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第一章【帯宏高校SPOT部、始動!】
閑話 半村ほのかの朝
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「おはよう、ママ」
「おはよう、ほのか。今日も1人で起きれて偉いわね」
「ふふっ。朝ご飯の良い匂いで目が覚めちゃった」
「あらあら、頑張りがいのあることを言ってくれるじゃないの」
ママは気分良さげに鼻歌を歌いながら、鍋からスープをよそっている。その様子を見て、こっそり息を吐いた。
良かった、今日は機嫌がいい日みたい。
ママが楽しい日は、私も楽しい。それは、当たり前のことだから。
「はいどうぞ!冷めないうちに召し上がれ♪」
コトリ、と目の前に皿が置かれる。いつも通りの笑顔のままで口を躍らせる。
「わあっ、今日のスープも美味しそう♪何のスープ?」
「今日はね、牛乳をベースにしたのよ!それからね……」
嬉しそうにママは自分の分をつぎながら具材の説明をしてくれる。
漢方、漢方、サプリメント、漢方、サプリメント……。冷静に名称を分類していったら、今日は漢方の方が多いということがわかった。
じゃあ、少し苦いって感じの方がいいわね。スプーンでひとさじすくって、口元まで運ぶ。
そしてイメージ。味覚、嗅覚、視覚が全て一瞬消え去る。そのまま口に含んで、一気に喉まで流し込んだ。
「……うん、美味しい!漢方もっと苦いと思ってたけど、これなら飲みやすいね。牛乳のおかげかな」
「そう!やっぱりほのかは違いが分かるわね~」
よし、正解。ニコニコしているママは別の小鍋に作っていた自分用のスープを持ってきて、食べ始める。ママの方はコーンポタージュみたい。……良いなぁ。
「あとね、ほのか。今日はママ夜いないから、冷蔵庫にあるものをチンして食べるのよ?一応あの人が帰ってくるみたいだけど……あの人の食べさせようとするもの、食べなくていいからね」
ピタ、とスプーンを持つ手が止まる。
そっか、ママは夜出かけるのね。それで上機嫌だったんだ。
あの人……パパが帰ってきて、ママは夜いないってことよね。
内心、少し安堵しているけれど、ママにはそれを悟られちゃダメ。少し残念そうに声色を落として……。
「そっか……できればママも一緒にご飯食べたかったな」
「……ごめんなさいね、どうしても外せない用事があるから」
「大丈夫、分かってるよ。ご飯のことも心配しないで。ママ特製の栄養たっぷりなご飯しか食べないから!」
そう断言しておく。ホッとしたようにママは笑ってくれた。それを見て、私も安堵する。
会話は石渡りだ。正しい言葉を踏んで進まないと、すぐに足を滑らせて川に落ちてしまう。
「そうそう、ほのか。今日は部活で選抜選手決めなんだってね」
「うん、そうだよ」
「応援してるからね。景気づけに冷蔵庫にあるフルーツから好きなもの食べていいから」
「……!本当?キウイある?」
「もちろんよ!ほのかは本当にキウイが好きね~」
時間配分を確認する。スープをゆっくり食べたらちょうどいい時間かなと思ってたけど、キウイがあるなら話は別。急いでスープを流し込む。むせ返りそうになったのは、多分気のせい。
「ご馳走様でした」
食器をシンクまで持って行って洗う。乾燥機にセットしたら今度は冷蔵庫から目的のものを取りだした。
ゴワゴワした毛並みのキウイ。フルーツナイフで半分に切って……少し迷ったけどスプーンを2つ持っていく。
「はい、これママの分」
「あら!ほのかは優しい子ねぇ」
さすがママの娘、と頭を撫でられる。今度ははにかんで、嬉しそうに笑うのが正解。
ママの気が済むまで撫でられたら自分の分のキウイを席まで持っていって、スプーンを突き立てる。緑色の果肉からじんわりと透明の果汁が流れ出る。それを1すくいして口の中に投げ入れた。
舌の上がピリッと痺れる。キウイが通った場所が、今生きていことを主張するみたいに痛みを伴った美味しさを伝えてくる。
「あら、ちょっと若かったかしら」
「んー、私このくらいでも好きだよ」
「そう?まあ若すぎると身体に悪いし美容にも良くないから、今度はもう少し追熟させましょうね」
「うん、分かった」
娘の身体を案じる良い母親だ。決して、このくらいの熟し加減が好きだからとか言ってはいけない。
ママが選ぶことが、正解なんだから。
「あ、そうそう。部活に入れ込むのもいいけれどね、引き際もちゃんと考えておくのよ」
「……っ」
「あくまでもSPOTはあなたの美しさを引き立たせるためにやらせてるんだから。この間の新聞にも載ってたわよ。美人女子高生プレイヤー半村ほのかって。このまま上手く行けばモデル転向しても注目度が高いはずだからね。華道は拘束時間も緩いからもう少し続けてもいいけれど、SPOTは1番話題が取れそうな時期に入ったら退部するから準備しておきなさい」
「……うん、ありがとう。ママ」
押し殺せ、押し殺せ。ママは最良の道を教えてくれているんだから。
元々SPOTを始めたのは、モデルになった時に少しでも話題性を高めるためなんだもの。
ピリピリピリピリ。
キウイが喉に刺すような痛みを与える。美味しい、美味しい……美味しい、はず。
「ごちそうさま。……じゃあ行ってくるね」
「ええ、門限までには帰ってくるのよ」
「うん!」
ママに笑いかけて、玄関に向かう。
今日もちゃんと、良い子のままでいられた。
朝自分で起きれるし、ママに感謝してどんなに食べ物とは言えないサプリメントや漢方のごった煮であってもちゃんと食べる。ママが嫌いなパパが帰ってくる時は少し残念そうに振る舞うし、ママが外で誰と会おうと詮索はしない。ママが描いてくれた私の夢……モデルになるために自分の青春を全て捧げてきたSPOTだって辞める決意をもつ。ずっと笑顔のままで、いる。
──ガチャン
でも、外へ出たら。
少しだけママのための良い子を辞めてもいいよね?
