夢ノコリ

hachijam

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福引する夢

8.

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帰り道、何にも考えないで歩いていたら、見慣れない場所を歩いている事に気が付いた。すでに暗くなっているし、前に歩いたのは何年も前だったから、道を間違えたんだろうかと思ったけど、そんなに細かい道を通っている訳でもなく、迷うはずはないと思った。でも、見た事の無い場所のような気もした。少し戻った方が良いかなと考えたけど、方角は間違いないだろう。

細い道でもないし、行き止まりにもなってなさそうなので、そのまま、もう少し進むことにした。すると、ちょっとした空き地に出た。こんなところに空き地があったかなと考えていて、ふと思い出す。

そう言えば、この辺に大きなマンションがあったなと。それで今いる場所が何となく分かった。前まであったマンションが無くなっていて空き地になっていたのだった。その大きなマンションはこの辺りの目印にもなっていて、見当たらなかったことで、見慣れない場所だと思っていたようだ。

そう言えば、中学時代の友達の何人かはここに住んでいたけど、どこかに引っ越したんだろうか、何てことも思ったりした。空き地の入り口にはロープが張ってあって、立ち入り禁止の看板も立っていた。何となくその看板を眺めながら、何となく空を見たら、花火が打ち上がっているのが見えた。

マンションが立っていた時には空は塞がっていたけど、今は邪魔する物が無かった。ようやくはっきりと花火を見る事が出来て、嬉しくなってしまった。もうすでに花火の事は諦めていたので、余計にそう感じてしまったのかもしれない。時間にしたら、五分もその場にいなかったと思う。でも、その瞬間はとても印象深くて、これがちょっとした幸運と言える事だったのかもしれないと思った。

その後、僕は寄り道する事も、迷う事も無く家に帰った。でも、気分としてはスッキリとしていた。あの空き地の事を誰かに話したいとそんな風に思って、浮かんだのが赤岡さんの事だった。夕方までどうするのか悩んでいたのが嘘のように素直に連絡しようと思う事が出来た。もしかしたら、それがちょっとした幸運だったのかもしれないけど、自分で起こした行動を幸運と言う一言で片づけたくなかったし、ちょっとしたでも無いのかなと思ったりした。

赤岡さんとはすぐに連絡が取れた。試験はすでに終わっていたようで、大変だったとかそういう話を軽くする。ちょっとだけ花火の話もした。マンションが無くなっていて、花火が見えた事を話したら、少し盛り上がった。

もしかしたら、あの花火を赤岡さんも見ていたのかもしれない。そう思うと、ちょっとドキドキする。もしかして、花火を見に行ったら会えるかもとちょっと期待していた事は、とりあえず、心の中に秘めておく事にした。

こんな風にして、僕の夏休みが始まった。
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