syn...

夏

９．

遊園地デートは私が思っていたよりも、ずっとずっと楽しかった。彼が高い所が苦手だっというのが分かったというのが、彼は不本意だと思うけど、一番嬉しかったポイントだったりする。苦手な所を見せないように頑張って、でも隠しきれていない所が可愛いなとか思ってしまった。

彼との間に進展があったのかと言われると、返事に困ってしまう。観覧車の一番上で、キスなんて、そんな分かりやすくロマンチックな事は起きなかった。多分、彼は高い所にいたから、それどころではなかったんだと思う。だから、何も進展していないと言えば、進展していない気もするし、二人の思い出に残るような時間を共有できたと言えば、進展している気もした。

一応、友達にもデートの報告をする。彼女は何があったのかを事細かく聞いてきたけど、曖昧に答える。ちょっと、思わせぶりだったかなと思うけど、彼女はそれは進展が何もなかったと捉えたようだ。

手はしっかりと握ったよと自慢したくなったけど、笑われそうなので止めておく。そもそも、人に自慢するような事じゃない。私にとって、特別な事であるという事がとても大事な事で、それ以上でもそれ以下でもない。

夏休みで彼との思い出として、残ったのはそれだけだった。でも、それで十分だった。後はひたすら夏期講習。デートの日、一日分の遅れはそこまで大変じゃないはずだったけど、デートの後の何日間はその余韻に浸ってしまったので、大変になってしまった。

丁度、お盆休みと言う時期で、夏休み前半の復習と後半の予習をしなければいけなかったのにほとんど手が付かなかった。気が付くと、ぼーっとしていた。疲れもあったのか、一日は熱を出してしまった。

結局、一日しか休まないはずが、ずっと休んだのと同じになってしまった。しかも、夏期講習後半は、前半よりもより本格的なもので、ついていくのが必死だった。それだけ大変だったから、彼の事を考える余裕はなかった。

そうじゃなかったら、もしかして、ずっと余韻に浸っていたか、また、会いたいと思っていたのかもしれない。そう考えると、それは良かったのかなと思ったりするけど、そういうことを考える余裕もなかった。どうにかこうにか、夏期講習が終わってホッとしたと思ったら、すぐに二学期が始まる。

普段だったら、夏休みが終わるのはちょっと寂しいと思うけど、今年は夏期講習が終わってと言う思いと、彼と普通に会えるようになる嬉しさの方が大きかった。