花の存在価値

花咲 葉穏

文字の大きさ
3 / 14
【鬼灯】

第3話 救援

しおりを挟む
『ミツさん、いい加減オペレーション聞いてくれますか?貴女が勝手な行動をすると、俺たちにまで出動命令がでるんですからね。いい加減自覚してください。あ、紫苑彼方しおんかなた、出動しました。』


三瀬林恩美花みせばやおみか、出動。射撃位置、配置つきました。』


 オペナビから聞こえてくる呆れ口調の男性と、淡々と任務をこなす落ち着いた女性の声。紫苑彼方しおんかなた、通称シオ。そして、三瀬林恩美花みせばやおみか、通称オミ。二人は私の部下にあたる存在だ。
 シオとは好んで話さないが、彼は特殊部隊の中でも特別器用なタイプだ。特殊部隊の保有している様々な武器を使いこなすことができる上に、多少はオペレーションも出来るようだ。基本的にスズランとの戦闘は銃を用いる。近距離では、不利なことが多い。例えば、防護服を着ていたとしても布が薄い部分はある。そこに噛みつかれてしまえば、スズランの毒が体内に回ってしまう。そのリスクを考えた場合、近距離の武器はカルミアとデイジー、そしてラベンダーにはまず渡されない。特殊部隊のみ、そういったリスクを負って近距離武器も渡される場合がある。シオもその一人。他に近距離武器を任されてるのは、ミツともう一人の私の同期、計三名に渡されている。優秀だからという理由ではなく、適正や本人の意思で決められる。シオはどういう理由か分からないが、今回の場合ミツが足でまといになっている為素直にありがたいと思った。
 そして、もう一人。向かい側の射撃位置へついた部下は、オミ。淡い桃色の髪はハーフツインテールで、平均女性よりも低めの華奢な体。性格は、社交的とはいえないが、素直な女性で嘘はつかない。シオに比べると器用とは呼べず、間違いなく不器用な部類だ。しかし、どのような相手でも平等に接することが出来る。オミには最愛の人がいるときいているが、最愛の人のみ特別でそれ以外はそれ以外としてまとめられているのかもしれないが。


『こんな事もあろうかと、予めシオとオミを呼んでいて正解だったわ。シオ、射撃で仕留め損ねたスズランをお願い。メイとオミは、上からの射撃で出来るだけ数を減らして。大体あと十分後ぐらいには、今のスズランより更に多い数が一気に押し寄せてくるわ。それまで、スズランをできるだけ減らして、一気にスズラン爆弾で片付けましょう。』


『ちょっとちょっとお~、おハル?あたしの役目のオペレーション忘れるなんて、そんな馬鹿なことあるのかしら?』


『えぇ…?それはミツさんが、初めに私のオペレーションが聞こえておらず、一人でスズランの所へ向かってしまったのでオペレーションが要らないのかと思って…。』
 

『全く、ミツさんのせいでスズラン区域から一番遠い俺とオミまで出動する羽目になったんですからね。』


 オペレーションを先に聞かなかったのはミツなのだが、指示をしなければしないで文句を言ってくる。そこへハルへの怒りの矛先を自分に向けるように、口を挟むシオ。これはハルのためというより、オペナビでぐだぐだされることが嫌だったのではないかと、私は予想した。


『あらぁ、別にいいじゃない~。どうせ休みなんて、みんな寝て過ごすだけでしょう?ぐうたら過ごすより、体を動かした方が健康的になれるわよ~。』


『それとこれは関係ないですよね?ミツさんがオペレーションを無視するから、無駄な工数が増えてるの理解できてます?その癖、オペレーションがなければキャンキャン吠えていい加減にしてください。』


 ぴしゃりと低い声で言い切る彼。珍しくシオが怒りを露わにした瞬間だった。あまりの気迫にオペナビを聞くメンバーは静まり返った。普段から彼は、のらりくらりとしていて掴みどころがない。へらへらとした張り付いたような笑みを常に浮かべていて、怒りという感情を出したところは見たことがなかった。そんな彼はまだ続ける。


『知ってますよ?ミツさんのやっていること。ナスタチウムのみんな、黙っててあげてるんです。…だって、みんな、お互い様なので。でも、そろそろ我慢出来ないんですよね。』


『ちょ、ちょっと、おシオ?何を、訳の分からないことを…。』


『何が訳が分からないのですか?オミも知っています。オミの大好きなあの人も、シオさんのご家族やハルさんの兄も、そしてメイさんも。みんなミツさんと関係がありますよね。まるで、何か弱みを握っていたかのように。』


 シオとミツの間に入り込んだのは、オミ。彼女の素直さは時に人を追い詰める怖さを持っていると思う。ミツの悪行を全て言ってしまえば、ナスタチウムも得をしない事は分かっている。それを踏まえた上で、彼女は発言しているのだろうか不安になる。しかし、賢いオミならわかった上で言っているのだろう。


『な、なによ揃いも揃って…。なんの事か全く分からないわ!ねえ、メイも何か言ったらどうなの!?』


『…私ですか。』


『ええ、貴女だって今ここで話されたくないことがあるのは分かってるのよ?』


 ミツへそう言われた途端、ゾッと背筋が凍った。私が話されたくないこと。それを知っているのは、ミツだけだ。ここでミツを庇えば、私は大切な仲間を失うかもしれない。しかし、それをこの場で話されたとしてもきっと皆は私の傍から離れていくのだろう。不甲斐なさから奥歯をぐっと噛み締めて、言葉を話そうとした瞬間、ヘリコプターの音が響き始める。そして、オペナビから状況に似合わない明るい声が聞こえてきた。


『おーい!ナスタチウムのみんな、聞こえてる?本部アルストロメリア所属、美和ましろびわましろ。出動しました!流石にナスタチウムのみんなでは対処出来ないぐらいの、大量のスズランが接近中だよ。今から、上空より射撃を開始します。住民達の町を壊したくなかったんだけどね、上からの指示なのでナスタチウムのみんなも安全な建物に逃げてくださーい!五分後には射撃開始します!』
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

処理中です...