。彼女は私が丁重にお預かりいたしましょう」
「殿下、リリア様には婚約者がおります。お渡しを」
「リリアは望んでおりません」
「私……帰りません」
「リリア様!」
大声で怒鳴られてリリアは体を強張らせる。あからさまなため息をついたオズウェルは、不機嫌を隠さない。
「お帰り願おう。命が惜しいならな」
「……承知いたしました。バーロンド殿下のお言葉は確かにお伝えいたします。ですが、いずれお迎えにあがります」
これ以上は無理だと悟ったのか、執事は素直に引き下がる。振り返りながら退出していった執事をクロウが見送りに追いかけると、オズウェルは近くにあった椅子に腰かけ、再びリリアに尋ねた。
「バルト伯爵は婚約者だったのですね」
「親の決めた、殺されるための婚約だから……」
「殺されるため?」
「バルト伯爵には今までに八人の妻がいたのですが、どの女性も嫁いですぐに行方をくらませているんです。使用人曰く、美しい女性をコレクションするために妻にしているとか」
「ろくでもない野郎だな。っと失礼。とんでもない方に好かれたものですね」
「だから私は帰りたくなくって」
「それは正しい判断かと。逃げてきてくださって本当に良かった」
改めて、今ここにリリアがいて良かったと、オズウェルは胸をなでおろした。
そして決してスウィフト家には返さないと決意を新たにする。
「そろそろレオファルドのところに向かいましょうか。遅くなると不機嫌になります」
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