花の存在価値

花咲 葉穏

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【鬼灯】

第5話 記憶

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***

 微睡みの中、母と父が心配そうにこちらを覗き込む。ここは、どこだろうか。


「芽唯!よかった、目を覚ましたのね?勝手に何処かに行ったと思ったら、火事の中から救出されてきて…。本当に心配したのよ!」


「芽唯、大丈夫か?痛むところは?」


「あ……。」


 泣き崩れる母と、母を支えながら声を掛けてくる父。そして、うまく喋ることが出来ずに掠れた声を出そうとする私。これは、私の幼少期の記憶。


「無理して喋らなくても大丈夫だ。目を覚ましてくれるだけでよかった。」


 そう、私は幼少期に親とはぐれてデパートの火事に巻き込まれた。あの頃の記憶は全くと言っていいほど無い。それは、医者曰く大きなショックから自分を守るために記憶を無くしてしまうものだと説明された。それは、今でも同じ。成長してもあの時の記憶だけは思い出せない。
 幼い私は辺りを見渡す。どうやら病室らしい。火事に巻き込まれたのだから、病室にいることも納得できる。そして、両親の奥にはテレビがあった。テレビをじっと見つめていれば、両親がそれを隠すようにテレビを消した。


「芽唯、あなたのせいじゃないからね…。あなたは、何もわるくないの…。」


「母さん…。でも、いずれ知ることになるんだ。ちゃんと話しておかなければ、芽唯は今後更にショックを受けてしまうかもしれない。」


「でも!あんなの今の芽唯には刺激が強すぎるわ!ようやく目を覚ましたのに、そんなに急いで真実を伝えなくたっていいじゃない!」


「おか…ぁ、さん…。お、し……。」


 母は幼い私にはまだ早いと言い、大事なことを隠そうとしていた。父は後から知る方がショックを受けるだろうと考え、先に教えようとしていた。そして、当時の私も幼いながらに何があったのか真実を知ろうとした。それに母は尻込みした。声は未だに出ないようで、掠れた声でおしえてほしいと伝えようとしている。そこで、父が決心した様子で口を開いた。


「芽唯、落ち着いて聞くんだ。これは、絶対に芽唯のせいじゃない。誰がなんと言おうと、芽唯はわるくない。」


「お父さん…、やめて…。まだ芽唯には言わないで…。」


「芽唯は本当のことを知りたがっている。ここで俺たちが教えなければ、誰かから教えられて芽唯は更に傷付くことになる。…いいか、芽唯。…あの火事で、生き残ったのは、芽唯。…お前だけだ。」


***


「起きてください!メイさん!!」


「…っ!」


 気に食わない男性の声が聞こえる。重たい瞼をゆっくりと開くと、何故か心配そうに見つめてくるシオ。そして、普段の凛とした様子が崩れ悲しそうな表情を浮かべるオミ。とりあえず起き上がろうとすると、体が思うように動かずにオミに支えられ上半身だけ起こしてもらった。


「あまり動かないでください。メイさんは死にかけていたのです。」


「……あぁ、思い出した。首を誰かに絞められて…。あっ!入り口は!?ミツは!?スズランは!?」


「えぇ…、自分の命より任務の方が大事なんですか?ドン引きです。」


「メイさんらしいですね。ミツさんは、そこに縛られていますよ。入り口については、オミとシオさんで施錠しました。射撃はまだ開始されていません。」


 シオに引いた目で見られたが、任務の方が勿論大事だと思っている。入り口が施錠されなければ、シオやオミの命まで危険に晒されるのだから。しかし、オミに関しては私らしいと言ってくれた。やはり、オミはいい部下だと思う。私からの問いかけに全て答えてくれたのだが、ミツが縛られているということに疑問を持った。


「なんでミツは縛られているの?」


「それは、メイさんを殺そうとした犯人候補だからですよ。」


「シオさんは、オミと最上階に行ったのですがオペナビを聞いてメイさんの元へ向かいました。シオさんはメイさんなら、ハルさんの指示に従う為にミツさんを探しに行こうとするだろうと予想していました。その場合、入り口を守る人がいた方がいいと思ったようです。」


「オミの言う通り。それで、下についた時黒いローブを被った人がメイさんの首を絞めていたのを見つけました。俺に気付いた黒いローブの犯人は、直ぐに外に逃げたので追いかけることは出来ませんでしたが…。犯人が逃げて少しした後に、ミツさんがふらっと現れたんです。怪しいので、念の為縛っておきました。」


「オミもそうした方がいいと思いました。それは、犯人がミツさんであっても、ミツさんでなくても、今までどこに居たのか怪しい行動が目立ったからです。」


「なるほどね、二人ともありがとう。」


 部下二人とは、いい関係を保てているかと問われれば曖昧な所だった。ナスタチウムという特殊勢力で出会わなければ、二人とも仲良く過ごせたのかもしれないが。二人に縛られ、口にガムテープを貼られているミツの方へ目を向ける。随分と焦った様子で縄から抜け出そうとしている。大人しくしていれば、犯人じゃないと証明出来たかもしれないのに。今の彼女を見ていれば、それは彼女自身が犯人だと言っているような行動としか思えなかった。


「ミツさん。─────裁きの時間です。」
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