20 / 40
第1部-ファフニール王国・自由編-
020_来客
しおりを挟む
結婚の噂を知っているのか知らないのかオズウェルの態度は変わることなく、そのことが唯一周りがざわついた環境の中でのリリアの救いとなっていた。
そんなある日、また命を狙われることを警戒して自室で読書をしているリリアに来客があると、アンが不安そうに告げた。スウィフト家からの使い。聞けばバルトも一緒だという。なんの用だろうと訝しそうに首を傾げながら、言われるがままにリリアは着替えた。
「こちらのドレスをお召しくださいと、オズウェル様より言付かっております」
アンが用意したのは先日オズウェルが用意させたという、バーロンド家のカラーである白に銀糸で刺繍が施されたドレス。まるでリリアがバーロンド家の身内であるといわんばかりだった。
部屋の前まで行くと、オズウェルが待っており、手を差し出す。
「よろしいですか?」
「……うん」
「大丈夫。僕がついています」
手をしっかりと握りリリアの心の準備ができたことを確認して、オズウェルは扉を開いた。
「やあリリア。久しぶりだね! 会えてうれしいよ! また可愛くなったね」
部屋に入ると、来客用のソファにどっぷりと腰掛けているバルトが機嫌良さそうに声をかけてくる。ソファの側には先日、リリアを連れ戻しに来た執事が控えていた。この間、町でクロウに脅されたことなどなかったかのように、オズウェル、リリアに続いて部屋に入ってきたクロウを見てもその態度は変わる様子はない。
オズウェルの後ろに隠れるように部屋に入ったリリアが小さく挨拶を返す。
「……お久しぶりです。バルト様」
「さ、こっちにおいで!」
「いえ、あの……」
「リリア嬢はこちらへ」
膝に乗れと手招きするバルトを無視して、オズウェルはリリアの手を引いて向かい合うソファに座った。いつも無表情なオズウェルだが、まとう雰囲気が普段より硬い。
「さてと、何の御用ですか?」
「何を言ってるんだい君は。リリアは僕の婚約者なんだ。迎えに来て当然だろう?」
「リリア嬢はこちらでお預かりするとスウィフト公爵にはお伝えしております」
「僕も公爵も認めてないよ。ねぇリリア、恥ずかしがらないで僕のところに帰っておいでよ」
「……私は、ここにいたいのです」
バルトが気落ちした表情を見せる。その表情からは今まで何人もの妻を殺してきたようには見えない。
何も知らない人が見ればリリアのことを心底愛しているように見え、オズウェルは注意深く言動を見張っている。
バルトは俯いたまま少し黙ってから、気落ちした声を絞り出した。
「そんなに僕のことが嫌い?」
「いえ、その……」
「じゃあ、オズウェル・バーロンドのことが好きになった?」
「そうでは……」
「どうして? 僕はこんなに君のことを大事に思っているのに!」
「……申し訳ございません」
沈黙が落ちる。気まずい空気の中、身動ぎ一つできずに固まっていると、バルトが顔を上げた。先程までとはうって変わって穏やかな表情。
「わかった。リリアがほかの男にとられるのは癪だけど、可能性がないんじゃ仕方がない。僕がスウィフト公爵に口添えしてあげる」
「本当ですか?」
「うん。僕から婚約解消を申し込めば問題はないだろうし、このまま君がここに残れるようにともお願いしてあげる」
バルトのその言葉に隣に座っていた執事がもの言いたげに身を乗り出すが、バルトはそれを制止する。
「ありがとうございます。バルト様」
「やっと少し笑ってくれたね。ねぇ君、最後にリリアと二人っきりで話をしてもいいかな?」
オズウェル自身は断りたい様子だったが、ちらりとリリアの様子を伺う。不安そうなリリアだったが、しばらく悩んでから頷いた。
「本当に大丈夫ですか?」
「うん。無理をお願いするわけだから、それくらいは」
「なにかあったらすぐにお呼びくださいね」
オズウェルは立ち上がると、励ますように肩をぽんと叩き部屋を出る。執事とクロウもそれに習い、部屋には2人だけが残された。
