花の存在価値

花咲 葉穏

文字の大きさ
5 / 14
【鬼灯】

第5話 記憶

しおりを挟む

***

 微睡みの中、母と父が心配そうにこちらを覗き込む。ここは、どこだろうか。


「芽唯!よかった、目を覚ましたのね?勝手に何処かに行ったと思ったら、火事の中から救出されてきて…。本当に心配したのよ!」


「芽唯、大丈夫か?痛むところは?」


「あ……。」


 泣き崩れる母と、母を支えながら声を掛けてくる父。そして、うまく喋ることが出来ずに掠れた声を出そうとする私。これは、私の幼少期の記憶。


「無理して喋らなくても大丈夫だ。目を覚ましてくれるだけでよかった。」


 そう、私は幼少期に親とはぐれてデパートの火事に巻き込まれた。あの頃の記憶は全くと言っていいほど無い。それは、医者曰く大きなショックから自分を守るために記憶を無くしてしまうものだと説明された。それは、今でも同じ。成長してもあの時の記憶だけは思い出せない。
 幼い私は辺りを見渡す。どうやら病室らしい。火事に巻き込まれたのだから、病室にいることも納得できる。そして、両親の奥にはテレビがあった。テレビをじっと見つめていれば、両親がそれを隠すようにテレビを消した。


「芽唯、あなたのせいじゃないからね…。あなたは、何もわるくないの…。」


「母さん…。でも、いずれ知ることになるんだ。ちゃんと話しておかなければ、芽唯は今後更にショックを受けてしまうかもしれない。」


「でも!あんなの今の芽唯には刺激が強すぎるわ!ようやく目を覚ましたのに、そんなに急いで真実を伝えなくたっていいじゃない!」


「おか…ぁ、さん…。お、し……。」


 母は幼い私にはまだ早いと言い、大事なことを隠そうとしていた。父は後から知る方がショックを受けるだろうと考え、先に教えようとしていた。そして、当時の私も幼いながらに何があったのか真実を知ろうとした。それに母は尻込みした。声は未だに出ないようで、掠れた声でおしえてほしいと伝えようとしている。そこで、父が決心した様子で口を開いた。


「芽唯、落ち着いて聞くんだ。これは、絶対に芽唯のせいじゃない。誰がなんと言おうと、芽唯はわるくない。」


「お父さん…、やめて…。まだ芽唯には言わないで…。」


「芽唯は本当のことを知りたがっている。ここで俺たちが教えなければ、誰かから教えられて芽唯は更に傷付くことになる。…いいか、芽唯。…あの火事で、生き残ったのは、芽唯。…お前だけだ。」


***


「起きてください!メイさん!!」


「…っ!」


 気に食わない男性の声が聞こえる。重たい瞼をゆっくりと開くと、何故か心配そうに見つめてくるシオ。そして、普段の凛とした様子が崩れ悲しそうな表情を浮かべるオミ。とりあえず起き上がろうとすると、体が思うように動かずにオミに支えられ上半身だけ起こしてもらった。


「あまり動かないでください。メイさんは死にかけていたのです。」


「……あぁ、思い出した。首を誰かに絞められて…。あっ!入り口は!?ミツは!?スズランは!?」


「えぇ…、自分の命より任務の方が大事なんですか?ドン引きです。」


「メイさんらしいですね。ミツさんは、そこに縛られていますよ。入り口については、オミとシオさんで施錠しました。射撃はまだ開始されていません。」


 シオに引いた目で見られたが、任務の方が勿論大事だと思っている。入り口が施錠されなければ、シオやオミの命まで危険に晒されるのだから。しかし、オミに関しては私らしいと言ってくれた。やはり、オミはいい部下だと思う。私からの問いかけに全て答えてくれたのだが、ミツが縛られているということに疑問を持った。


「なんでミツは縛られているの?」


「それは、メイさんを殺そうとした犯人候補だからですよ。」


「シオさんは、オミと最上階に行ったのですがオペナビを聞いてメイさんの元へ向かいました。シオさんはメイさんなら、ハルさんの指示に従う為にミツさんを探しに行こうとするだろうと予想していました。その場合、入り口を守る人がいた方がいいと思ったようです。」


「オミの言う通り。それで、下についた時黒いローブを被った人がメイさんの首を絞めていたのを見つけました。俺に気付いた黒いローブの犯人は、直ぐに外に逃げたので追いかけることは出来ませんでしたが…。犯人が逃げて少しした後に、ミツさんがふらっと現れたんです。怪しいので、念の為縛っておきました。」


「オミもそうした方がいいと思いました。それは、犯人がミツさんであっても、ミツさんでなくても、今までどこに居たのか怪しい行動が目立ったからです。」


「なるほどね、二人ともありがとう。」


 部下二人とは、いい関係を保てているかと問われれば曖昧な所だった。ナスタチウムという特殊勢力で出会わなければ、二人とも仲良く過ごせたのかもしれないが。二人に縛られ、口にガムテープを貼られているミツの方へ目を向ける。随分と焦った様子で縄から抜け出そうとしている。大人しくしていれば、犯人じゃないと証明出来たかもしれないのに。今の彼女を見ていれば、それは彼女自身が犯人だと言っているような行動としか思えなかった。


「ミツさん。─────裁きの時間です。」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

シャーロットの仮説

ariya
ミステリー
ルイスは出版会社に勤務し始めたばかりの新人編集者。 彼が担当することになったのは、人気作家チャールズ・イヴァノヴィッチだった。 しかし作家は極度の引きこもりで、打ち合わせに現れたのは代理人だという女性だった。 紫の瞳を持つ、どこか不思議な雰囲気のシャーロット。 二人が打ち合わせをしていた喫茶店で事件が起こる。 ※ミステリーを書いてみたいと思い、挑戦した作品です。 ※架空の帝国「ケルトニカ帝国」を舞台にしたミステリー

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

処理中です...