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hachijam

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幕間2

1.

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「どこ行くの?」

そう僕が聞いたら、

「海」

と彼女が即答した。初ドライブは海と決まっているらしい。彼女が言う。

「道は?」

「多分、分かる」

とこれも即答。大丈夫と言っているから、大丈夫なんだと思うけど、僕の家までたどり着けなかったという事実もある。ちょっとした不安を感じるけど、でも、最後までは無理だったけど、大体のところまでこれたというのも事実ではある。彼女の言う事を信じようと思う。

「はい」

そう言って、地図を渡される。

「間違ったら教えてね」

そういう事かと思う。地図を見ると、付箋紙が貼られていて、道はすぐに分かった。

「了解」

「じゃあ、行くね」

そう言うと彼女はアクセルを踏む。

どうして、海なんだろう。そんな事を考えるけど、意味なんてないのかもしれない。初ドライブで海を目指す。夏だったら、分かりやすく最高だったかもしれないけど、春の海もそれはそれなりに良いのかもしれないと思った。



彼は免許を持っていないから、私が運転するという状況は変わらず、だから、心配と言う意味ではそれまでと同じはずなんだけど、やっぱり、隣に人がいるというのは安心する。それが彼だからという理由もあるはずだ。何だかんだでそう思ってしまう。道は大丈夫なはずだけど、彼にも確認してもらいたくて、地図を渡す。多分、的確に助言してくれるだろう。免許持ってなくても、そういう事はそつなくこなしてくれると思う。

車の中では彼と二人きりだ。彼と二人きりと言うと、あの時の遊園地の観覧車の事を思い出す。あの時、もう少し勇気があったら、今とは違った状況になっていたんだろうか。その可能性が全くなかったとは思えないけど、でも、あの時の出来事はあの時としては、最高の物だったのではと思ったりする。

だから、何度、あの場面になっても同じ感じだろう。でも、もしかしたら、彼が高い所が苦手じゃなかったら、違っていたのかなと思う。ただそれが、ロマンチックな方向に進んだのか、それとも淡々と過ぎる事に繋がったのかは良く分からない。

「信号、変わったよ」

彼の言葉でハッとする。つい考えてしまったようだ。と、後ろからクラクションを鳴らされてしまう。焦る。

「大丈夫だよ。落ち着いて」

彼が優しく言ってくれる。それで落ちつけた。彼は私が言って欲しい事を言ってくれる。でも、それが今は心苦しくも感じる。

海までは、まだ距離がある。でも、遠くに思えて意外と近い所にあるのかもしれない。そんな風にも思ってしまう。
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