そんなある日、また命を狙われることを警戒して自室で読書をしているリリアに来客があると、アンが不安そうに告げた。スウィフト家からの使い。聞けばバルトも一緒だという。なんの用だろうと訝しそうに首を傾げながら、言われるがままにリリアは着替えた。
「こちらのドレスをお召しくださいと、オズウェル様より言付かっております」
アンが用意したのは先日オズウェルが用意させたという、バーロンド家のカラーである白に銀糸で刺繍が施されたドレス。まるでリリアがバーロンド家の身内であるといわんばかりだった。
部屋の前まで行くと、オズウェルが待っており、手を差し出す。
「よろしいですか?」
「……うん」
「大丈夫。僕がついています」
手をしっかりと握りリリアの心の準備ができたことを確認して、オズウェルは扉を開いた。
「やあリリア。久しぶりだね! 会えてうれしいよ! また可愛くなったね」
部屋に入ると、来客用のソファにどっぷりと腰掛けているバルトが機嫌良さそうに声をかけてくる。ソファの側には先日、リリアを連れ戻しに来た執事が控えていた。この間、町でクロウに脅されたことなどなかったかのように、オズウェル、リリアに続いて部屋に入ってきたクロウを見てもその態度は変わる様子はない。
オズウェルの後ろに隠れるように部屋に入ったリリアが小さく挨拶を返す。
「……お久しぶりです。バルト様」
「さ、こっちにおいで!」
「いえ、あの……」
「リリア嬢はこちらへ」
膝に乗れと手招きするバルトを無視して、オズウェルはリリアの手を引いて向かい合うソファに座った。いつも無表情なオズウェルだが、まとう雰囲気が普段より硬い。
「さてと、何の御用ですか?」
「何を言ってるんだい君は。リリアは僕の婚約者なんだ。迎えに来て当然だろう?」
「リリア嬢はこちらでお預かりするとスウィフト公爵にはお伝えしております」
「僕も公爵も認めてないよ。ねぇリリア、恥ずかしがらないで僕のところに帰っておいでよ」
「……私は、ここにいたいのです」
バルトが気落ちした表情を見せる。その表情からは今まで何人もの妻を殺してきたようには見えない。
何も知らない人が見ればリリアのことを心底愛しているように見え、オズウェルは注意深く言動を見張っている。
バルトは俯いたまま少し黙ってから、気落ちした声を絞り出した。
「そんなに僕のことが嫌い?」
「いえ、その……」
「じゃあ、オズウェル・バーロンドのことが好きになった?」
「そうでは……」
「どうして? 僕はこんなに君のことを大事に思っているのに!」
「……申し訳ございません」
沈黙が落ちる。気まずい空気の中、身動ぎ一つできずに固まっていると、バルトが顔を上げた。先程までとはうって変わって穏やかな表情。
「わかった。リリアがほかの男にとられるのは癪だけど、可能性がないんじゃ仕方がない。僕がスウィフト公爵に口添えしてあげる」
「本当ですか?」
「うん。僕から婚約解消を申し込めば問題はないだろうし、このまま君がここに残れるようにともお願いしてあげる」
バルトのその言葉に隣に座っていた執事がもの言いたげに身を乗り出すが、バルトはそれを制止する。
「ありがとうございます。バルト様」
「やっと少し笑ってくれたね。ねぇ君、最後にリリアと二人っきりで話をしてもいいかな?」
オズウェル自身は断りたい様子だったが、ちらりとリリアの様子を伺う。不安そうなリリアだったが、しばらく悩んでから頷いた。
「本当に大丈夫ですか?」
「うん。無理をお願いするわけだから、それくらいは」
「なにかあったらすぐにお呼びくださいね」
オズウェルは立ち上がると、励ますように肩をぽんと叩き部屋を出る。執事とクロウもそれに習い、部屋には2人だけが残された。
20
あなたにおすすめの小説
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる