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hachijam

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携帯電話を持たされたのは、夏休みに入る直前だ。夏期講習に行くのが決まってから、親に持つように言われた。私も、一応、人並みには持ちたいと思っていたけど、そこまで強くは希望してはいなかった。両親も高校生には携帯なんて必要ないと言っていて、私も大学生になるまでは我慢かなと思っていたので、ちょっと意外だった。

最近、物騒だからというのが理由だったけど、厳しいんだか、過保護なんだか良く分からない事をするなと思う。でも、持つ事自体は嫌では無い、むしろ嬉しかったので、ありがたく使わさせて頂く事にした。

使い過ぎないようにとだけ注意された。どれくらいで使い過ぎるのか、良く分からなかったので、高額請求が来ないように、最初は慎重だったけど、メールを送るぐらいなら、そこまで心配する必要はないという話を聞くと、少し止まらなくなった。

仲の良い友達は前から持っていて、すぐにアドレスを交換してメールのやり取りをする。書いているのはどうでもいいくだらない事なんだけど、すごく楽しかった。彼ともメールのやり取りをしたいと思ったけど、彼はまだ携帯を持っていなかったので無理だった。

あると便利だよと、ついこの間まで、持っていなかった私だけど、偉そうに言ってみたりした。そうだろうねと彼は言っていたけど、どちらかと言えば、軽くかわされたという感じだった。それが少し不満だった。

夏休み、彼も夏期講習を受けるみたいだけど、私が行く予備校とは違っていた。ギリギリで申し込んだから、行けるところが限られていたみたいだ。場所も近くではないので、会える機会が少なくなるのに、連絡手段が無いのは悲しい気がした。

受験生だから、勉強第一でしょ何て事、彼に言われなくても分かっている。でも、ずっと勉強だけに集中していたら一カ月以上会えなくなってしまう。それは寂しい。しかも、連絡手段もない。

正確に言えば、彼の家の電話番号は知っているから、私が勇気を出して電話すれば連絡を取る事は出来なくは無いはずだ。でも、その勇気はない。そういう自分はちょっと嫌いだけど、それが現実。彼には私の携帯電話の番号を知らせているから、彼がかけてくれればいいのにと思うけど、それを期待して待ち続けるのもどうなんだろう。我儘な自分のようで、それも嫌いだなと思う。

そういう夏休みになるのが不安だと思いながら、どうしようもないとも感じている。そんな風にして、高校三年生の夏休みが始まった。
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