竜探しのお話

hachijam

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4章.竜の研究者

31.

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「ソレデ、次ノ結果ハ?」

暗闇の中からその声が尋ねてきた。

「はい。想定以上の成果を上げています」

頭を下げたまま言う。

「最後の段階に入っても問題ないかと」

落ち着いた自信に満ちた声で言う。

「アノ、本物ノ力を上手ク利用スレバ良イ」

「はい。心得ております」

「何ガ生マレルノカ、楽シミニシテイル」

「はっ、お任せください」

もう一度、深く頭を下げた。



実験がいよいよ翌日に行われる事になった。バナは忙しくサントたちと会話をする余裕も無かった。一方のサントたちは、その後、リアリから指示を与えられる事も無く、少し暇な時間を過ごしていた。

意外に思えたが、ホウミもそれほど忙しい様子もなかった。前日にも関わらず、リラを誘って町に遊びに行くことを提案してきた。ホウミにとっては、準備がひと段落したら後は実験を待つだけで、実験の後の分析の方が忙しくなるのだという。

当日の最終確認までは時間があり、それまで気持ちを張り詰めているよりは、気分転換をした方が良いと思ったようだ。リラもハレンパルスに来てから、ゆっくりと町を見る事も無かったので、ファムも誘って喜んで出かけていった。

サントは実験の事が気になって、何か用事がある訳でも無かったが、バナの元に向かいこまごました事を手伝っていた。ラテアは研究所で行われている他の事も気になっていて、どさくさと言う感じで研究所に紛れ込んでいた。



「しかし、あんな奴の下で良く働けるよな」

町を一通り案内してもらった後、食事をしながら、ファムがホウミに言った。

「まあ、そうですね。でも、研究者としては超一流なんですよ」

苦笑いしながらも、強く否定できないようにホウミが言った。

「それはそうかもしれないけど、私には無理だな。依頼者だと割り切ったとしても、ぶん殴ってやりたいと何度思ったか」

「すいません」

ホウミが謝る。

「別にあんたが謝る必要はないよ」

ファムは少し良い過ぎたかと思った。

「所長は良くも悪くもとても純粋な方なんです」

「純粋?」

リラがそう聞く。

「ええ、研究の事だけを第一に考えていて、何を犠牲にしても良いと考えているところがあります」

「それが危険なのでは?」

「それは否定できないんですけど、だからこその天才と言われるんです」

「だからって何でも許されるわけじゃないだろ」

「それも否定できません。でも、それだけの才能を持っているのも事実です。何よりも…」

「何よりも…?」

「犠牲にするのは、自分自身でさえ構わないと考えているところがあるのが凄いところです。普通、何を犠牲にすると言っても、自分の事までは出来ないです。だから、ここまでと言う線を自分で引いて、その範囲で収まろうとしてしまいます。でも、所長はそういうのが一切ないです。単純に研究のためと思えば、振り切ったところまで考える事が出来てしまうんです。それが危険だというのは分かるのですが、その一方で、研究者としてはそこまで振り切れる事に憧れてしまうんだと思います」

ホウミは少し遠くを見るように熱っぽく語った。

「そんなものかね」

少し圧倒されながらもファムはそう言った。

「もうひとつだけ言わせてもらえば、とても素直な方なんです。自分に正直で真っ直ぐで嘘はつかない。だから人の事を考えるよりも、自分の考えを言ってしまう、とても純粋な方なんです」

そういうと、ホウミはにっこりと笑った。
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