携帯を開いて、鍵をかけたファイルにパスワードを入れる。バッと目の前に広がったのは私の可愛い天使たち。
黒髪眼鏡ロリショタ達の画像を見ていると、胸の中で渦巻くモヤモヤが一気に浄化されるのを感じた。
だいたい拾い画か、近くを通った好みの子の写真。少しブレもあるけど、もう、笑顔が抑えられない。
そしてスワイプしていき、最新の数枚を見る。
昨日結局近くのカフェまで連れていった印斬君の写真がいくつか。一緒に行った燐梨ちゃんや歌恋ちゃんもとっても可愛いからちゃんと写真を撮っておいたけど、彼は特別好みだからこっちのフォルダに入れておいた。
無口だけど甘いものが好き。目つきが悪いけどコミュ障すぎてお話ができないだけ。私が「景村君じゃなくって、印斬君って呼んでもいい?」って聞いたら一も二もなくブンブンと頷いてくれた時は尊すぎて昇天しちゃうかと思った。
なんて可愛らしい生物なんだろう。守ってあげたくなる。
(ママも、同じ気持ちなのかな……)
クスッと笑みをこぼす。母娘だものね。愛の感じ方くらいは似てるでしょう。
学校行きのバスの中で、秘蔵コレクションを見ながら心を休める。これが、私の日常的な朝だ。
ふふっ。今日も良い日になりそう♪
【プロフィール】
名前:半村ほのか
クラス:3年2組
身長:165cm
体重:47.2kg
好きな食べ物:キウイ
誕生日:6月12日
「おはよう、ほのか。今日も1人で起きれて偉いわね」
「ふふっ。朝ご飯の良い匂いで目が覚めちゃった」
「あらあら、頑張りがいのあることを言ってくれるじゃないの」
ママは気分良さげに鼻歌を歌いながら、鍋からスープをよそっている。その様子を見て、こっそり息を吐いた。
良かった、今日は機嫌がいい日みたい。
ママが楽しい日は、私も楽しい。それは、当たり前のことだから。
「はいどうぞ!冷めないうちに召し上がれ♪」
コトリ、と目の前に皿が置かれる。いつも通りの笑顔のままで口を躍らせる。
「わあっ、今日のスープも美味しそう♪何のスープ?」
「今日はね、牛乳をベースにしたのよ!それからね……」
嬉しそうにママは自分の分をつぎながら具材の説明をしてくれる。
漢方、漢方、サプリメント、漢方、サプリメント……。冷静に名称を分類していったら、今日は漢方の方が多いということがわかった。
じゃあ、少し苦いって感じの方がいいわね。スプーンでひとさじすくって、口元まで運ぶ。
そしてイメージ。味覚、嗅覚、視覚が全て一瞬消え去る。そのまま口に含んで、一気に喉まで流し込んだ。
「……うん、美味しい!漢方もっと苦いと思ってたけど、これなら飲みやすいね。牛乳のおかげかな」
「そう!やっぱりほのかは違いが分かるわね~」
よし、正解。ニコニコしているママは別の小鍋に作っていた自分用のスープを持ってきて、食べ始める。ママの方はコーンポタージュみたい。……良いなぁ。
「あとね、ほのか。今日はママ夜いないから、冷蔵庫にあるものをチンして食べるのよ?一応あの人が帰ってくるみたいだけど……あの人の食べさせようとするもの、食べなくていいからね」
ピタ、とスプーンを持つ手が止まる。
そっか、ママは夜出かけるのね。それで上機嫌だったんだ。
あの人……パパが帰ってきて、ママは夜いないってことよね。
内心、少し安堵しているけれど、ママにはそれを悟られちゃダメ。少し残念そうに声色を落として……。
「そっか……できればママも一緒にご飯食べたかったな」
「……ごめんなさいね、どうしても外せない用事があるから」
「大丈夫、分かってるよ。ご飯のことも心配しないで。ママ特製の栄養たっぷりなご飯しか食べないから!」
そう断言しておく。ホッとしたようにママは笑ってくれた。それを見て、私も安堵する。
会話は石渡りだ。正しい言葉を踏んで進まないと、すぐに足を滑らせて川に落ちてしまう。
「そうそう、ほのか。今日は部活で選抜選手決めなんだってね」
「うん、そうだよ」
「応援してるからね。景気づけに冷蔵庫にあるフルーツから好きなもの食べていいから」
「……!本当?キウイある?」
「もちろんよ!ほのかは本当にキウイが好きね~」
時間配分を確認する。スープをゆっくり食べたらちょうどいい時間かなと思ってたけど、キウイがあるなら話は別。急いでスープを流し込む。むせ返りそうになったのは、多分気のせい。
