夢ノコリ

hachijam

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大きなカラスの夢

5.

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「お疲れさま」

そう声が聞こえてきた。声をした方向を向くと下山さんがいた。まだ、休みだと思っていたので驚く。

「あれ、お休みじゃないんですか?」

「ああ、事務に用があったから、ちょっと顔を出しただけ。羽田が代わりに入ってくれたって聞いたから、真面目に働いているのか偵察しにきたんだ」

「えっあ、はい。真面目にやってます」

急にかしこまってそう答えた。

「ははは。冗談、冗談。で、どう忙しかった?」

「倉庫はいつも通りですね」

そう言いながら、僕はこの一週間の事を説明した。三戸さんと配送の仕事をした事、昨日、体調不良で休んでしまった事、そして、今日、社長と三戸さんが一緒に配送している事などだ。なるべく客観的に伝わるように事実だけを言おうとしたけど、それが逆に気を使っていると思われたのかもしれない。三戸さんと配送の仕事をしている話を聞いている時には、苦笑いをしていた。そして、社長と三戸さんが一緒に配送している話を聞いている時には驚いていた。

「そうか、とうとう社長が動き出したか」

下山さんはそう言う。少し大げさに感じた言い方が気になった。確かに社長と一緒の行動と言うのは驚く気もするけど、あの社長なら言いだしそうだし、やりそうな事だとも思ったからだ。

「だったら、安心だな。大丈夫、大丈夫」

下山さんは一人納得したように頷いた。

「大丈夫なんですか?」

むしろ、不安を感じている僕は思わず、そう言ってしまった。

「羽田は知らないかもしれないけど、あの社長、かなり怖いよ」

「そうなんですか?」

驚いて裏返ったような声で聞いてしまった。

「怒鳴ったりするんですか?」

想像してみたが、その姿は浮かばなかった。

「いやいやいや、怒鳴るとか、殴るとか。そういう分かりやすい怖さがじゃないんだよ。うーん、なんて言うんだろう。精神的な怖さ?」

「何ですかそれは…」

僕はからかわれているのかと思ってしまった。

「いや、まあ、あれは体験してみないと分からないよ。俺なんか、怒鳴られた方が良いと思ったくらいだから」

「本当ですか?」

まだ、僕は疑っていた。

「お前も怒られてみれば分かるよ。でも、まあ、怒らすのはなかなか難しいと思うけど…」

何やったら怒るのだろう。悪口でも言えば良いのか、小学生でもあるまいし。そう言えば、カラクリ箱を開ける開けないの時に、ちょっと怒りそうだったことを思い出す。言われてみると、いつもと違う感じだった気もするけど、でも、その先を想像するのは難しかった。
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