夢ノコリ

hachijam

文字の大きさ
229 / 275
待ちぼうけする夢

2.

しおりを挟む
「待ち合わせ?」

その声が、突然、聞こえてきた。声の感じで誰だか分かる。そちらに視線を向けると立っていたのは髪の長い女の子だった。パッと見た瞬間、この子を待っていた訳ではないと思った。同時に、何となく待ちぼうけ姿を見られた事が恥ずかしくなってしまう。でも、恥ずかしい事をしている訳ではないだろう。そう思う。ちょっと格好つけようとしていたりしたから、それを見られていたら恥ずかしかったかもしれないけど、それは気にしすぎだろう。そう思う事にした。視線を誤魔化して、聞こえなかったふりをする。

「おーい」

女の子が声を掛けてくる。僕がわざと視線を逸らして誤魔化したことに気が付いて、面白がっている感じだ。これ以上、大きな声を上げられると恥ずかしいと思い、あれ、いたんだというように今気が付きましたと言う表情をする。ばれていて、そうするんだから、恥ずかしいなと思うけど、仕方ない。

「待ち合わせ?」

もう一度、女の子が言った。

「そう。待ち合わせ」

出来るだけ、平常心で言ってみる。

「ふーん。待ち合わせは何時なの?」

「…」

「もしかして、分からないのかな?」

分かっていて聞いてきているんだと思う。相変わらず、こういう時は意地悪だと思う。だから、無視した。

「もう来ないんじゃない?」

「そんな事はない」

少しムキになって言う。ムキになっているところがその可能性が高いのではと思い始めている証拠かもしれない。

「だったら良いけどね。いつまで待つの?」

「…来るまで」

自信ないなと思いながら、そう答えた。

「それはご苦労様です」

「…」

ちょっとムッとした。だから、

「そんな意地悪な事、言って楽しい」

何て事を言ってしまった。ちょっと後悔する。でも、女の子は

「まあ、それなりに」

何て返事を返してきて、やっぱり、この子はとか思ってしまう。

「冗談、冗談」

八割は本気だった気がする。

「目が怖いよ」

それはそうだろうと思う。

「でも、いつまでも待てないだろうし。来ないかもって思っているから、不機嫌になっているんでしょ」

それは図星のような気がした。

「…」

だから返事をしないでいた。

「いつまで待っていられるかな」

女の子はそう意地悪な事を言って、その場を後にした。腹を立てながらもますます不安になる。せめて誰を待っているのか分かればなと思う。充とか三ヶ嶋君だったら、ここまで待たなくて良いのではと思ったりする。後で何か言われても遅れた方が悪いと言えそうだ。でも、そうじゃない人だったら、どうなんだろう。もし、遅れても来てくれることを期待している人だったらどうなるんだろう。そう思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...