俺と向日葵と図書館と

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01.涼を求めて

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 テーブルが僅かに動く。上に載せていた腕が揺れる。結果、腕に預けていた頭に振動が届いた。
 誰か、来たのか……。
 食後の満腹感で眠り込んでいた恭佑は、眠気と戦いながら、自分を起こした正体を知るために僅かに顔を上げる。
 最初に思ったのは、あ、可愛い女子だ。続いて、こんなところに高校生が来るんだという驚きだった。
 恭佑はゆっくりと瞬きをしながらふわっとした女の子を眺め、再び睡魔に負けて頭を下ろす。
 少女は恭佑が起きたことには、全く気づいていなかった。

 真夏のうだるような暑さの中、学生がただで涼める場所はそう多くない。家に居場所のない恭佑は、時間を潰せる場所を探して図書館にたどり着いていた。図書館には本を求めてくる人はもちろん、新聞を読みに来る人、席だけ占領して涼みにくる人がいる。恭佑も同様で、人目のつきにくい奥の席を確保して、一応本を横に置いて昼寝をしていた。
 テーブルが動いたのは目の前に人が座ったからで、その主は恭佑に目もくれず読書に没頭している。本を読みに来たのだから当然と言えば当然。
 二度寝をした恭佑が次に起きたのは、閉館時間を知らせる蛍の光が鳴り終わった後のこと。

「あの……閉ま……です……よ」

 小さな声が聞こえた気がして、恭佑の意識がほんの少しだけ浮上する。
 誰に話しかけてるんだ?
 ぼんやりとしたまま、心地よい声音にもう一度、寝ようかと考えていると、今度はハッキリとした声がかけられた。

「閉館時間ですよ」

 どうやら自分が話しかけられているらしいと理解し、恭佑は渋々体を起こす。とはいえまだまだ眠く、体勢を変えただけで目を閉じようとする恭佑に気づいた少女は、少し早口になって慌てて言葉を続ける。

「閉じ込められちゃいますよ。もう外に出ないと」
「うん……」

 言葉の意味を理解出来たのは、何度か瞬きを繰り返して意識をはっきりとさせてからのこと。

「ありがと」

 どうやら恭佑を心配してくれていたらしい少女に感謝の旨を伝える。隣に立っていた少女を見上げ目が合った途端、笑顔だった少女は突然怯えた表情になり、一歩二歩と後ずさり恭佑から距離を取った。
 やば。
 脳が一気に覚醒した恭佑は、少女を引き留めようと手を伸ばしたが、

「ごめんなさい!」

 という言葉を残して、逃げられてしまう。あっけに取られたままそれを見送った恭佑は、大きくため息をついた。
 あーあ。やっちまった。
 恭佑の外見は、控えめに言ってあんまり親しみを持てるようなタイプではない。その辺りにあった適当な服を着てきただけの上下に、元々寝起きで目つきが悪いことも相まって、まるでヤンキーのようにも見える。
 いかにも育ちの良さそうな少女が逃げるのは、もっともと言えた。

「すみません、そろそろ閉館時間なので」

 落ち込む恭佑の気持ちを、司書はばっさりと冷たい声音で切り伏せる。恭佑は、せめて司書だけは怖がらせまいと伏し目がちに頷いてそそくさと図書館を出た。
 帰路で思い出すのは、寝ぼけ眼で見た困ったような表情で話しかけてくれた少女のこと。その困った笑顔が、ぼんやりとした意識下でも可愛かったと強く印象に残って何度も恭佑の脳裏をよぎる。
 また、会いたいな。
 そんな感想を抱いた。
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