「ご馳走様でした」
食器をシンクまで持って行って洗う。乾燥機にセットしたら今度は冷蔵庫から目的のものを取りだした。
ゴワゴワした毛並みのキウイ。フルーツナイフで半分に切って……少し迷ったけどスプーンを2つ持っていく。
「はい、これママの分」
「あら!ほのかは優しい子ねぇ」
さすがママの娘、と頭を撫でられる。今度ははにかんで、嬉しそうに笑うのが正解。
ママの気が済むまで撫でられたら自分の分のキウイを席まで持っていって、スプーンを突き立てる。緑色の果肉からじんわりと透明の果汁が流れ出る。それを1すくいして口の中に投げ入れた。
舌の上がピリッと痺れる。キウイが通った場所が、今生きていことを主張するみたいに痛みを伴った美味しさを伝えてくる。
「あら、ちょっと若かったかしら」
「んー、私このくらいでも好きだよ」
「そう?まあ若すぎると身体に悪いし美容にも良くないから、今度はもう少し追熟させましょうね」
「うん、分かった」
娘の身体を案じる良い母親だ。決して、このくらいの熟し加減が好きだからとか言ってはいけない。
ママが選ぶことが、正解なんだから。
「あ、そうそう。部活に入れ込むのもいいけれどね、引き際もちゃんと考えておくのよ」
「……っ」
「あくまでもSPOTはあなたの美しさを引き立たせるためにやらせてるんだから。この間の新聞にも載ってたわよ。美人女子高生プレイヤー半村ほのかって。このまま上手く行けばモデル転向しても注目度が高いはずだからね。華道は拘束時間も緩いからもう少し続けてもいいけれど、SPOTは1番話題が取れそうな時期に入ったら退部するから準備しておきなさい」
「……うん、ありがとう。ママ」
押し殺せ、押し殺せ。ママは最良の道を教えてくれているんだから。
元々SPOTを始めたのは、モデルになった時に少しでも話題性を高めるためなんだもの。
ピリピリピリピリ。
キウイが喉に刺すような痛みを与える。美味しい、美味しい……美味しい、はず。
「ごちそうさま。……じゃあ行ってくるね」
「ええ、門限までには帰ってくるのよ」
「うん!」
ママに笑いかけて、玄関に向かう。
今日もちゃんと、良い子のままでいられた。
朝自分で起きれるし、ママに感謝してどんなに食べ物とは言えないサプリメントや漢方のごった煮であってもちゃんと食べる。ママが嫌いなパパが帰ってくる時は少し残念そうに振る舞うし、ママが外で誰と会おうと詮索はしない。ママが描いてくれた私の夢……モデルになるために自分の青春を全て捧げてきたSPOTだって辞める決意をもつ。ずっと笑顔のままで、いる。
──ガチャン
でも、外へ出たら。
少しだけママのための良い子を辞めてもいいよね?
携帯を開いて、鍵をかけたファイルにパスワードを入れる。バッと目の前に広がったのは私の可愛い天使たち。
黒髪眼鏡ロリショタ達の画像を見ていると、胸の中で渦巻くモヤモヤが一気に浄化されるのを感じた。
だいたい拾い画か、近くを通った好みの子の写真。少しブレもあるけど、もう、笑顔が抑えられない。
そしてスワイプしていき、最新の数枚を見る。
昨日結局近くのカフェまで連れていった印斬君の写真がいくつか。一緒に行った燐梨ちゃんや歌恋ちゃんもとっても可愛いからちゃんと写真を撮っておいたけど、彼は特別好みだからこっちのフォルダに入れておいた。
無口だけど甘いものが好き。目つきが悪いけどコミュ障すぎてお話ができないだけ。私が「景村君じゃなくって、印斬君って呼んでもいい?」って聞いたら一も二もなくブンブンと頷いてくれた時は尊すぎて昇天しちゃうかと思った。
なんて可愛らしい生物なんだろう。守ってあげたくなる。
(ママも、同じ気持ちなのかな……)
クスッと笑みをこぼす。母娘だものね。愛の感じ方くらいは似てるでしょう。
学校行きのバスの中で、秘蔵コレクションを見ながら心を休める。これが、私の日常的な朝だ。
ふふっ。今日も良い日になりそう♪
【プロフィール】
名前:半村ほのか
クラス:3年2組
身長:165cm
体重:47.2kg
好きな食べ物:キウイ
誕生日:6月12日
応援ありがとうございます!
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