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【鬼灯】
第7話 鬼灯の過去
しおりを挟む私は、その一文を見て資料を持つ手に力が入った。放火犯ということは、私が巻き込まれた火事は偶然ではなく火を放った人物がいるということ。それに、鬼灯満代は、少なからず疑いが向けられている人物ということ。資料に目を戻すと、あかゆりデパートの関係者との繋がりが記されていた。
まず、あかゆりデパートの社長である人物。既婚者であり幼い娘が居たにも関わらず、鬼灯満代に資産目当てで近付かれ浮気。そして、そのまま離婚。娘は娘の要望で父親について行ったが次第に育児放置気味となり、母親に引き取られた。その後、鬼灯満代は社長である人物にプロポーズされる。しかし、鬼灯満代は自分の夢が叶うまでは結婚はできないと告げプロポーズを断った。それでも諦めきれない社長は、鬼灯満代の夢の手助けの為に資金を定期的に数百万単位で手渡ししていた。その行動は数年にわたり、渡せる資金がないと断られた逆恨みをしているのでは無いかという推測が記載されている。
その他に、あかゆりデパート内某有名アパレル店員。同じように男性店員に資金目当てで近づき、同様の犯行手口で現金を奪い取る。男性店員は、鬼灯満代の期待に応えるため資金を集めるためにオーバーワークとなった。残業代を稼ぐ事で資金を集め、鬼灯満代にお金を渡すが、後に過労死で亡くなってしまった。オーバーワークの原因となった人物の容疑者としても、鬼灯満代はリストアップされている。
そして、あかゆりデパートの近辺に暴力団関係者のアジトがあるらしい。そこの暴力団関係者の一人が鬼灯満代に一目惚れ。それを利用しようとした鬼灯満代は、暴力団の保有する資金を狙って暴力団とも繋がりを得た。暴力団関係者の一人は、ある事件に巻き込まれていたようだが手書きで別資料参照と書かれている。
「そして、資金横領が会社にばれた鬼灯満代は自暴自棄となりあかゆりデパート放火に至ったと推測。…なるほどね。」
私は、鬼灯満代の資料を長い時間を費やしてできる限り重要そうな事件のみ頭に入れた。しかし、覚えきれない分はアルストロメリアの保管庫に来る機会があればいつでも見ていいと言われた。そして、その他のナスタチウムのメンバーの資料を数週間かけて頭に叩き込んだ。
***
「ミツ、貴女はあかゆりデパートの火災放火犯の容疑者の一人となっていますね。」
「……やっぱりあの火災は、偶然じゃなかったんですね。」
シオが恨めしそうに小さくボソッと呟いた。これに関しては、ミツの資料を見ただけでは理由は分からない。今はシオより、ミツの裁きが優先だ。
すると、エレベーターが何故か動き出し一番下の階で止まり上がってくる。まさか、入り口が破壊されスズランが中に入り込んだのだろうか。その場にいるミツを除く全員が、各々武器を構えてエレベーターの扉を凝視する。シオは、エレベーターの扉のすぐ隣でしゃがんで待機をした。オミはエレベーターから少し離れた柱の影に隠れ、銃を構える。そして、私は身動きの取れないミツを庇うように前に出て銃を構えた。エレベーターはどの階層でも止まる事無く、徐々に私たちの階層に近付いてきている。
仮にスズランだったとして、スズランに知能は無い。エレベーターでどこにも止まらず、最上階であるこの階層に向かってくるはずがない。もし、それが出来るのだとすれば新種のスズラン。その場合、アルストロメリアへの報告が必要になる。面倒事は御免だ。逃げ遅れた市民の誰か、もしくはアルストロメリアの人間であって欲しいと願う。万が一戦闘になった場合は、エレベーター近くで待機しているシオや少し離れたオミが攻撃するだろう。しかし、それでは意味が無い。入り口が破壊されているのであれば一刻も早くこの場から逃げなければいけない。アルストロメリアならば、私たちの命など関係なくそのままこの建物まで射撃するだろう。
みんなこんな所で死ぬ気は一切無い。それぞれがどれだけの罪を犯していても、僅かな希望に縋り足掻いて、ようやく手にした居場所がナスタチウムだ。どんな形であれど、みんなは罪を償うために今度こそ道を踏み外さないように、ナスタチウムで活躍し人々の命を守ろうとしているのだから。一度犯した罪は消えない。罪を犯した人の胸や、誰かの記憶に残り続け一生恨まれていく。償っても消えない罪悪感に押しつぶされないように、私たちは私たちで変わろうとしている。誰かに許してもらいたい訳では無い。誰かの役に立ちたい訳じゃない。それぞれが、誰かのために、自分のためにこの罪を一生背負って死ぬ時まで苦しむためにこの場所にいるのだから。
そして、私たちの階層で止まり扉が開き始める。扉の中には、両手をあげてその場で一歩も動かないナスタチウムのもう一人の隊員がいた。
「はぁ~、こわいこわい。お願いだから、銃を下げてくれる?…あんたたちオペナビをずーっと付けっぱなしにしないでよね?あたしの名前が聞こえたからうっかり出動しちゃったじゃない。─────赤百合天音、出動。」
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